労働条件引き下げを目的とした解雇をめぐる動き

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2021年8月

コロナ禍が続く中、企業が労働条件の引き下げを目的に、従業員を一旦解雇のうえ再雇用する動きが広がっているとされ、一部では労働組合によるストライキが発生するなど、論議を呼んでいる。

10人に1人が直面している可能性も

新型コロナウイルスの感染拡大防止策の影響を受けて、2020年通年の成長率はマイナス9.8%と大きく落ち込んでおり、この間、多くの企業が業績の悪化に直面したとみられる。政府が企業支援策として早期に導入した雇用維持スキームの効果もあり、雇用指標の推移は景気動向に比して緩やか(注1)ではあるものの、営業制限などが断続的に続く中で、様々な層が影響を被っているとみられ、対応の必要性が議論されている。

その一例として、企業が労働条件の引き下げを目的に、従業員に解雇を通告、異なる条件に合意する場合のみ再雇用する動きが広がっているとされ、論議を呼んでいる。公式のデータはないものの、例えばイギリス労働組合会議(TUC)が1月に公表した調査結果(注2)では、雇用主からこうした通告を受けた労働者は回答者全体の9%にのぼり、若年層や社会経済的地位が相対的に低い層、また人種的マイノリティなどで比率が高いとされる(注3)

こうした手法は、従来から小売業などで散見され、適正な手続きを踏まえれば(注4)それ自体としては違法ではないものの、批判を集めている理由の一端は、企業がコロナ禍によるロックダウンや労働者の雇用への不安感に乗じて、一方的な労働条件の引き下げをはかっている、とみられている点にある(注5)。労組や野党議員などは、こうした手法の規制に向けた法改正を政府に要求している。

政府もこうした状況を受けて、労使紛争の斡旋等を行う公的機関ACASに、現状把握のための報告書の作成を依頼。ACASは2月には報告書を政府に提出したとみられるが、これまでのところ内容は公表されていない。

数百人規模の解雇も

現地報道では、宿泊業やビジネスサービス、あるいは運輸業など、多様な業種での事例が報告されているが、その規模の大きさから、代表的な事例の一つとして注目を集めているのが、ブリティッシュ・ガスにおける労使紛争だ。親会社にあたるセントリカ社は2020年6月、雇用契約の「簡素化」を目的に掲げ、従業員2万人余りを解雇のうえ、新たな雇用契約に合意する場合のみ再雇用を行うとの方針を示した(注6)。ここ数年の顧客の減少に加え、コロナ禍によるさらなる減収に備える必要を同社は主張していた。

同社の従業員を組織する複数の労働組合は当初、これに反発していたが、交渉を通じて大半が使用者側と合意に達し、2月時点では従業員の8割が新たな雇用契約の内容を受け入れていたとされる。労働条件の変更内容に関する詳細は不明だが、現地報道によれば、週当たり労働時間の37時間から40時間への延長や、時間外割増手当の削減などを含むとみられる。一方、主にエンジニア(顧客先でボイラー等の修繕などを行う)やコールセンターの従業員を組織する労組GMBは、経営側の示す案を拒否して断続的にストライキを実施。期限とされていた3月末にも、所属するエンジニア1000人前後が合意に達することができず、最終的には4月半ば、数百人のエンジニアが解雇されたとみられる。

参考資料

2021年8月 イギリスの記事一覧

関連情報