労働者の職場への復帰の状況
コロナ禍の影響が次第に落ち着きを見せ始める中、雇用維持を目的とした政府の賃金補助策も対象者が次第に縮小しつつある。しかし、ロックダウンの終息により労働者の職場への復帰が進めば、再び感染拡大を招きかねないとして、シンクタンクは自主隔離中の所得補償の拡充を政府に求めている。
雇用維持スキームの対象者が減少
歳入関税庁が6月初めに公表したデータによれば、一時帰休中の従業員について政府が賃金の8割を補助する「雇用維持スキーム」の適用対象者は、年初に導入された3度目のロックダウンの影響で一時は500万人を超えて増加したが、以降は減少が続いており、4月末時点で344万人(全就業者のおよそ1割)と、前月の432万人からは2割(88万人)減少している。2020年4月の制度導入以降、労働者およそ1150万人が適用を受け、支給総額は640億ポンドにのぼるとされる(注1)。
ただし、状況は業種別に大きく異なるとみられる。統計局が新型コロナウイルスの影響に関連して定期的に公表している企業調査データによれば、芸術・娯楽・レクリエーション業やその他サービス業の労働者の26%、また宿泊・飲食業では21%が一時帰休の状態にある(図表)。また、産業全体では労働者の約6割が職場に戻っているほか、約3割が職場以外(在宅等)で就業しているが、一時帰休の労働者比率が高い業種では、職場以外で就業する労働者の比率は相対的に小さい傾向にある。
スキームは当初、2020年10月末をもってより補助率の低い制度への転換が予定されていたが、感染状況の再拡大を受けて延長され、最終的に今年9月末に終了する見込みだ(注2)。
図表:労働者の就業状況 (単位:%)
- 注:調査対象期間は5/3~16。
- 出所:Office for National Statistics ‘Business insights and impact on the UK economy: 3 June 2021’
自主隔離中の所得補償を
年初からのロックダウンは、段階的な緩和が行われ、6月下旬には解除するとの目標が掲げられており、これに伴い、政府が現在行っている在宅就業の奨励も終了が見込まれている。これに関連して、シンクタンクのResolution FoundationとNuffield Foundationが共同で公表した報告書は、労働者の職場への復帰が進む結果として感染が再拡大するリスクを指摘している。報告書は、現在、病気による休業の際の所得補償が不十分であるために、新型コロナウイルスへの感染が疑われる症状が出た場合や、検査結果が陽性となった場合等に、労働者が必要な自主隔離を行わずに働き続けかねないリスクを指摘。例えば、政府が提供する追跡アプリケーションで感染の可能性が認められた場合、500ポンドが支給される制度があるが、所得制限等により適用を受けられるのは労働者の8人に1人で、自治体への申請を要するほか、子供が自主隔離の対象となった場合に適用を受けることができない、といった問題があるとしている。報告書はこのため、休業に対する給付水準を引き上げることを提言している。
注
- いずれも申請ベース。(本文へ)
- なお、7月以降は補助率が順次引き下げられ(7月に7割、8月・9月には6割)、差分が雇用主負担となる予定。
また、並行して実施されている自営業者向けの所得補償スキームも、9月まで継続の見込み。(本文へ)
参考資料
- Gov.uk
、Office for National Statistics
、Resolution Foundation
、Nuffield Foundation
、The Guardian
ほか 各ウェブサイト
参考レート
- 1英ポンド(GBP)=152.80円(2021年8月10日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
2021年8月 イギリスの記事一覧
- コロナ禍の若者・低賃金層などの雇用への影響
- 労働者の職場への復帰の状況
- 労働条件引き下げを目的とした解雇をめぐる動き
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