不安定就業者に最低労働時間の保障を求めるキャンペーン

カテゴリー:労働法・働くルール多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2019年12月

生活賃金運動を主導するLiving Wage Foundationは、労働時間や収入が不安定な就業者に、安定性を保障することを目的とするキャンペーン「Living Hours」を立ち上げた。生活賃金を導入している雇用主に対して、週当たりの最低労働時間の保障やこれに基づく賃金の支払いのほか、最低でも4週間前にはシフトを通知することなどを求める。

就労者の6人に1人が生活賃金未満

生活賃金は、最低限の生活水準を維持するための生活費から算定された賃金額(注1)を設定し、雇用主に自主的な導入を働きかけるものだ。Living Wage Foundationによれば、国内で5000あまりの雇用主が参加しており、過去20年弱の間に20万人の賃金引き上げに寄与したという。

しかし、近年の好調な雇用状況の一方で、就業者の貧困はむしろ拡大しているという。Living Wage Foundationの分析によれば、国内の就業者の6人に1人、510万人相当が不安定な働き方によって生活賃金未満の状態にある不安定就業者だ(注2)。とりわけ若年層(16-24歳層)では、就業者(低収入の自営業者を除く)の22%がこうした状況に直面しているとされ、彼らは将来的にも低賃金労働に留まり続ける可能性が高いとみられている(注3)。また業種別には、農林漁業(49%)、運輸・倉庫・通信業(33%)、保健・介護業(24%)、ホスピタリティ業(21%)、卸売・小売業(18%)などで比率が高い。

不安定就業者が仕事からの収入で生活を維持できるか否かには、労働時間の量やその安定性が影響している。特に近年、仕事があるときだけ働いてその分の賃金を支払う契約(zero hours contract)や、ごく短時間(tiny hours)の契約など、使用者側の一方的な柔軟性のための働き方が拡大しており、金銭的な不安定さと就労者の貧困を悪化させているとみられている。生活賃金未満の賃金水準の就業者のうち100万人が、賃金や労働時間が変動しやすい状況にあり、さらに130万人は、賃金自体は定期的に支払われるものの、労働時間が予想しにくいために、他の予定や生活費のやりくりをしにくい状況にあるとされる。週当たりの労働時間の保障が16時間を下回る労働者は全国で27万人、うち3分の2が女性である。低賃金就業者に占める不安定就業者の比率は男女ともさほど違いはないものの(男性16%、女性15%)、男性の多くが低収入の自営業者であるのに対して、女性は賃金や労働時間の一方的な変更に影響を受けることが多いとされる。

週16時間の最低労働時間や賃金の保障など

Living Wage Foundationは、不安定就労者に一定の安定的な仕事や収入を保証する方策をめぐって、労使を含む1000以上の関係者からの意見聴取(注4)などを踏まえて最低基準を検討の上、新たなキャンペーン「Living Hours」を6月に開始した。

参加雇用主には、大きく2点が求められる。1つは、シフトの事前通告の時期を最低でも4週間以上前とするものだ。もしシフトがキャンセルされた場合には、予定されていた労働時間相当の賃金を支払うことを含む。もう1つは、週16時間の最低労働時間の保障で、実際に仕事に従事した時間がこれを下回る場合も、16時間分の生活賃金を支払うこととされる(労働者が希望しない場合はこの限りではない)。併せて、実際の労働時間に沿った契約の見直しを要請する権利を労働者に認めるよう、Living Wage Foundationは求めている(初回は就業開始から12週後、そのあとは1年毎を提案)。

これらの最低基準の設定に際しては、業種や企業規模による多様性を考慮する可能性も検討されたものの、基準としての効果を弱めることへの懸念から、基準の変更は行わないとの結論に至ったという。ただし、小規模企業など導入が難しい雇用主に対しては、支援方法をよく検討するとしている。

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