不安定就業者の保護に関する制度改正案を公表

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  • 国別労働トピック:2019年12月

政府は7月、不安定な働き方の就業者の保護に向けた制度改革に関するコンサルテーション(一般向け意見聴取)を開始した。予め決まった労働時間がなく、使用者の都合により仕事があるときだけ働いてその分の賃金を得るために、仕事や収入が不安定になりがちな労働者について、適切なシフトの通知時期の設定や、直前のキャンセルに対する補償制度の導入などが方針として示されている。

使用者の「一方的な柔軟性」に対策

コンサルテーションは、政府の諮問により専門家が2017年にまとめた、不安定な働き方の就労者の保護に関する一連の提言(注1)を受けたものだ。専門家は、柔軟な働き方が労働者と使用者の双方にもたらす利益を強調しつつ、柔軟性に伴う仕事や収入の不安定さを労働者が一方的に引き受ける、「一方的な柔軟性」は公正さを欠いているとして、こうした働き方により高い最低賃金額(プレミアム最低賃金)を設定するなど、制度改正による対応の必要性を主張していた。政府はこれについて、最低賃金制度の諮問機関である低賃金委員会に、実態や具体策の検討を諮問。低賃金委員会は、労使団体や使用者などの関係者に対するヒアリングを実施した上で、勤続期間を要件により安定した仕事への移行を求める権利や、シフトの通知時期の設定、直前のキャンセルに対する補償制度の導入などを提案した。一方で、専門家が提言するプレミアム最低賃金や、ヒアリングで要望が聞かれた最低時間保障(最低限の労働時間を保障、実労働時間がこれを下回る場合には、設定された労働時間に対応する賃金を支払う)の制度化については、実効性や運用面の問題を挙げて慎重な立場を示した。

今回のコンサルテーションは、このうちシフトの通知時期の設定と、直前のキャンセルに対する補償制度の導入を前提に、制度の具体化に向けて意見を募る内容だ。前者については、それぞれについて、運用に関する現状のほか、適切なシフトの通知時期や、権利付与のタイミング(勤続期間要件の設定の是非)、適正な保障業種・労働者の種類等で異なる条件を設定すべきか、罰則の設定、あるいは想定される影響などについて尋ねている。また併せて、関連制度に関する雇用主向けのガイドラインや好事例の共有の方法についても、意見を求めている。

EU法に基づく権利には暗雲も

専門家の多岐にわたる提言を受けた取り組みとしては、4月にも複数の制度改正が行われたところだ。これには、雇用主に対して労働者の就業初日から雇用条件の書面による通知を義務付けることや、雇用主による悪質な法律違反に対する罰金額の上限の引き上げ(注2)、派遣労働者の均等取扱いについて逸脱を認める制度の廃止(注3)などが含まれている。このほか、単一の労働監督機関の設置や、育児休業から復帰した労働者の保護の拡充(解雇を不公正とする期間の延長)など、関連のコンサルテーションが相次いで実施されており、継続的な各種制度の見直しが予想される(注4)

一方で、現地メディアが伝えるところによれば、政府内部には、イギリスのEU離脱が実現した場合、これまでEU法に基づいて整備されてきた雇用法上の権利について見直しを行い、労働市場に科されてきた重い規制を取り除くべきであるとの意見が聞かれるという(注5)。政府は従来、該当する既存の法律は国内法として継続するとの方針を示していたが、これが覆される形だ。EU法に基づいて整備、拡充されてきた雇用関連の法制度は、労働時間規制や育児休業制度、パートタイム労働者や有期労働者、派遣労働者に関する均等取扱いなど多岐にわたり、もし見直しが実施される場合、多くの労働者が影響を被る可能性がある。

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