日系企業の社会保険料負担が軽減
 ―「日・中社会保障協定」発効

カテゴリー:外国人労働者労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2019年11月

中国に長期間派遣される会社員に対して、近年は日本と中国の両国で社会保険の支払い義務が生じていたが、本年9月、二国間の社会保障協定が発効し、年金制度にかかる重複した支払い義務が免除されることとなった。これにより、社会保険にかかる企業側の負担は大幅に軽減される。

社会保険の二重徴収

2011年7月に修正・施行された「中国社会保険法」により、中国で就業する外国人も社会保険に加入することが規定された。これを具体化する法律として、同年10月「中国国内で就業する外国人の社会保険加入に係る暫定弁法」が施行され、中国における外国人就労者は、中国の社会保険である従業員養老保険(注1)、医療保険、労災保険、失業保険、出産育児保険の5種類の保険に加入することが義務づけられた。就労者は、中国で社会保険個人口座を開設し、派遣期間満了後、本人の申請によって個人口座の積立金が還付されるが、企業の納付した社会保険料の還付は認められなかった。結果として、社会保険の企業負担分は二重徴収となり、企業にとって大幅なコスト増であった(表1)。

表1:中国2都市における社会保険料の企業・個人別負担額(2018年)
都市 納付基数の上限額
(元/人・月)
負担者 養老保険 医療保険 失業保険 労災保険 出産育児保険 負担金額
(元/人・月)
北京 25,401 企業 19% 10% 0.8% 0.5% 0.8% 7899.71
個人 8% 2% 0.2% 0 0 2601.10
上海 21,396 企業 20% 9.5% 0.5% 0.2%-1.9% 1% 6675.55~8002.10
個人 8% 2% 0.5% 0 0 2246.58

出所:各地域人力資源・社会保障局

社会保障協定

この問題を解消するため、2018年5月、「社会保障に関する日本国政府と中華人民共和国政府との間の協定」(日・中社会保障協定)が署名され、2019年9月1日に発効した。協定により、日本と中国それぞれの相手国に派遣された駐在員は、派遣先での年金制度にかかる保険料が免除される。

中国政府は、このような二国間社会保障協定を、日本を含めた11カ国(ドイツ、韓国、デンマーク、フィンランド、カナダ、スイス、オランダ、フランス、スペイン、ルクセンブルク)と締結している。

日・中社会保障協定は、中国では被用者基本老齢保険(従業員養老保険)に対して、日本では国民年金と厚生年金に対して適用される(国民年金基金と厚生年金基金を除く)。適用者は被用者およびその家族で、自営業者は対象外。具体的には、①協定の相手国へ派遣される者;②海上航行船舶または航空機において就労する被用者;③外交使節団及び領事機関の構成員並びに公務員;④その配偶者及び子、などである。派遣先国における社会保険(年金)の免除期間は5年であるが、延長申請に基づき両国実施機関の合意が得られれば、期間延長が認められる。ただし、これも原則5年を越えない。

協定によってすべての社会保険が免除されるわけではないが、社会保険で最大の比率を占める年金保険料の二重払いが解消されることで、一定の負担減が実現する。表1・2から北京市を例にとると、2018年の養老保険料(企業負担分の19%)は、最大月額4826元(約7.4万円)であったが、協定発効後の2019年現在、養老保険料(同16%)は最大月額3770元(約5.8万円)で、これが個人負担分と合わせ免除される(注2)

表2:中国の都市別養老保険(年金)の負担免除額(推算)(2019年)
都市 納付基数の上限額
(元/人・月)
養老保険料率 保険料の負担免除額
(推算)(元/人・月)
企業 個人
北京 23,565 16% 8% 5,655.60
天津 17,613 16% 8% 4,227.12
大連 14,403 16% 8% 3,456.72
上海 24,633 16% 8% 5,199.92
広州 19,014 14% 8% 4,183.08
深セン 19,014 13% 8% 3,992.94

出所:各地域人力資源・社会保障局

参考文献

  • 中国政府網、人力資源と社会保障部、中国国家統計局

参考レート

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