カリフォルニア州ギグ法
 ―プラットフォームビジネスに雇用を

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  • 国別労働トピック:2019年7月

2018年5月30日、カリフォルニア州下院議会は、州労働法典改正案、通称ギグ法案を53対11の賛成多数で可決した。法案は2018年4月にカリフォルニア州最高裁が行ったダイナメックスオペレーションウェスト社対最高裁における判決で導入された個人請負労働者の厳格な認定のためのテストを州法化するためのものである。

ダイナメックス・テスト

法案はカリフォルニア州の労働組合などによって組織される労働組合協議会が支援するロレーナ・ゴンザレス議員を中心とする複数の民主党議員によって提案された(Assembly Bill 5;AB5)。2018年4月にカリフォルニア州最高裁判所が個人請負労働者を厳格に認定するためのテスト(ABCテスト)を州の労働法典として成文化することが目的である。

このテストは、(A)業務手法について請負元から指示を受けているかどうか 、(B) 事業の範囲外の職務に従事しているか否か、(C) 労働者は独立して確率した役割に従事しているかどうかの三点からなる。請負労働者と雇用労働者を峻別するための手法には1989年に導入されたボレロテストがカリフォルニア州にある。ABCテストはこのボレロテストで請負労働者とされていた範囲を狭めて雇用労働者へと修正するものである。

ABCテスト導入のきっかけは、トラック輸送を営むダイナメックスオペレーションウェスト社が個人請負労働者として活用していたトラック運転主が実質的には同社に雇用されている状態にあるかどうかを争う訴訟をきっかけとする。そのことにちなみ、ダイナメックス・テストとも呼ばれる。

行政による規制

カリフォルニア州に限らず、米国では本来は雇用労働者であるにもかかわらず、事業主が経費削減を目的として請負労働者とする誤分類(Misclassification)が横行している。この傾向は、スマートフォンのアプリケーションで利用者と個人請負労働者をつなぎ合わせるプラットフォームビジネスの躍進により拡大の途上にある。

事業主にとって個人請負労働を活用するメリットは、最低賃金や超過勤務手当を支払わなくてよいほか、失業保険や健康保険、年金、労災保険といった社会保障費用を負担しなくてよいこと、手待ち時間の賃金を負担しなくて良いこと、職務遂行にあたっての道具の経費を負担しなくてよいことというように多岐にわたる。

労働者の立場にたてば、雇われていれば手にできる賃金が失われるとともに社会保障費用が自己負担となる。雇われていれば労働組合を組織して事業主と交渉することによって手にできたか労働条件向上の機会も失う。

誤分類の問題はそれだけではない。政府としては税収の低下を招くことになる。人件費に関連した税は人件費総額にかけられる。労働者一人一人にかけられる日本と異なる。事業主からすれば人件費総額を圧縮すれがそれだけ税負担が減ることを意味する。加えて、誤分類によって請負とされた労働者は定収入であることが多いため、こうした労働者が、生活保護が必要になるといった場合に政府が一方的に負担しなければならないことになる。ギグ法を推進する民主党州下院議員は、労働者と州政府双方の損失が年80億ドルにのぼると指摘しているが、今回の法改正の趣旨には、伸長が著しいプラットフォームビジネス事業者に対する社会的コストの負担を応分に追わせるという意味も込められている。

プラットフォームビジネスに打撃

下院議会を通過した法案は上院に送られ、審議ののちに8月に採決を迎える予定である。法案は民主党が推進している一方で共和党が反対しているが、州上院議会は定数40のところ、民主党29、共和党11であり上院でも可決される見通しは高い。

州法にダイナメックス・テストが取り込まれれば、誤分類の修正は判例を経ずして自動的に厳格に修正されることになる。これは個人請負労働者に頼ってきたプラットフォームビジネス大きな打撃となるため、議会の場で法案の修正においてせめぎ合い続いている。現在のところ、内科医、外科医、証券ディーラーなどがテストの適用除外とされ、その範囲が拡大されるかどうかが焦点となっている。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

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