連邦労働省がホワイトカラー・エグザンプションの要件を提示

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2019年3月、連邦労働省はホワイトカラー・エグザンプションの対象となる残業代支給対象から除外される労働者の年収要件を3万5千ドルとすることを正式に提示した。

2014年からの議論

公正労働基準法(FLSA)は、週40時間を超える労働時間について通常の5割増の賃金の支払いを雇用主に義務付けている。一部の労働者を残業代支給対象から除外する行政規則がFLSAには織り込まれている。真正な管理職(executive)、運営職(administrative)、専門職(professional)の資格(capacity)で雇用される労働者が該当する。

具体的には、一定以上の俸給額が支払われているかどうか(俸給水準)、賃金の支払い方が一時間あたりではなく月給であるかどうか(俸給基準)、管理や経営および専門知識を必要とするものであるかどうか(職務要件)という三つの要件を満たすことが必要である。

ブッシュ政権下の2004年までは、残業代支給対象から除外するにあたり、職務要件について訴訟となることが多く、実際の運用には雇用主の負担が大きかった。ブッシュ政権下の改革はこの規則を運用しやすくすることが目的だったが、同時に年収要件の下限に留まる労働者を増やすとともに、その金額の見直しの手続きが織り込まれていなかったため、長期間にわたって年収2万3660ドルに留まる労働者が存在することになった。

この状況を変えたのは、2014年のオバマ政権下における行政規則を変更するための検討指示だった。その結果、連邦労働省は2万3660ドルの年収要件を4万7476ドルに引き上げるとともに、インフレ率にあわせて年収要件を2020年に5万1000ドルまで引き上げていくことを2015年5月に提示し、2016年12月に実施する予定だった。

しかし、2016年11月にテキサス州連邦判事が連邦労働省に行政規則改正の権限がないことを求める訴訟を起こしたため、予定が大幅にずれ込むことになった。訴えの内容は、残業代支給対象かどうかを判定する三つの要件のうちの一つの俸給水準の変更だけでは不十分であるとするものだった。一年後の2017年11月に訴えは退けられたが、2016年の大統領選挙を経て政権は民主党から共和党へと移行したことで、オバマ政権下で設定された年収要件を引き下げるかたちで検討が降り出しに戻っていた。

年収要件と最低賃金の関係

オバマ政権下ですでに行っていたパブリックヒアリングを再び実施し、連邦労働省が3月7日に正式に提示した年収要件は3万5千ドルだった。毎年行うことになっていたインフレ調整は、4年に一度の見直しに置き換えられている。

この提示に対して、すでに二つの課題が浮き彫りとなった。一つは、労働者権利擁護組織が連邦労働省に対して訴訟を準備していることであり、もう一つは、連邦議会が検討に入っている賃金引上げ法(The Raise the Wage Act)との関係である。

連邦労働省に対する訴訟は、オバマ政権下でいったん提示された年収要件の引き上げに関する行政規則改正を変更する権限が連邦労働省にはないとするものである。この背景には、金融のバンク・オブ・アメリカや通信のTモバイルなどで未払い残業代をめぐる集団訴訟が相次いでおり、CBSテレビではおよそ1000万ドルにのぼる未払い残業代の支払いが命じられるなどの社会的情勢がある。

行政規則改正を変更する権限の有無に関する訴えが受理されれば、2016年のテキサス州連邦判事の訴えと同様に実施が長期間にわたって延期される可能性がある。

連邦最低賃金を15ドルに引き上げることを目的とする賃金引上げ法が連邦議会で仮に可決されると想定すれば、年収は3万1200ドルとなり、今回連邦労働省が提示する3万5千ドルと接近する。つまりは、最低賃金と同程度となり、ホワイトカラー・エグザンプションの年収要件が無意味化することになる。

2014年にオバマ政権下で検討が始まってからすでに約5年が経過した残業代支給対象となる労働者の年収要件の見直しだが、2020年の大統領選挙を見据えて長期化する可能性が高まっているといえよう。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

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