ダイナメックス・テスト
 ―プラットフォームビジネスによる個人請負労働の活用に歯止め

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2019年7月

2019年5月2日、連邦第9巡回区控訴裁判所は、個人請負労働者を厳格に認定するためのテストを2018年4月以前に遡及して適用するとした。

個人請負労働は、スマートフォンのアプリケーションで利用者と個人請負労働者をつなぎ合わせるプラットフォームビジネスにおいて普及しているが、この判断により、個人請負労働者を利用することが事業者にとってよりいっそう難しくなる。

2018年4月の判断

カリフォルニア州最高裁判所は2018年4月、運送フランチャイザー企業ダイナメックス社(Dynamex)がフランチャイジーとして契約する運転手が雇用労働者であるか、個人請負労働者であるかの判断にABCテストを課すことを決定した。

ABCテストは次の三つの項目による。同種のテストは2015年にニュージャージー州が採用している。

  • (A)業務手法について請負元から指示を受けているかどうか
  • (B)事業の範囲外の職務に従事しているか否か
  • (C)労働者は独立して確率した役割に従事しているかどうか

カリフォルニア州は雇用か請負からの判断に従来はボレロテストを使用していた。これは、次のようものである。

  • ①「発注される仕事が職業か事業か」、
  • ②「いつも決まっている事業かどうか」、③「経費負担を発注者と労働者のどちらがしているか」
  • ④「仕事に必要な投資は労働者自らが行うかどうか」
  • ⑤「与えられるサービスが特別なスキルを必要とするかどうか」
  • ⑥「発注者の監督下にあるかどうか」、⑦「損失が労働者自らの管理能力によるかどうか」
  • ⑧「従事する時間の長さ」
  • ⑨「仕事上の関係の永続性の程度」
  • ⑩「時間単位か業務単位かの報酬支払い基準」
  • ⑪「発注元と発注先のどちらかが雇用関係が成立していると感じているかどうか」

ダイナメックス社はこのボレロテストでの判断を適応することを主張したが、カリフォルニア州最高裁判所はボレロテストよりも項目を減らすとともに、従来の雇用労働に対する解釈を拡大したABCテストを採用したものである。これにより、インターネットを媒介にして労働力の提供社と利用者をつなぐプラットフォームビジネス(もしくはシェアリングエコノミー)下の個人請負労働者の多くが雇用労働者へと区分が変更されて、最低賃金、残業代、失業保険、雇用主負担による健康保険や年金の対象となる。

ボレロテストの名称は1989年の訴訟(S. G. Borello & Sons, Inc. v Dept. of Industrial Relations, 48 Cal. 3d 341 (Cal. 1989))に由来するが、今回も同様に訴訟(Dynamex Operations West Inc. v. Superior Court, 416 P.3d 1 (Cal. 2018))にちなんでダイナメックス・テストと呼ばれる。

プラットフォームビジネスに打撃

ダイナメックス・テストの導入に関する裁定は2018年4月に下されたものだが、連邦第9巡回区控訴裁判所の今回の判断(Vazquez v. Jan-Pro Franchising Int’l, Inc., 2019 U.S. App. LEXIS 13237 (9th Cir. May 2, 2019))は、それ以前に遡及して適用するという意味で画期的なものである。

この訴訟は、清掃員がフランチャイジーとして雇用労働者の権利や保障から除外されている状況の改善を求めて2008年から全米各州で続いている集団訴訟の一つである。

カリフォルニア州の第一審裁判所(trial court)はフランチャイザーであるジャンプロ・フランチャイジング社が指揮命令した証拠を原告である労働者が提示できなかったとして請負契約の正当性をいったんは認めていた。しかし、2018年4月のダイナメックス・テストを課す判断を受けて、連邦第9巡回区控訴裁判所がカリフォルニア州最高裁判所の判断した時点から遡及して適用するとし、今回はダイナメックス・テストのうち(B)がもっとも影響したとする。

この判断は、インターネットを通じて労働力の提供者(個人請負労働者)と利用者をマッチングするプラットフォームビジネスの展開に大きな影響を与えることになる。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

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