ギグエコノミー従事者に労使協定を通じた権利拡大

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  • 国別労働トピック:2019年5月

宅配業大手のヘルメス社は2月、従来自営業者として扱ってきた配送従事者に対して、最低報酬額の保障や有給休暇の付与など、労働者と類似の権利を認める内容の労使協約を、労働組合GMBと締結した。ギグエコノミー従事者が、労働者としての権利を求めて事業者側と裁判で争うケースが相次ぐ中、協約を通じた従事者の権利拡大は新たな手法といえる。

新区分「自営業者プラス」で最低報酬額など適用

ヘルメス社(Hermes Percelnet Ltd)は消費者向け宅配サービスの事業者で、国内で約2500人を雇用するほか、請負人としておよそ1万5000人が宅配サービスに従事しているとされる。宅配従事者は従来、自営業者として扱われ、このため最低賃金の適用や有給休暇などの権利が認められてこなかったが、従事者の一部が2017年に、労働者としての権利を求めて雇用審判所に申し立てを行い、翌2018年5月にはその主張を認める判決を得ていた(注1)。今回の労使協約の締結は、こうした結果を受けたものとみられる。

GMBによれば、ヘルメス社は協約に基づき、新たに「自営業者プラス」(’self-employed plus’)という制度上の区分を設定、年間を通じた時間当たり報酬の下限について8.55ポンド以上とする最低報酬額の適用や、法定の年間28日を上限とする有給休暇の付与など、法律上の労働者(worker)と類似の権利を認める。従事者は適用の有無を選択する(opt-in)ことができる。適用を受ける場合は、労働時間の管理が必要になることから、配送に際して同社が指定する効率的なルートを使用することが求められる。GMBは「自営業者プラス」の適用を受けた従事者を代表する労働組合としてヘルメス社から承認を受ける。

一方、適用を受けない場合には、従来通り、配送一件当たりの出来高払いを基本に効率性に応じた手当を加算する報酬支払い方式が継続される。GMBは、多くの従事者が望む自営業者としての柔軟性を維持しつつ、収入に関する確実性や有給休暇、また労働組合を提供できる、と述べている。

手法をめぐり賛否

労使協約による従事者の権利拡大をめぐって、関係者の反応は複雑だ。

ギグエコノミーをはじめ近年拡大する不安定な働き方への対応策について、政府の依頼を受けて提言をまとめたシンクタンクRSAのマシュー・テイラー所長は、従事者に利益となるとして協約締結を評価している。ただし、裁判で労働者としての権利を得る場合、最賃や休暇手当以外にも傷病手当などより多くの権利が保護され得ること、協約で保障された権利は事業者側が一方的にこれを破棄することで無効とできることなどを挙げ、法的な手段を通じて権利を確保することも引き続き重要であると指摘している。

また、ギグエコノミー従事者による複数の申し立てを支援している独立系労組IWGBも、協約締結自体は成果として評価するものの、従事者が適用の有無を選択できる点について、労働者としての法的権利が適用が選択可能との考え方を助長しかねない、と批判的だ。また、新たな区分を選択する従事者を最小限に抑制することを目的に、従来通り自営業者としての地位に留まる方が利益となるような短期的な策を講じる可能性も排除できないとしている。

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