EU離脱後の移民制度案の公表

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2019年5月

政府は12月、EU離脱後の移民制度案を公表した。EU法に基づく移動の自由は廃止し、EU域内と域外に共通のルールを適用する内容で、労働者の受け入れについても、技能水準や給与額を要件に厳格化が図られる見込みだ。ただし、離脱後にはEU労働者の流入減少に伴って労働力不足が想定されることから、従来の受け入れ基準の引き下げや手続き簡素化のほか、移行措置として低技能労働者の期限付き受け入れ制度を導入するとしている。

期限付きで低技能労働者の受け入れ

政府は従来から、移民の流入削減を重視しており、離脱後の移民政策についても、EU法に基づく欧州経済圏(EEA)(注1)域内の移動の自由を廃止するとの方針を示していた(注2)。企業やシンクタンクなどからは、EEA労働者は経済や財政、公共サービスの維持などに貢献しているとして、これに反対する声も強かった。しかし、政府の諮問機関であるMigration Advisory Committe(MAC)が2018年9月にまとめた案は、制度の簡素化を提言する一方、現在EEAから多く流入している低技能労働者の受け入れは継続すべきではないとの見方から、域外からの移民と同様の規制を設けることを提言していた。

今回公表された制度案は、概ねMAC案に沿った内容となった。現在、域外からの移民の受け入れに際して適用されているポイント制の対象を、EEA移民に拡大するもので、労働者の受け入れについては、予定される仕事の技能水準や給与額などに基づいて可否が判定されることとなる。ただし、制度導入により想定されるEEA労働者の流入減少に対応するため、技能要件の下限を引き下げる(注3)ほか、主要な受け入れルートに現在設定されている数量制限(注4)についてもこれを廃止、さらに、受け入れ申請の際に雇用主(スポンサー)に課される「労働市場テスト」(国内での一定期間の求人活動)も、実効性に欠けるとして廃止の意向を示している。一方、給与額の下限については、現行の3万ポンドを維持すべきとのMAC案(注5)をベースに、経営側の意見も聴取した上で決定するとしている。

加えて、EU労働者の流入減により特に影響を被るとみられる建設業や介護業などで、労働力不足が生じる可能性に配慮し、移行措置として期限付きの受け入れを認める新たな制度を導入する方針を示している。適用対象を保安上の問題がないとされる特定の国に限定し、12カ月を上限とする受け入れには、スポンサーを必要とせず、また滞在期間中に雇用主を変更することも可能。ただし、ビザの延長や滞在区分の変更、また家族の呼び寄せや、社会保障給付の受給等は認められない。加えて、同制度による滞在期間の終了から12カ月間は、同じスキームを通じて入国することはできない。申請に要する料金についても、制度の見直しを検討する2025年まで、漸次引上げを行う意向だ。

また、業種別スキームとして例外的に導入が検討されている季節農業労働者の受け入れについては、小規模の受け入れスキームの試行的実施が予定されている。

このほか、就学目的の入国者については、学士・修士コースの修了後に6カ月間、博士コースの場合は1年間、求職を目的とする滞在延長を認める。また、イギリス人等(永住権保有者)の家族として入国する場合については、現行の域外向けの制度が適用される。これには、主申請者の所得水準が年間1万8600ポンド以上(子供を加える場合は2万2400ポンド、以降子供1人当たり2400ポンドの加算)であることが要件となる。

政府は、一連の制度改正により、EEA労働者の流入は従来の水準からおよそ8割減少すると予想している(注6)

労使とも政府案を批判

EU離脱をめぐる2016年の国民投票以降、EEA労働者の流入数は減少が続いている。就労目的のEUからの移民の純流入数(流入者数から流出者数を差し引いたもの)は、2016年6月までの年間14万7000人をピークに、2018年6月には5万6000人に減少、とりわけ2004年にEUに加盟した東欧諸国からの労働者の流入減少が顕著となっている(図表)。EEA労働者を多く雇用する業種では、離脱に先立って既に人手不足が生じているとされる。

経営側は、かねてから離脱後の労働力不足の可能性に危機感を示してきた。イギリス産業連盟は今回の政府案について、低技能労働者の受け入れの廃止は多大な経済的損失を招くとして批判的な立場を示しており、とりわけ給与水準の要件を3万ポンドとする案に反対している。また導入時期も、現在予定されている2021年から2025年に延期して、企業に適応のための時間的猶予を与えるよう求めている。低技能労働者の期限付き受け入れ制度については、現状からは不要なコスト増となることに加えて、滞在期間が短いことが、移民労働者が地域コミュニティに馴染む妨げとなりうるとしている。

一方、労働組合も、新制度案は既に国内で生じている立場の弱い移民労働者に対する搾取をさらに悪化させかねないと批判している。特に、短期の低技能労働者の受け入れは、悪質な雇用主にとって搾取可能な労働力の恒常的な供給源となるとともに、他の労働者の労働条件を引き下げることを容易にしうるとして、改めて移民を含む労働者の保護の重要性を主張している。

図表:就労目的のイギリス人・外国人の地域別純流入数の推移 (千人)
図表:画像

注:1年以上の滞在(予定)者に関する推計。各期のデータは直近12カ月のもの。2017年以降については統計局のデータからの試算。

出所:Office for National Statistics 'Migration Statistics Quarterly Report'

参考資料

参考レート

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