労働分野の主な制度変更
 ―2019年1月1日から

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2019年4月

2019年1月1日から、パートタイムに関する新規定の導入、職業継続訓練支援の強化、保険料率の変更、長期失業者就労支援を目的とする社会法典第2編の新規定の導入、単一協約法に関する連邦憲法裁判所判決に沿うための労働協約法(TVG)改正などが行われた。さらに、最低賃金、求職者基礎保障の標準給付、児童手当の額などが引き上げられた。以下に主な変更の内容を紹介する。

パートタイム・有期労働契約法の改正 ―元の労働時間への復帰権

改正パートタイム・有期労働契約法(TzBfG)が2019年1月1日から施行された。当該労働者が6カ月を超えて雇用関係にあり、45人を超える従業員を擁する企業で働いている場合、一定期間(1年以上~5年以内)、元の労働時間(vorherigen Arbeitszeit)を短縮してパートタイムで働き、期間満了後に再び元の労働時間に復帰することができる。この新たな権利は、「育児や介護」といった特定の事由が存在する場合に限らず、「理由を問わず、請求することが可能」である。

ただし、従業員数が46人以上200人以下の企業については、その規模に応じて、申請の最大許容人数が定められている。そのため最大人数以上の申請がある場合には、使用者はこれを拒否することができる。

今回の改正の主な特徴は、使用者に対してより大きな説明・立証責任を負わせることで、労働者が希望する元の労働時間への復帰を容易にしようとしている点である。

旧法では、パートタイム労働者が労働時間延長を希望した場合、使用者は、空きポストの配置を優先的に考慮する必要があるだけだった。しかし、改正後は、これに加えて、労働時間延長を希望するパートタイム労働者(労働時間短縮者)に対して、「相応する空きポストがないこと」、「当該労働者の適性が不十分であること」に対する説明・立証責任も使用者が負うことになる。これによって、パートタイム労働者が労働時間を延長することがより容易になり、いわゆる「パートタイムの罠(Teilzeitfalle)」にはまり続けることが阻止される。加えて、使用者は労働者と、その契約で取り決めた労働時間の長さや状況を変更する希望について、協議しなければならないことが明示された。

さらにこの法律は、同法12条でパートタイムの特殊な労働形態の1つとして規定されている「呼出労働(オンコール/Arbeit auf Abruf)」における収入の安定と計画性を向上させるために、呼び出し可能な追加労働が制限された。呼出労働は従来からの同規定に基づき、1日単位や週単位の所定労働時間を取り決める必要があったが、取り決めがない場合には、1日最低連続3時間、週10時間の所定労働時間の定めがあるものとみなされていた。これを今回の改正によって週20時間に引き上げ、週労働時間の一定確保を図る。

また、使用者が一方的に呼び出せる追加労働時間の割合は、今後、取り決めた週の最低労働時間の25%以内とする。最高労働時間の取り決めがある場合には、その割合は20%以内とされた。また、疾病時の賃金継続支払い、および休日に対する賃金支払いの計算に対しては、原則として労働不能の開始前、または休日の開始前の直近3カ月間の平均労働時間が、拘束力のある算定基礎と定められた。

資格取得機会法(Qualifizierungschancengesetz) ―職業継続訓練支援を強化

この法規定の中核となるのは、「デジタル化の進展に伴って業務が代替される可能性がある労働者」、「その他の形で構造改革の影響を受ける労働者」、「人材不足職種における職業教育訓練を目指す労働者」に対する職業継続訓練(Weiterbildung)(注1)の支援を拡大することである。これまでは、「職業教育修了資格を持たない労働者」、「失業の恐れがある労働者」、「中小企業の労働者」に支援対象が限定されていた。今後は原則として全ての労働者に対して、その資格、年齢、事業所/企業規模にかかわらず、職業継続訓練支援を受ける可能性が開かれることになる。

同時に連邦雇用エージェンシー(BA)による職業継続訓練と資格取得に関する相談サービスが強化される。

保険料率令 ―負担軽減など

労働者と使用者の負担軽減のため、失業保険の保険料率が3.0%から2.6%に引き下げられた(法規命令により2022年末までの期限付きで、さらに0.1%低い、2.5%へと引き下げられた)。

労働者に対して全体的に保険料負担が軽減された結果、失業給付およびその他の社会法典第3編による給付の計算で適用される定率の社会保険料についても、21%から20%に引き下げられた。

これまで季節労働者を活用する事業所・企業には、3カ月または70日間を上限として社会保険料の支払いが免除されてきた。この上限が企業の負担軽減を目的に撤廃されて無期限となった。

長期失業者就労支援法(参加機会法)

2019年1月1日から「社会法典第2編(SGBII)の第10次改正法 --長期失業者に対する一般労働市場および社会的労働市場における新たな参加機会の創出(参加機会法, Teilhabechancengesetz)」が発効した。これにより、社会法典第2編(SGB II)における2つの新たな雇用促進制度、すなわちSGB II第16i条の「労働市場への参加」とSGB II第16e条の「長期失業者の統合」が開始された。

本制度の目的は、対象者の雇用され得る能力(エンプロイアビリティ) を、徹底したサービスと個人相談、効果的な助成によって向上させることである。さらに対象者に対し、一般労働市場と社会的労働市場におけるより多くの具体的な就業の選択肢を提供することによって、その社会的参加の実現を目指す。一方で使用者は、長期失業者と社会保険加入義務がある労働契約を締結する場合には、この新たな法定制度を通じて当該者の賃金助成を受けることができる。なお、賃金助成に関しては、当初の法案では最低賃金を基準としていたが、法案可決直前に連立政権が内容を変更し、協約賃金(Tariflohn)を基準に支払うこととなった(協約賃金が存在しない場合は、最低賃金を基準に支払う)。助成期間は24カ月(SGB II第16e条)あるいは最長5年(SGB II第16i条)である。助成対象となる労働者は、その労働契約を安定させ、将来的に助成のない雇用へ移行するように、総合的な雇用伴走型の支援サービスを受ける。

この助成には、6年間の手当受給(SGB II第16i条)、あるいは2年間の失業(SGB II第16e条)が前提条件となる。また、重度障がい者と、家庭内(注2)に未成年の子が1人以上いる者については、5年間、手当を受給していれば助成を受けることができる。

この一般的な前提条件が満たされると、次の段階でジョブセンター(注3)が、その都度の助成に対して具体的な対象者を選定する(この決定を行うことができるのは、ジョブセンターだけである)。

同制度の対象になる長期失業者はドイツ国内に約80万人おり、ハイル労働社会大臣は法案成立時に、今回の就労支援策により、このうちの15万人が持続的な職に就くことを期待すると述べた。ドイツ政府は2019年以降、40億ユーロの公的資金を投じて、こうした失業者の労働市場への復帰を後押しする。

労働協約法(TVG)の改正 ―単一協約法に関する連邦憲法裁判所判決の実施

連邦憲法裁判所(BVerfG)は2017年7月11日、多数組合による排他的な性格を持つ協約単一法(Tarifeinheitsgesetz)について、「概ね合憲だが、一部の規定は改正が必要」とする判決を出した。この判決を受けて、2019年1月1日に労働協約法(TVG)が改正された。

協約単一法は2015年7月10日の施行以来、上述の判決が出されるまで、合憲か違憲をはじめとして様々な議論がなされてきた。同法は、事業所内に多数決主義を導入することで、労働協約の単一性を確保しようとしたものである。具体的には、2つの労働組合が1つの事業所で同じ従業員グループを代表する場合、その事業所内で「組合員数が最も多い労働組合の労働協約」だけが適用される。つまり、単一協約の原則に基づけば、1つの事業所内で複数の労働組合があり、内容が同一でない労働協約が競合/衝突する場合、その事業所内で最多の組合員を擁する労働組合の協約のみが適用されることになる。

しかし、1月1日の法改正によって今後は、労働協約の競合や衝突がある場合の少数者労働組合の権利が強化される。具体的には、多数派労働組合による労働協約が成立する際に、少数派労働組合の利害が真摯かつ有効に考慮されなかったと労働裁判所が判断した場合には、少数派労働組合の労働協約が、単一協約の原則に反しても、なお適用されることになる。

最低賃金の引き上げ

最低賃金は、2019年1月1日から時給9.19ユーロに引き上げられる。今後は、さらに2020年1月1日から時給9.35ユーロに引き上げられることが決定している。2018年の時給8.84ユーロを基点にすると、2019年は4.0%増、2020年に5.8%増という大幅な引き上げになる。

求職者基礎保障給付の引き上げ

求職者基礎保障の新しい標準給付額が適用された。失業手当Ⅱ(ArbeitslosengeldⅡ)に関する単身受給者の標準給付月額は、416ユーロから424ユーロに引き上げられた(詳細は図表1の通り)。

「求職者基礎保障」とは、主に長期失業者とそのパートナー等の生活保障を目的とした制度である。同制度では、求職者本人に「失業手当Ⅱ」を、同一世帯の就労能力のない家族に「社会手当(Sozialgeld)」を給付する。なお、病気や事故等で稼得能力のない困窮者の生活保障を目的とした「社会扶助(Sozialhilfe)」の給付水準も、求職者基礎保障の標準給付額と同額で設定されており、1月1日から同様に引き上げられた。

図表1:求職者基礎保障の標準給付月額 (単位:ユーロ)
受給資格者 2018年 2019年
単身者(成人1人あたりの標準月額)、単身養育者(ひとり親)の受給資格者 416 424
家計を一にして同居するパートナー(満18歳以上)それぞれに対して 374 382
その他の就労可能な満18歳以上の受給資格者/ジョブセンターの保証なしに転居する(※)満18歳以上25歳未満の受給資格者 332 339
14歳以上 18歳未満の青少年 316 322
6歳から14歳未満の子供 296 302
6歳未満の子供 240 245

出所:BMAS(2018).

(※)転居先の家賃等についてジョブセンターの許可が得られず、費用引き受けの確約(保証)が受けられない場合。

児童手当等の引き上げ

子育て世帯の経済的負担軽減を図るため、児童手当、児童加算、基礎控除(児童控除)の額が各々引き上げられた(図表2)。同制度は、18歳未満(教育期間中の子は25歳未満、失業中の子は21歳未満、25歳到達前に障がいを負って、就労困難になった子は無期限)の子を扶養する者が対象となっている。

図表2:児童手当等の引き上げ (単位:ユーロ)
受給資格者 2018年 2019年
児童手当(Kindergeld)
1-2人目(月額)
194 204
3人目(〃) 200 210
4人目以降(〃) 225 235
児童控除
(Kinderfreibetrag)(年額)
7,428 7,620
児童加算(Kinderzuschlag)
上限額(児童1人につき)
170 183
(2019.7~)
6歳未満の子供 240 245

出所:Bundesregierung (2018).

参考資料

  • BMAS(Pressemitteilungen, 17. Dezember 2018), Bundesregierung (Artikel Dezember 2018) ほか。

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