最賃勧告
―二段階引き上げで2020年1月から時給9.35ユーロへ

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2018年9月

最低賃金委員会は6月26日、最低賃金(時給)を、現在の8.84ユーロから、2019年1月1日に9.19ユーロ、さらに2020年1月1日に9.35ユーロへ、二段階で引き上げるよう政府に勧告した。

2015年、初の法定最低賃金を導入

ドイツでは、2015年1月1日に全国一律の法定最低賃金(当時時給8.5ユーロ)が初めて導入された。2年後の2017年1月1日には8.84ユーロに引き上げられ、現在に至っている。

それまで業種別の最低賃金はあったが、全産業に適用される最低賃金は存在しなかった。その代わりに、労使は産別を中心に団体交渉を行い、そこで決定した協約賃金を拡張適用することで、未組織労働者へ波及させてきた。しかし近年、産業構造の変化や労働協約適用率の低下、低賃金労働の拡大などが続き、労使だけで賃金の下限を設定し、その協約賃金を労働者全体に行き渡らせることが次第に困難になった。その結果、約10年の議論を経て、2015年に最低賃金制度が導入された。

最低賃金委員会の構成と役割

勧告を行った最低賃金委員会は、最低賃金法(MiLoG)に基づき、1名の議長、6名の議決権を有する常任委員(労使各3名)、2名の議決権を持たない学術分野の委員(諮問委員)で構成されている。また、常任委員と諮問委員は、グループ毎に必ず1名以上の男性もしくは女性を含めなければならない(注1)。最低賃金の改定額の検討にあたっては、①労働者の必要最低限の生活を保障する額であること、②公正で機能的な条件の競争力を維持できる額であること、③雇用危機を招かない額であること(雇用確保)、④協約賃金の動向に従うこと、の4点を考慮した総合的な評価を行わなければならない(MiLoG 9条)。なお、前回の勧告は、④の協約賃金の動向が重視され、結果として、協約賃金全体の平均引き上げ率(4%増)に最低賃金の引き上げ率(4%増)が連動することになった。

報道(F.A.Z.)によると、今回の改定でも、過去2年の協約賃金全体の動向を踏まえて、9.19ユーロへの引き上げ勧告が想定されていたところ、2018年前半に妥結した金属産業等の協約賃金も最終的に考慮され、9.35ユーロまでの二段階の引き上げ勧告になった旨が報じられている。

最低賃金委員会による改定決議は2 年ごとに実施される(最低賃金法9条)。この2年という改定頻度を含む最低賃金法全体の見直し(総合評価)は2020年に実施される予定である(最低賃金法23条)。

労働社会相、今回の勧告を歓迎

今回の勧告は、現行の最低賃金(時給8.84ユーロ)を基点にすると、2019年に4%増、2020年に5.8%増という大幅な引き上げになる。連邦労働社会省によると、これについてフベルトゥース・ハイル労働社会大臣(SPD)は、勧告を歓迎した上で、「良好な経済状況を反映した団体交渉による賃金の引き上げが、最低賃金の改定にも反映されるのは、我が国の社会的結束にとって大切なことである。また、これは、ドイツの社会的市場経済(注2)が持つ重要な機能の1つでもある」と述べている。

増員で取り締まりを強化

最低賃金は、連邦財務省(BMF)所管の税関(ZOLL)内にある「闇労働税務監督局(FKS)」が取り締まりを担当している。FKSは、従来から闇労働を取り締まっていた税務局と、不法就労対策を担当していた労働局の業務が統合され、2004年に誕生した。 税関職員総数3万9000人のうち、6700人が闇労働税務監督局(FKS)で勤務している。FKSの職員は、最低賃金導入によって全産業・職場が監視対象となることを見越して、導入前から増員されている。しかし、ドイツ経済社会研究所(WSI)の最新調査では、2016年時点で、労働者の10人に1人が最低賃金を下回る時給で働いていたことが判明しており、取り締まりの強化が課題となっている。そのため、政府は今後、FKSの人数を2019年までに1600人増やし、8300人体制で、最低賃金を含む闇労働全体の取り締りを行うとしている。

勧告を受けて、政府は今後、数カ月以内に正式な最低賃金額を決定する。

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