組合費を払わない自由に対抗
 ―給与支払い会社との提携

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2019年2月

2018年6月27日に下された連邦最高裁判所の裁定により、公共部門の労働組合は組合費の徴収が激減する危機にある。

カリフォルニア州の在宅介護労働者を組織する労働組合はこれに対して給与支払い会社と提携することで労働組合費の徴収減を食い止める試みを始めた。

公共部門労働組合へのバッシング

イリノイ州医療・家族サービス局(Department of Healthcare and Family Services)の職員、マーク・ジェイヌス(Mark Janus)氏が米国州・郡・市職員同盟(AFSCME)に対して組合費の支払義務がないことを求める訴訟は、2018年6月27日に連邦最高裁で判決が下され、原告の主張が全面的に認められた。

これを受けて、この判決を受けて、コネチカット州で、保守政党を支持するNPO、NRTW(National Right to Work)が中心となり、コネチカット州政府職員を組織するサービス従業員労組(SEIU)の地域支部(ローカル)2001に対して、過去5年間にさかのぼって支払った労働組合費の返還を請求する訴えを9月6日に起こした。訴えが認められれば、返還される組合費は総額で1億ドルになるとされる。

団体交渉の対象となる従業員のうち過半数が労働組合に団体交渉を委ねるという意思表示があって初めて使用者に団体交渉を受ける義務が発生する。権利を委ねることを反対した従業員も含めて労働組合は使用者と労働条件を交渉するため、そうした従業員も等しく労働条件の向上を手にすることができる。もし、労働組合に交渉権を委ねることに反対した従業員が労働組合費を支払わなければ、労働組合費を負担する労働組合員と比べて公平さを欠くことになる。

2018年6月の連邦最高裁の裁定は、州政府職員労働組合が政治活動に労働組合費を使っていることが、信教・言論・出版・集会の自由、請願権を保障する合衆国憲法修正第1章に抵触するとしたものだった。だが、公共部門の労働組合は民間企業の労働組合と異なり、団体交渉のみで労働条件の向上を獲得することが難しい。なぜなら、人件費や福利厚生、社会保障にかかわる経費は議会による承認を必要とするからである。そのため、公共部門の労働組合の活動には議会対策を含めた政治活動が団体交渉を後押しするうえで欠かせないことになる。

公共部門の労働組合にとって、政治活動に組合費を使うことを理由として、労働組合費の徴収ができないということは、財政上の問題だけでなく運動の問題としても死活問題である。

公共部門の労働組合は政治的には民主党を支持しているが、連邦議会のみならず州議会においても共和党が多数を占める状況が続いているという背景もある。

デビットカードを活用して徴収

こうした状況で、カリフォルニア州で在宅介護労働者38万5000人を組織する労働組合SEIUローカル2015は給与支払い(Payroll)アウトソース企業、ADP社と提携することで対応を試みている。

SEIUローカル2015が組織する在宅介護労働者は、高齢者および障害者向け公的医療保険制度であるメディケアを財源として、カリフォルニア州を通じて賃金が支払われている。最高裁の判決が出る以前は、カリフォルニア州から毎年7000万ドルが組合費として控除され、一括してSEIUローカル2015に支払われていたが、判決によりカリフォルニア州は組合費の控除を停止した。

これに対して、SEIUローカル2015は、希望する労働組合員に対してADB社の発行するデビットカードを支給し、ADB社を通じて給与の支払いを行うとともに、ADB社が組合費の徴収を合わせて行うというものである。デビットカードは低額、もしくは無償で支給される。銀行口座を持っていない、もしくは持つことができない労働組合員の助けとなるとともに、福利厚生ポイントを貯めたり、日常的な支払いにも活用したりすることができる。

通常、労働組合は団体交渉権を獲得するときのみに労働者から参加の意思表示を受けるが、デビットカードの発行は労働者の任意で行われるために、労働組合に対する支持をあらためて表明することで帰属意識が高まるとともに、同じカードを持つことで結束力が高まる効果が期待されている。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

参考

  • Janus v. AFSCME(PDF:378KB)新しいウィンドウ
  • Eidelson Josh(2018)Union Uses Debit Cards to Fight Trump Proposal Threatening Dues, Daily Labor Report, 2018 Oct 9.

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