新規一括学卒採用など日本と類似する大学就職活動支援
新規一括採用や就職活動がうまくいかなくてもう一年大学に残るといった、日本の大学でもみることができる状況が、アメリカの大学でも一般的だとしたらどうだろうか。
労働政策研究・研修機構は日本と欧米各国の雇用システムの比較調査を行っているが、その一環として、2018年12月にニューヨーク市立大学バルーク校を訪問した。日本からアメリカ企業の採用や働かせ方をみるとき、学生が自らインターンシップの機会を見つけてくるとか、通年採用で自律的に好きな企業を探すであるとか、数年間はあちこち放浪しながら居場所を探すといったようなステレオタイプがある。しかし、調査から垣間見える姿は大きく異なっていた。
その一端を紹介したい。
手厚いキャリアセンター
ニューヨーク市立大バルーク校はマンハッタンの南側に位置し、人文科学、公共国際関係、経営と3つの学部があり、約1万5000人の学生が在籍している。キャリアセンターは3つの学部すべての学生の就職を支援している。年間学費は8000ドルと全米で最も低額である。公立大学として各種ランキングのトップに位置するほか、経営学部は全米で18位とのことだった。
キャリアセンターの業務は、企業のスキルニーズの把握、学生向けスキルトレーニングの企画・運営、就職活動指導、ジョブフェアの開催、インターンシップのマッチング、就職困難者向け支援、専門性の低い人文科学部の学生の就職支援、世帯所得の低い学生支援、学生コミュニティ活動支援が主なものである。
企業のニーズは、全国大学・使用者協会(NACE:National Association of Colleges and Employers)が実施する加盟企業の調査結果から抽出される。クリティカル・シンキング、問題解決、コミュニケーション、チームワーク・コラボレーション、リーダーシップなどがあげられる。これらのニーズに合わせたトレーニングコースを構築し、学生向けに実施している。
就職活動支援では、採用担当者に訴える効果的な履歴書の書き方、面接の受け方の指導が行われるほか、メンターや学習指導なども個別に行っている。
経営学部の学生はある程度の専門的性を身につけているが、人文科学部の学生は歴史や文学といった職業に直結した専門性を身につけていないため、公的セクターを中心に企業で働くということはどのようなことかといった基礎的な情報をキャリアセンターが提供している。
キャリアセターには卒業生のボランティアがいる。彼らは企業で働く際の体験談や企業ごとの面接の方法などを学生に伝えている。ボランティアは採用後10年以上、5年以上とそれぞれ経験期間別に役割があり、情報共有と採用活動の助けとしている。
ジョブフェア
ジョブフェアは採用を希望する企業と学生のマッチングの場である。新学期が始まる9月の第3週に集中的に実施され、80社が参加している。参加を希望している企業はその数よりも遙かに多く、ウェイティングリストがある。オンラインでも200社が参加する。キャリアセンターは参加したい企業を選定するとともに、ジョブフェアに向けて学生を後押ししている。たとえば、コミュニティカレッジから編入してきたり、学習進度に遅れがある学生に対して集中的なサポートを実施するといったことである。就職活動を負担に感じ、なかなか就職先が見つからない学生に対するカウンセリングを実施している。最終学年で就職できなかった学生に次年度の再挑戦に向けて、取得単位の成績評価値(GPA)を上げるための支援を行っている。
ジョブフェアに参加する企業はインターンシップの機会を提供しており、キャリアセンターは学生の書いた手書きの履歴書と企業の募集要項の突き合わせ作業を行っている。企業は20000職の求人をしており、その分だけインターンシップ機会が提供されている。インターンシップは就職選考とエントリーレベルの職務経験を与える機会を兼ねている。低所得家庭で育った学生のために、無給のインターンシップに参加するための奨学金が用意されている。
学生の採用活動
企業の採用選考では、取得単位の成績評価値GPAスコアが高いことが1つの条件となる。一定の基準をクリアできずに卒業年次を迎える学生は企業から採用される可能性が低くなる。だから、GPAスコアが低い学生が一年留年して単位を取り直すことが珍しくない。
キャリアセンターの責任者によれば、企業の採用担当者からすれば、大学に在籍していることが採用候補者の身分保障となるため、学生は卒業せずに留年するという。裏を返せば、いったん大学から離れてしまえば、就職のための拠り所をなくすことになる。
企業はセクターごとに採用時期を合わせ、コスト削減のために一括でネットをかけるように学生を採用している。バルーク校はウォール街に近く、金融機関の採用がもっとも多い。金融機関は近年、採用時期が早まっており、学生の学業に支障がでているとのことだった。金融機関に比べて、メディアや公共セクターは昔とかわらず採用時期が遅いという。
学生の採用活動は、早ければ1年生、遅くとも3年生までにはキャリアセンターのトレーニングやジョブフェアに参加して、なんらかの就職活動を開始する。企業側もなるべく早い段階から学生と接触する。たとえ一人の採用であっても、フェイストゥフェイスの関係を長期間にわたって構築して採用につなげていくという。
学生は卒業と同時に就職することが普通であり、全体を通してみれば、新規一括学卒採用が行われているといってよい。
日本との比較
調査で訪問したニューヨーク市立大学バルーク校だけが特別にこのような採用状況にあるわけではない。NACEのような第三者機関に多くの企業と大学が参加しており、全米で画一的な情報の下で採用活動が実施されているからである。
オンサイトで実施するジョブフェアに参加できる企業の数は限られている。企業は産業の特徴と大学の立地、専門性、学生の成績によって採用する大学を絞り込んでいる。そのうえで、大学の始業年度の最初の月である9月の第3週にジョブフェアを開催して、企業にとっては採用活動、学生にとっては就職活動が開始する。大学1年生からスタートすることもあることから、最長で3年程度の期間にわたる。その後、最終的に採用が決定する時期はセクターごとに異なっているものの、一括で採用が行われているという意味で、日本の大学における採用と類似しているといえる。
したがって、アメリカの大学は通年採用であるといことは日本における通説であり、正しくはない。また、企業は大学に学生の身元保証の役割を求めていることから、アメリカの学生が卒業してから採用に不利益はないということも正しくはない。
学生は自由にインターンシップ先を選び、自己責任で就職活動をしているとのイメージもあると思われるが、実際はキャリアセンターが選定した企業がジョブフェアに参加することが可能となり、そこから学生がインターンシップ先を選定している。つまり、キャリアセンターがセッティングしていることになる。
企業のニーズに応えるスキルをアメリカの大学は教員の講義によって身につけさせているわけではなく、キャリアセンターが独自にトレーニングプログラムを作っている。文学部や歴史など実学に結びつかない学部だけでなく、会計学のような学科でも、リーダーシップやチームビルディング、問題解決といった講座の設置にキャリアセンターが応えているほか、就職困難な学生には独自のプログラムで対応している。これらの点から、日本との類似性が多くみられるだけでなく、アメリカの大学の方がより手厚いという事例もみられる。
アメリカの大学の採用活動が学生の自己責任によるというものや、企業側が通年で採用活動を実施するというステレオタイプがなぜ日本にあるのかということは引き続き調査しなければならないものの、類似性の多くが企業の行う雇用システムとの関連性があると考える。
(調査部海外情報担当 山崎 憲)
参考レート
- 1米ドル(USD)=109.95円(2019年2月7日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
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