労働組合のフリーライドを認める
 ―連邦最高裁

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2019年2月

連邦最高裁判所は、労働組合に組織されているイリノイ州政府の職員が組合費を支払わなくてもよいとする判決を6月27日に下した。

この判決は、1977年の連邦最高裁の判決を覆すものとなり、労働組合の勢力を大きく落とすものとなる可能性がある。

Janus v. AFSCME

イリノイ州医療・家族サービス局(Department of Healthcare and Family Services)の職員、マーク・ジェイヌス(Mark Janus)氏は米国州・郡・市職員同盟(AFSCME)に対して、月額45ドルの組合費の支払義務がないことの確認を求めて2017年に訴えていた。

彼の主張は、AFSCMEが州政府と労働条件の向上を目的とする団体交渉だけでなく、政治活動に労働組合費が使われているとして、そのことが、信教・言論・出版・集会の自由、請願権を保障する合衆国憲法修正第1章を侵害しているというものだった。

一方、AFSCMEは、労働組合が団体交渉を通じて獲得した労働条件を組合費の支払い無しで手にすることができる、いわゆるフリーライダー(ただ乗り)を認めることにつながるとして反対していた。

両者の主張に対して、連邦最高裁は、5対4の僅差でジェイヌス氏の主張を支持した。これにより、公的セクターだけでなくすべての労働組合で同様の問題が生じる可能性が高まっている。

アメリカの労働組合とは

ところで、日本とアメリカの労働組合にはいくつかの違いがある。そのことを確認したい。

労働組合とは、労働者の権利を守り、労働条件を引き上げ、政府に対して制度や政策を要求し、労働組合員が互いに助け合う仕組みを持つものである。この仕組みの法的枠組みは日本とアメリカで異なる。労働組合をつくり、組合員になることは日本もアメリカも許可が必要なわけではない。しかし、団体交渉の手続きは同じではない。

日本の場合、たとえ労働組合員が1人でも団体交渉を受ける義務が使用者にある。アメリカは団体交渉の対象となる従業員のうち過半数が労働組合に団体交渉を委ねるという意思表示があって初めて使用者に団体交渉を受ける義務が発生する。具体的には、同様の職場、働き方、雇用形態、賃金の支払い方の労働者を交渉単位といい、そこに属する労働者の投票によって賛成が過半数を超えた場合、その交渉単位の労働組合が団体交渉を行う権利を有することになるのである。

合衆国憲法修正第1条と労働組合

交渉単位に複数の労働組合が存在する場合、過半数を得た労働組合だけが使用者との交渉権を獲得する。これは、使用者が恣意的に組織したいわゆる御用組合を排除するための仕組みで、排他的交渉権と呼ぶ。ひとたび、交渉単位で1つの労働組合が交渉権を獲得すれば、交渉単位に属するすべての労働者の交渉権はその労働組合が代表することになる。たとえ、反対票を投じた労働者であっても労働組合が団体交渉によって獲得した労働条件の向上を等しく手にすることができる。その一方で労働組合費の支払いが発生する。もし、労働組合に交渉権を委ねることに賛成しなかったことを理由として労働組合費の支払いが免除されれば、労働条件の向上だけを手にするフリーライド(ただ乗り)を許すことになりかねない。こうなれば労働組合の基盤を揺るがしかねない。

労働組合に交渉権を委ねることに反対した労働者に組合費の支払い義務があるかどうか問われた判例には1977年のAbood v. Detroit Board of Educationがあり、フリーライドを認めないとする労働組合側の主張が認められ、約40年にわたって前例として機能してきた。

しかし、2014年にはHarris v. Quinn、2016年にはFriedrichs v. California Teachers Associationと訴訟が続き、いずれも労働組合側の主張が認められたものの、合衆国憲法修正第1条における個人の権利と労働組合の政治的立場が問題の遡上にあげれていた。これらに続く今回のJanus v. AFSCMEの判決ではじめて労働組合側の主張が退けられたことになる。

労働組合は労働者を集団として組織することで交渉力を発揮する団体であるからこそ、個人の自由が組織よりも優先すれば、労働組合の存立基盤が大きく損なわれることになる。判決に対して労働組合側は全国的に抗議運動を展開中である。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

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