デジタルプラットフォームが共同決定制度を導入

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  • 国別労働トピック:2019年1月

レストランフード配達のデジタルプラットフォームを運営するデリバリーヒーロー社は、欧州会社へ移行する際、経営の意思決定に半数の労働者代表を参画させる共同決定制度を導入し、注目を集めている。同社は2011年にドイツで設立され、急成長し、2017年に株式会社(AG)として上場後、2018年4月に欧州会社へ組織変更した。

特別交渉委員会(BVG)と共同決定

「共同決定(Mitbestimmung)」とは、労働者の代表を企業経営の意思決定に参加させる制度である。ドイツの中規模以上の企業は「監査役会(Aufsichtsrat)」を設置し、構成員の1/3(中規模企業)、または1/2(大規模企業)を労働者代表としなければならない。「監査役会」は、株主と労働者で構成され、取締役員の任免、投資計画、人員計画、賃金の決定等について強い権限を有する(注1)。この制度によって、企業が株主の利益追求のみに走ることなく、労働者の利益や企業の社会的責任を重視する可能性が高まる仕組みになっている。

また、ドイツ企業が欧州会社へ移行・設立する場合には、欧州会社法(注2)に基づき、労使で構成される「特別交渉委員会(BVG)」が、新会社で共同決定の比率をどのようにするかを決定する重要な役割を果たす。

専門的助言と州裁判所の判決が鍵に

デリバリーヒーロー(Delivery Hero)社のような「スタートアップ企業(注3)」と「労働者による共同決定」は、通常なかなか結び付きにくく、欧州会社化にあたり、同社の経営陣は当初、共同決定制度の導入を全く想定していなかった。また、特別交渉委員会(BVG)の使用者側委員もそのような交渉に不慣れだった。他方、労働者側委員には、共同決定と欧州の労働者参加権をめぐる対応に精通した「食品・外食産業労組(NGG)」のクリストフ・シンク氏がアドバイザーとしてついていた。同氏の尽力で共同決定制度の導入に向けた交渉が徐々に進展する中、ベルリン州裁判所が出した判決が重要な決め手となった。同判決は、国内だけで2000人を超す従業員が働くデリバリーヒーロー社に対し、監査役会における労働者代表の割合(1/2)を規定した共同決定法(MitbestG)に違反しているというものだった。なお、この判決は、同社が近く欧州会社(SE)へ移行することを見据えて出されたと見られている。というのも、特別交渉委員会(BVG)で労使委員が合意に達しない場合、株式会社の時点で存在していた共同決定制度が補完的な解決策として適用されるためである。判決後1カ月も経たないうちにBVGは労働者が半数を占める共同決定制度の導入に合意した。

監査役会の労働代表はライダー

写真

写真:フードラのライダー
(ベルリンにて筆者撮影、2018年12月)

デリバリーヒーロー社は現在、欧州最大規模のIT企業になっている。主にデジタルプラットフォーム(モバイルアプリ)の運営を通じたレストランフードの配達サービスを世界各地で提供し、国内外で計1.2万人以上のスタッフが働いている。また、同社の代表的な子会社である「フードラ(Foodora)」は2014年にドイツで発足し、モバイルアプリを介して、レストランフードを個人宅へ、「ライダー(自転車配達人の通称)」が自転車で届けるサービスを提供している。新たな監査役会の労働者代表の1人には、フードラ社のライダーキャプテンとして、時給10ユーロ(注4)で働くセミ・ヤルチン氏が就任した。彼は、同時に食品・外食産業労組(NGG)の組合員でもある。今回の交渉を後押ししたNGGのシンク氏は、今回のようなケースを通じて「共同決定」という考え方が、労働組合組織率の低い外食産業等で普及する可能性に期待を寄せている。

参考資料

  • Senatsverwaltung für Integration, Arbeit und Soziales(2017)DER JOB ALS GIG Digital vermittelte Dienstleistungen in Berlin,ほか。

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