社会民主党と左派党、「請負契約の濫用」規制法案をそれぞれ提出

カテゴリー:非正規雇用労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2013年5月

自産業における比較的高い協約労働条件(とりわけ賃金規制)から逃れることを目的として請負受注先企業の労働力を利用する「請負契約の濫用」が、再び規制強化された派遣労働の代替物となっているとして、社会問題化している。もっとも、そのような「請負契約の濫用」に関する政府統計はこれまで存在しておらず、その実態は必ずしも明らかとなっていない。だが、野党であるドイツ社会民主党(SPD)とドイツ左派党(DIE LINKE)から、それぞれ別個に、「請負契約の濫用」規制に関する法律案が提出されるとともに、与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)からもこのような濫用規制の必要性に対し一定の理解が示されている。

背景に、派遣労働に対する規制強化

ドイツでは金融経済危機後、派遣労働だけでなく、請負契約によるアウト・ソーシングも、これまでにない活況を呈している。というのも、そのような派遣や請負などの外部労働力は、労働力需要の一時的高まりへの対応手段としてだけでなく、より安価な常用的労働力の獲得手段としても、活用できるからである。とりわけ、派遣労働に関していえば、連邦雇用エージェンシー(BA)の2010年の調査では、その中間層の収入は直接雇用労働者におけるそれのおよそ2分の1に過ぎず、またフルタイムの派遣労働者の4分の3は低賃金部門に従事しているという結果が発表されていた。

しかしながら、派遣労働に関しては、近年、立て続けに同部門に特定の最低賃金が法定化されたり派遣先企業の直接雇用労働者との均等処遇が法定化されたりして、賃金に関する規制が再強化されるようになった。そのようなことを背景に、ここ最近、請負労働が“第2の派遣労働”として利用される場面が増えてきている、と各種メディアで大きく取り上げられるようになってきている。

請負就労者60万人以上、10年で2倍に

もっとも、派遣労働の場合と異なり、請負労働の普及に関する政府統計は存在していない。ドイツ連邦議会は、2012年の4月に公聴会を開催するなどしているが、連邦政府は、請負契約におけるアウト・ソーシングの増加に関するドイツ左派党会派の質問に対し、「それまで事業所内で遂行されていた職務を外部化することそれ自体は禁止されてもいなければ、権利濫用的でもない、したがって当該データを調査確認する根拠は存しない」と手短に回答するに留まっている。

これに対し、各種研究所や労使団体では、少しずつ統計調査が行われ始めている。例えば、労働市場・職業研究機構(IAB)の概算によれば、ドイツ全土で60万人以上(全就労者の約2%)の人々が請負契約または有償委任契約を通じて就労しており、その数は2002年から2011年の間におよそ倍になった、とされている。また、事業所委員会戦略会議(BSB)によれば、屠殺業で約75%、造船業で約20%、精肉産業で約35%が請負受注先企業の就労者であるとされているほか、イエナ大学の社会学者らによる報告書によれば、自動車産業では就労者の30%ほどが請負受注先企業の就労者であるとされている。

“本業”的部門のアウト・ソーシングや子会社へのアウト・ソーシングも

さらに、金属産業労組(IG Metall)が2011年2月に実施したアンケート調査によれば、請負契約または有償委任契約を通じた就労は、派遣労働と同様、どの事業部門においても見られ、たとえば清掃や社員食堂、警備といった事業目的に直接関係のない部門においてだけではなく、総務、開発といった事業目的に直接関係のある部門においても、外部委託がなされている、ということである。

その他、資本関係がまったく存しない別会社への「外的アウト・ソーシング」だけでなく、例えば事業再編によって生じた(協約に拘束されない)子会社への「内的アウト・ソーシング」も広がっているという指摘もある。

社会民主党、“偽装請負”の撲滅へ向けた法案を提出

このような実態を背景に、ドイツ社会民主党は、2013年2月19日、偽装請負の撲滅へ向けた議案 (BT-Drucks. 17/12378 (PDF:142.9KB)NEW) を提出した。その中でドイツ社会民主党は、労働者派遣法(AÜG)と事業所組織法(BetrVG)の改正を提案している。まず、労働者派遣法については、請負発注元企業における労働者の職務と請負受注先企業のそれとの一致、請負受注先企業労働者による請負発注元企業の資材・器具の利用など7つの基準のうち少なくとも3つの基準に該当する場合は、当該労働者は派遣労働者と推定する、という規定の導入などが提案されている。そして、事業所組織法については、事業目的の達成に必要な労働ポストをどのような者に担わせるか(例えば直接雇用労働者か派遣労働者かなど)を共同決定事項の1つとすることなどが提案されている。

左派党は“偽装自営業者”規制も

さらにドイツ左派党も、同日、請負契約濫用防止のための法律(請負契約規制法)草案 (BT-Drucks. 17/12373 (PDF:157.5KB)NEW) をドイツ社会民主党のそれとは別個に作成、提出している。同草案では、請負発注元企業の直接雇用推定規定(2条)や請負受注先企業の均等取扱義務(4条)など、より抜本的な「偽装請負契約」規制が提案されているだけでなく、「偽装自営業者」に関する法規制(3条)の導入も提案されている。後者は、生計のために就労し、かつ、通常かつ本質的に1つの委任者にしか就労していなかったり、あるいは労働者に典型的な労務給付を提供したりするなどの特徴を有する者に対し、労働賃金の反対給付として就労している者としての推定を行うものである。

与党両党は濫用規制への対応に足並みそろわず

以上のような野党の提案に対し、与党の対応は分かれている。一方のキリスト教民主・社会同盟は、このような立法的措置を新設することによって「真性な請負契約」までもが濫用的取扱いを受けることになる恐れまで生じることに対しては難色を示しながらも、このような方向での市場統制強化を行うことの必要性に関しては一定の理解を示している。これに対し、他方のドイツ自由民主党(FDP)は、このような立法は必要ではなく、司法による対応で十分としている。

参考資料

  1. Beutler, Was wissen wir über Entwicklung, Ausmaß und Auswirkungen der Tätigkeit von Werkvertragsunternehmen?
  2. Böckler impuls 8/2012, S.7
  3. Die Welt, Mehrheit der Zeitarbeiter bekommt nur Niedriglohn, 22. 07. 2011.
  4. Frankfurter allgemeine Zeitung, SPD-Vorstoß gegen Missbrauch mit Werkverträgen, Nr. 42, 20. 02. 2013, S. 10.
  5. Karthaus/Klebe, Betriebsratsrechte bei Werkverträgen, NZA 8/2012, S. 417-426.

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