派遣労働者に最低賃金、1月に導入
―派遣法を改正、約90万人が対象

カテゴリー:非正規雇用労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2012年5月

労働者派遣法(AÜG)が昨年改正され、派遣労働者に対して、最低賃金を適用する新たな仕組みができた。1月から導入された最低賃金の金額は、東西の地域で分かれ、東部7.01ユーロ、西部7.89ユーロ。11月に、東部7.50ユーロ、西部8.19ユーロに引き上げられる。有効期限は2013年10月31日までで、派遣会社の所在地(国籍)にかかわらず、ドイツ国内で働く全ての派遣労働者に適用される。対象労働者数は約90万人と見られる。

法定最低賃金の議論も新たな局面に

ドイツには、日本のような法定最低賃金は存在しない。業種ごとの賃金の下限を決め、その労働協約を拡張する仕組みがとられている。この仕組みが軸となっているが、国外から派遣された外国人に適用されないため、「労働者送り出し法(AEntG)」による最低賃金設定が1990年半ばから実施され、建設業などの業種の最低賃金が決められている。

労働者派遣業も国外の派遣会社による賃金ダンピングが目立ち、そのために労働者送り出し法の適用対象にするかどうかが何度か議論された。結局、この方法は見送られ、昨年労働者派遣法が改正され、労使の合意に基づき労働社会省が法規命令(注1)によって最低賃金を規定することが可能になった。

法定最低賃金については、ドイツ伝統の「労使自治(Tarifautonomie)」を尊重する方法を見直す動きが出ていた。労働組合組織率と協約適用率の低下が進行し、低賃金労働や貧困問題が拡大しており、労組や社会民主党(SPD)などが、法定最低賃金の制度導入を求めていた。メルケル首相が自身の率いるキリスト教民主同盟(CDU)の昨年12月の党大会で、これまで否定してきた法定最低賃金の導入容認を提案している。

今回は派遣労働者に限定しての処置だが、全労働者を対象にした法定最低賃金の制度導入の議論は、メルケル発言で新たな局面を迎えたといえよう。

派遣労働者、均等待遇への「移行期間」が次の焦点に

最低賃金が導入され、派遣労働者の問題は均等待遇への「移行期間」に焦点が移っている。フォン・デア・ライエン労働社会相は記者会見で、「最低賃金の導入で、国外の派遣会社の不当に安い賃金によるダンピング競争から派遣労働者が保護され、労使は自身の競争力を強化できるだろう。 今後は、派遣労働者が派遣先の正規労働者と同等の賃金を受け取るために、どれくらいの期間働く必要があるか労使で話し合い、早期に合意に達してもらいたい」と要請した。

ドイツ労働総同盟(DGB)の幹部マテツキー氏は「国外の人材派遣会社の賃金の下方圧力に対抗することを目的とした最低賃金の導入は当初の予定よりも大幅に遅れたが、ようやく実現した。DGBは今後、派遣労働者のために正規労働者と厳格な同一賃金の獲得に向けた取り組みを強化していく」と述べている。

ドイツ使用者団体連盟(BDA)のフント会長は「派遣労働者と派遣先の正規労働者の賃金水準の比較や調整は、BDAではなく、原則として派遣業界団体の人材サービス業者全国使用者連盟(BAP)(注2)と労組の間で交渉されるべきだ」との考えを示した。

参考資料

  • Bundesministerium fur Arbeit und Soziales Pressemitteilungen (20.12.2011 ), EIRO online(05 April, 2012), Staffing Industry Analysts(21.12.2011), Gesetze aktuell, verlinkt, online(Anderungen an Arbeitnehmeruberlassungsgesetz :AUG)

関連情報

  1. JILPT海外労働情報2011年12月「メルケル政権、最低賃金政策を転換―連立政権内で調整へ
  2. JILPT海外労働情報2011年6月「中東欧8カ国に対しドイツ労働市場を開放―5月1日から
  3. JILPT海外労働情報2011年4月「派遣の低賃金協約無効判決―追加賃金の支払いで社会保険料も変更に
  4. JILPT「諸外国の労働者派遣制度(PDF:1.78MB)」(2011年6月)

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