請負・派遣:ドイツ
ドイツにおける派遣および「見せかけの自営」労働者

派遣労働の現状

ドイツでの派遣労働者は、2001年の年間平均で34万1000人(連邦雇用庁=現連邦雇用機関による)、同年6月末現在で35万7000人であり、90年代を通じて、10万人余りから30万人超へと伸びているが、2000年以降は大きな変化が見られない。日本で2002年に213万人を記録し、1995年(61万人、日本の数字は厚生労働省による)から3倍以上に急増している状況と比較すると、労働市場に及ぼしている影響は限定的である。派遣労働そのものに関しては、「人手不足時に利用できるという労務管理上の心理的影響は大きいといわれている」(苧谷秀信『ドイツの労働』[日本労働研究機構、2001年])との指摘がある。実際に個々の派遣労働期間をみると、連邦雇用庁(当時、現連邦雇用機関)によれば1週間以下11.4%、1週間以上3カ月未満が53%、3カ月以上が35.6%となっており(2000年)、臨時的な短期の雇用が主流である。

ドイツの派遣労働制度面では、近年大きな法改正が繰り返され、制度制定当初3カ月だった派遣期間は24カ月にまで延長され(2002年施行)、さらには期間の上限そのものを撤廃することになった(現行の2002年末成立の改正派遣法)。一方、派遣期間の規制緩和に対し、正規従業員と比較した均等待遇原則が徐々に強化され、また、3カ月を超える派遣労働者は派遣先事業所の事業所委員会選挙の投票権を持つに至っている。このように、経営者にとって、労働コスト面では必ずしも派遣労働者の採用に魅力を感じる状況にはない。

ドイツでは、派遣労働制度が厳格に運用されており、日本で問題となっているいわゆる「偽装請負」といった問題はあまり論議されていない。派遣先業種として、もとより製造業が含まれていることも問題とはなっていない。一方で特徴的なのは、建設産業でのみ派遣業が禁止されている(ネガティブリスト)ことである。建設業においては、元請業者と複数の下請業者の混在により労働者保護、社会保険適用をめぐる監視が困難なことが主な理由である。現在は「建設業者間で、しかも建設産業に係る統一労働協約の適用を受ける労働者の派遣を行う」ケースについてのみ禁止対象から外されている(苧谷、前掲書)。

「見せかけの自営」をめぐる問題

労働者保護や社会保険適用の面で問題になるのは、ドイツでは「見せかけの自営業者」と呼ばれる労働者である。「自営業」は高失業状態にあるドイツで、失業者に仕事を与え、また、やみ労働を減少させるという政策効果をもつとされる。失業者が起業した場合には補助金を支給するなど促進策が取られている(ハルツ法と呼ばれる労働市場改革法の一部)。だが、医師、弁護士、建築家など典型的な自営業と異なり、「自営」でも特定企業の業務のみを請け負って実際にはその企業に雇用されている(労務提供している)場合、問題が生ずる。このような場合、企業側は労働者を雇用するのに比べ、使用者責任を負わず社会保険料負担を逃れるという事態が生じ、90年代以降この問題が議論されてきた。

自営業者でも、クライアント企業への従属度が高ければ、企業の使用者責任が発生する。連邦経済労働省は、「固有の企業家としてのリスクを負っている」「労働力を雇う裁量がある」「自由に行動および就業時間を設定できる」ことを自営業の特徴として定義づけ、さらに業務に必要な物品の購入、人員の配置、資本と設備の調達などは自営業者が決定すべきだとする。逆に、企業が業務指示をし、企業の組織に組み込まれて労務の提供を行う場合は「見せかけ」であり、委託側企業は年金、健康保険、介護保険、失業の各保険料の使用者分を負担しなければならないとしている。また、自営業者に対しては、自分が「見せかけ」に相当するかどうかチェックすることを勧め、問合せ先として連邦社会保険庁をあげている(連邦経済労働省広報紙『グリューナー・ツアイテン』)。

2005年1月 フォーカス: 請負・派遣

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