組合組織化に関する全国労働関係法(NLRA)改正をめぐる攻防

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2011年3月

組織率がはじめて12%を切る(10年11.9%)

1月21日、労働統計局は2010年の労働組合組織率が初めて12%台を切って11.9%となったことを公表した。前年の09年は12.3%だった。

内訳は、民間企業が前年の7.2%から6.9%へ、公的セクターが前年の37.4%から36.2%へとそれぞれ低下した。下げ幅を見ると民間企業が0.3ポイントだったのに対し、公的セクターが1.2ポイントとなり、公的セクターの方が大きい。

組合員数では、建設業が23万7000人減、地方政府が19万7000人減、ヘルスケア・ソーシャルアシスタンスが7万人減、連邦政府が5万6000人減、製造業が5万2000人減。産業別でみても地方、連邦合わせて公的セクターの組合員数が最も落ち込んでいる。

組合員総数は、前年の1530万人から61万2000人減の1470万人となった。08年からの減少数をみると140万人減。1983年からの過去30年間では、8.2ポイント減となった。

従業員自由選択法(EFCA)の意義

このような組織率低下の原因の1つには、労働組合組織化を難しくさせている全国労働関係法(NLRA)の存在がある。現行の制度では、従業員の3割から、労働組合組織化へ賛成する署名入りのカードを集めることがまず必要である。その上で、経営側が自発的に組合組織化を認めるか、もしくは従業員による投票が行われるかのどちらかとなる。投票となれば全従業員の過半数の賛成が必要である。

投票になった際には、事前の署名カード集めの段階で過半数の賛成を獲得していたとしても、労働組合側の勝率が低い。その理由として、労働組合側は、経営側による選挙引き伸ばしとその期間における組織化への妨害工作をあげる。このような経営側による妨害工作が不当労働行為とされることが少ないことに加え、罰則が弱いことを勝率が低い原因として労働組合側は主張している。

この状況を打開するものとして、従業員自由選択法(EFCA・Empoyee Free Choice Act)案の成立を労働組合側は期待している。この法案は、労働組合が従業員の過半数から組織化に賛成する署名入りカードを集めるだけで自動的に組合が成立することを保障するほか、経営側による不当労働行為に対する罰則の強化、組合成立後に最初に取り交わす労働協約に経営側が誠実に対応しなかった場合の罰則などが織り込まれている。

しかし、この法案は下院で可決したものの、審議がストップしており、成立が疑問視されている。

それに加え、共和党をはじめとする保守派はEFCA成立に反対するだけでなく、組合をよりつくりにくくする法案を準備してきた。

秘密投票法案(Secret Ballot Bill)の登場

NLRAは労働組合組織化の手続きを規定している。これによれば、従業員の3割が組織化に賛成した場合に、(1)使用者が自主的に認めること(カードチェック)、もしくは(2)従業員の無記名秘密投票で過半数をとるかのどちらかで組合組織化が成立する。しかし、保守派は従業員が組織化に反対する権利を保障すると称して、秘密投票の手続きを強化する法案をEFCAに対抗してぶつけてきた。

秘密投票を強化することは、一見すれば、労働組合だけでなく使用者からの圧力も排除されて組織化に有利に働く印象を与える。しかし、この法案の真意は別のところにある。NLRAが保障する使用者による自主的な承認(カードチェック)と従業員による投票という2つの選択肢のうち、使用者による自主的な承認の道を完全に潰してしまうことが目的なのである。

実際のところ、カードチェックによる組合承認は1980年代からほとんど行われていない。つまり、秘密投票法によりどんな状況でも選挙が必要となれば、EFCAが成立して従業員の過半数から署名入りカードを集めて組織化が自動的に認められる事態へ先手を打つことになる。

この秘密投票法はアリゾナ、サウスカロライナ、サウスダコタ、ユタの4州ですでに成立している。また共和党はこの法案を連邦議会に提出する準備を進めている。

この件に関し、全国労働委員会(NLRB)は、4州の秘密投票法が連邦法であるNLRAの第8条(a)1項、2項で定めた組織化における使用者の干渉を禁じる条項と組織化を進める従業員への差別的取り扱いを禁じる条項に抵触することを指摘し、4州の検事総長に再考を促す手紙を送付した。また、再考されない場合は法的手続きを取ることも明言している。これに対し、4州は争う構えを見せている。

法律ではなく制度変更による変化

このようなNLRA改正をめぐる対立は、民主党、共和党それぞれが法案を提出することに留まらない。EFCAのような抜本的解決が難しい状況に際し、全国仲裁委員会(NMB)は組織化に関する制度変更で対応しようとした。NMBは、民間企業における労働問題の仲裁を行うNLRAに対し、航空・鉄道などの交通・運輸部門を取り扱う。NMBの行った制度変更は投票の手続きに関するもので、従来は組織化反対票としてきた棄権票を投票総数から取り除くというものである。この制度変更により、組織化に反対する従業員は実際に投票に望まなくてはならなくなった。制度変更後に行われた選挙をみると、明らかに労働組合側に有利な結果となっている。

この方法には批判の声もある。組織化にあたっては実投票数だけをカウントすることにした。その一方で、組合から抜ける選択を労働者がする場合もやはり投票になるが、その場合も実投票数だけで行えば労働組合側に不利になる可能性があるが、その制度変更は特にない。これが法律改正なしに行うことへの批判の1つである。

現在のところ、NMBで行った制度変更をNLRBが採用するといった動きは見られていないものの、オバマ政権は前政権で採用した共和党寄りの委員を民主党寄りの委員へと変更しつつある。これにより、NLRBでもNMBと同様の制度変更を行う可能性は高まっている。
しかし、EFCAの成立可能性が低まり、秘密投票法案が連邦議会へ提出されるなど、労働組合組織率回復をめぐる状況は依然として厳しいままである。

参考

  • Four States Defend Secret Ballot Laws, As Gop Senators Back Them With New Bill, Jan.27,2011
  • NLRB Letters to Four States Assert NLRA Preemts ‘Secret Ballot Ammendments’, Jan.14,2011
  • NMB faces Year With Increased Mediation, Representation Caseloads, Jan.21,2011
  • Solomon Will Recommend ‘New Framework’ For NLRB Deferral to Arbitration Procedures, Jan.21,2011
  • Union Membership Dropped in 2010, As Key Industries Shed Jobs, BLS Says, Jan.21,2011 ‘Unionization Through Regulation’ Decried As End-Run in Favor of Union Organizing, Daily Labor Report, Jan.13, 2011

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