求職者基礎保障給付、月額5ユーロ増へ

カテゴリー:雇用・失業問題勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2010年9月

メルケル首相率いる連立政権は9月26日、与党内で議論が続いていたハルツ第4法に基づく求職者基礎保障給付を、現行の月額359ユーロから364ユーロ(成人1人あたりの標準額)に引き上げることで合意した。2011年1月1日からの施行を目指す。

給付引き上げ案の骨子

「求職者基礎保障制度」は、長期失業者とそのパートナー等の生活保障を目的としており、「ハルツ第4法(Hartz IV)」に基づき「社会法典第2編(SGBⅡ)」で規定している。給付の中心となるのは「失業給付Ⅱ(注1)」で、長期失業者や就業能力のある生活保護受給者に、就労を促す目的で2005年に創設された。給付対象のほとんどは長期失業者であり、その多くが職業教育を受けていない無資格者や低資格者である。現地の報道(ZDF)によると、引き上げで恩恵を受ける成人(満18歳以上)受給者は約430万人、受給者の子どもは約170万人とみられている。骨子案は、表1の通り。

表1.求職者基礎保障の標準給付額(月額)
受給資格者 現行 2011年1月1日~
成人で
・単身者
・単身養育者(ひとり親)
・未成年(満18歳未満)のパートナーがいる人
€359 €364
・2人とも成人(満18歳以上)のカップル €323(各自)
(€359の90%)(各自)
€364の90%(各自)
・受給者のパートナーで未成年の者
・その他の就労可能で要扶助者と同一世帯に所属する者
€287
(€359の80%)
€364の80%
・満14歳以上~18歳未満の子ども €287
(€359の80%)
現行のまま据え置き
※金額の引き上げではなく、現物給付の追加による実質引き上げ
・満6歳以上満14歳未満の子ども €251
(€359の70%)
・満6歳未満の子ども €215
(€359の60%)

資料出所:Bundesagentur für Arbeit(連邦雇用エージェンシー)、ZDF(9月27日付)

月額364ユーロの主な内訳には、食費(€128.46)、被服費(€30.40)、余暇費(€39.96)などを含む。今回はさらに「医療費」や「インターネット利用費」の項目を追加し、「飲酒」と「喫煙」を削除した。

なお、受給者の子どもに対する給付額は現行のまま据え置く。ただ、この給付額については、今年2月9日に「子どもに対する給付額は、単純に成人の60~80%としているだけで、子ども特有の事情や必需品について考慮していない」として、連邦憲法裁判所(BVerfG)が算定方式に関する違憲判決を出している。判決を受けて政府が見直した算定方式では現行額を下回るため、裁定の悪化禁止条項(現行額を下回ってはならない)に従って据え置きとなった。また、新たに「教育パッケージ:Bildungspaket」とよばれる現物給付を追加し、学校給食、学用品の購入、音楽やスポーツ等のクラブ参加費に充てる。換算すると1人あたり月額約20ユーロ以上の引き上げとなり、政府の予算総額は約6億2000万ユーロに上る。

労組や野党は反発

政府案について、労組、野党、福祉団体らは「引上げ額が少なすぎる」として反発している。社民党(SPD)のマヌエラ・シュウェジング(Manuela Schwesig)副党首は「社会的弱者を犠牲にしている」と述べ、同盟90/緑の党のジェム・オズデミル(Cem Özdemir)党首は「現政権の方針は道徳的配慮に欠けている」と批判した。

一方、ウルズラ・フォン・デア・ライエン(Ursla von der Leyen)労働社会相はこれらの批判に対して「現政権の優先事項は、長期失業者をいかにして就業に導くかということである」と述べた上で、「長期失業者は仕事を求めている。今私たちがすべきなのは、このような長期失業者の願いに応えることだ」と反論した。

一方、長期失業者等の給付額引き上げに対する世論の風当たりは強い。民間の世論調査会社Eminidが26日に実施した調査によると、回答者の過半数以上(56%)が「給付額のいかなる引上げにも反対」としている。

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=114.00円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2010年9月29日現在)

関連資料

参考資料

  • 労働社会省ホームページ、雇用エージェンシーホームページ、Deutsche Welle(9月26日付)、ZDF(9月27日付)、海外委託調査員報告

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