失業給付と社会扶助の統合
―詳細が明らかに

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  • 国別労働トピック:2004年10月

「痛み」を伴う改革

昨年12月に可決された労働市場改革関連法の一環として、失業者および生活保護対象者に大きな影響を及ぼす施策(ハルツ第Ⅳ法)が、ドイツで論争を引き起こしている。同法の柱は、「失業扶助」と「社会扶助」(生活保護手当に相当)を統合して「失業給付Ⅱ」を創設すること。失業保険による通常の失業給付の受給を終了した長期失業者や、就業能力のある社会扶助受給者を労働市場に呼び戻し、失業の減少と就業率のアップを目指すのがねらいだ。だが、通常の失業給付期間を過ぎてからも、以前の収入の5割以上を、期間の制限なしに受給できる「失業扶助」を得ていた長期失業者にとっては、今後、給付額が減り、また受け取るために厳しい資産査定が必要となるなど、条件が低下するケースが多い。このほか、新たな失業給付Ⅱ対象者は、職業安定所を改組した職業紹介機関(Agentur fuer Arbeit、通称ジョブセンター)が紹介する仕事を正当な理由なしに拒むと、給付を制限されるなど規程が厳しくなっており、これまでの制度と比較した厳しい「痛み」に対する反発が強まっている。8月以降は、失業の多い旧東独地域を中心に、毎週月曜に抗議デモが組織された。このような状況の中で、連邦政府は、国民に詳細を説明し理解を求めながら、新制度実施(来年1月を予定)のスケジュールを守る構えを示している。以下に新制度の概要を示す。

新制度のポイント

  1. 55歳未満の失業者は12カ月、55歳以上は18カ月の失業給付期間を過ぎると、「失業給付Ⅱ」を申請することとなる。就業能力のある社会扶助受給者も同様である。病気や障害などによって働けない人は、これまでの社会扶助に相当する「社会給付」を受け取る。

  2. 職業紹介機関(ジョブセンター)が紹介する仕事を正当な理由なしに拒むことはできない。勤務地が遠い、(産業別)労働協約賃金以下である、従前から持っている職業資格が反映されない-なども拒否理由にできない。拒否したうえ、自分でも仕事を見つけられない場合、失業給付Ⅱの受給を3カ月にわたって減額される。

  3. 失業給付Ⅱと社会給付の月額は、旧西独地域で345ユーロ、旧東独地域で331ユーロ。配偶者がいる場合、西で331ユーロ、東で298ユーロがそれぞれ加算される(1ユーロ=約135円)。子供がいれば、さらに加算措置がある。このほか、ジョブセンターは必要に応じ、対象者の家賃、暖房費、家具備品、被服費などを支給する。なお、失業保険による失業給付(前職の収入をもとに算定)からの落ち込みを緩和するため、失業給付Ⅱ移行時から2年間は別に一定の補助金が出る。

  4. これまでの社会扶助受給者の多くは、失業給付Ⅱの支給対象にならない可能性がある。本人のもつ資産が査定されるだけでなく、家計を共にする配偶者の収入も計算に入れられるからだ。支給対象となるには、資産が1歳につき200ユーロ、たとえば40歳であれば8000ユーロ以下でなければならない(15歳以上の場合、4100ユーロまで許容される)。配偶者が加算支給を受ける場合も、同じ計算で資産が制限される。住居、車については、「適当な」ものの所有が認められる。住居の部屋数や面積など、一定の基準が設けられている。

  5. 失業給付Ⅱ受給者が、公共・福祉部門などが提供する「1ユーロ・ジョブ」(時給1~2ユーロ前後の低賃金の仕事)あるいはその他の労働に従事した場合、一定の収入までは失業給付Ⅱを受給する権利を失わない。その範囲は、月収1500ユーロまでである。失業状態から就業生活への円滑な移行のためとされる。

  6. 失業給付Ⅱ対象者には、年金の掛金が援助され、将来法律に基づいて老齢年金を得ることができる仕組みとなっている。ただし、私的年金については、積立額が一定水準を上回ると、資産査定の対象となる。

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