求職者の基礎保障の実施主体に違憲判決 

カテゴリー:雇用・失業問題

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2008年2月

連邦憲法裁判所は2007年12月、「求職者の基礎保障」(最低生活保障制度)の実施機関である「協同組織」が憲法にあたるドイツ基本法の権限規定に抵触するとして違憲判決を下した。立法者に対しては、遅くとも2010年12月末までに新たな規定を制定するよう義務づけ、それまでは現行の規定が適用可能なものとして残るとした。連邦と自治体の共同事務なしに、求職者の基礎保障にかかわる行政のワンストップサービスをどのように確保していくかが課題となっている。

最低生活保障制度の再編

シュレーダー前政権は、2005年1月施行のハルツ第Ⅳ法に基づき、就労能力のある生活困窮者の最低生活を保障する「求職者の基礎保障」制度(社会法典第Ⅱ編)を新設した。それまでは失業手当受給期間の満了した失業者を対象とする失業扶助(従前所得の57%、子供がいない場合は53%)と生活保護に相当する社会扶助という税財源に基づく2つの制度が併存していた。失業扶助は連邦、社会扶助は自治体が実施機関となり、運営費用もそれぞれの機関が負担していた。失業扶助には支給期間が設けられておらず、就労能力のある者が社会扶助を受給するなど、2つの制度に明確な区分がなく、非効率で莫大な費用のかかる状態が続いていた。自治体は、経済停滞による失業の増大は連邦の責任が大きいにもかかわらず、自治体が社会扶助にかかる費用を全額負担し失業者の面倒をみなければならないことに強い不満を持っていた。

このため、求職者の基礎保障は、失業扶助と社会扶助の一部を統合して、失業手当の受給資格のない就労能力のあるすべての生活困窮者を対象とする失業給付Ⅱ(月額347ユーロの基準給付)および社会手当(パートナー・子供に対する給付)を創設し、失業給付Ⅱ受給者に強力な就労義務を課した。社会扶助の対象は就労能力のない生活困窮者に限定された。

この制度改正により、2004年12月末時点で失業扶助受給者226万人、社会扶助受給者291万人であったのが、2005年12月末には失業給付Ⅱ受給者496万人、社会手当受給者178万人、社会扶助受給者8万人となった。

実施機関をめぐる対立

シュレーダー政権が2003年に連邦議会へ提出したハルツ第Ⅳ法の当初案は、連邦雇用エージェンシー(BA)が求職者の基礎保障の実施機関となり、そこに自治体職員を受け入れて、最低生活保障給付と職業斡旋、生活支援サービスを一手に行うこととしていた。しかし、連邦参議院において、長期失業者に対するケアは自治体が担当すべきであると主張する野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と意見が激しく対立し、最終的にBAと自治体の2つが実施機関となった。ただし、「一つの手からの援助」を実現するため、BAと自治体がジョブセンター内に「協同組織」を設立し、BAが失業給付Ⅱおよび社会手当の給付と職業紹介、就労支援を、自治体が住居費、暖房費の支給と生活支援サービス(負債・依存症相談など)を担当することとした。運営費用もそれぞれの担当機関が負担している。また、BAの業務も含め求職者の基礎保障の事務を自ら行使することを希望する全国69の自治体には単独での管轄権が認められた。その期間は6年であり、2008年末までにこの方法を継続するか否かを再検討することとしている。

連邦憲法裁判所が違憲判決

連邦憲法裁判所は2007年12月20日、求職者の基礎保障の組織上の規定に関する郡の提訴に対し、協同組織は自治体が自己責任において事務を処理する権利を侵害し、基本法の権限規定に抵触するとの判決を下した。

判決は、基本法の体系に基づき、連邦法の執行は連邦もしくは州によって遂行されるものであって、連邦と州もしくは両方によって設立された第三の機関によって遂行されるものではないとする。また、連邦と州によって共同事務を遂行するためには特別な憲法上の委任が必要であるが、協同組織においてそのような例外措置を正当化する客観的理由は見当たらないとしている。さらに、権限を有する行政団体は原則的に自らの人材、予算、組織によって事務を遂行することを義務づけられており、協同組織の設立はこの原則に反するとする。

判決は、立法者が求職者の基礎保障を「一つの手」によって行わせたいとする願望は意義のあることであると指摘する。しかし、それは連邦が自ら行うかまたは執行全体を州に委任することによって達成できるとしている。立法者に対しては、遅くとも2010年12月31日までに新たな規定を制定するよう義務づけ、それまでは現行の規定が適用可能なものとして残るとした。

判決を受けて、SPDのショルツ労働社会相は、職業斡旋を地域の管轄権を越えて保障する必要性から、引き続きBAの中央制御機能の確保を主張した。これに対しキリスト教民主・社会同盟は、地域の事情に合わせた分権的な解決策が正しい方法だと主張している。

連邦憲法裁判所が違憲としたBAと自治体の協同事務なしに、職業斡旋、就労促進と住宅費・暖房費の支給、依存症・債務相談にかかわるワンストップサービスをどのように提供していくかが大きな課題となっている。

参考レート

2008年2月 ドイツの記事一覧

関連情報