若年者の就労支援
―特殊雇用契約に関する報告書から

カテゴリー:雇用・失業問題若年者雇用

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  • 国別労働トピック:2010年8月

特殊雇用契約はこれまで、雇用主に対する優遇措置を盛り込みながら特に就職が困難な若年者等の就労を促進してきた。フランスで特殊雇用契約が制度化されたのは1980年代であるが、その後様々な特殊雇用契約の制定と改廃が繰り返されてきた。サルコジ現政権は、見習い契約を始めとするこの特殊雇用契約を景気・雇用対策の重要な柱として位置付けている。

特殊雇用契約とは

特殊雇用契約は、職業訓練や賃金補助を労働契約と一体化させ、求職者の雇用または失業者の再就職を促進させる制度。雇用主は、条件を満たした場合特殊雇用契約を締結して、従業員(職員)を採用することができる。1980年代後半以降、様々な特殊雇用契約の制定と改廃が繰り返されてきた。2005年1月に制定された「社会統合法(Loi n°2005-32 du 18 janvier 2005 de programmation pour la cohésion sociale)」では、(1)雇用主導契約(CIE, contrats initiative emploi)、(2)活動最低所得・参入契約(CI-RMA, contrats insertion – revenu minimum d’activité)、(3)就業指導契約(CAE, contrats d’accompagnement dans l’emploi)、(4)将来契約(CAV, contrats d’avenir)の4特殊雇用契約を利用して、就職の困難な者の雇用を促進させることが定められた。また、2009年6月からは総額13億ユーロ(およそ1700億円)にのぼる緊急雇用対策の中で若年層を対象とした「見習い契約」と「熟練化契約」(注1)を通じた支援が実施された。さらに2010年5月の政労使協議ではこの一部を2010年末まで延長することが決定されている。特殊雇用契約は種類によって対象となる労働者や締結可能な雇用主、契約期間、労働時間、支払われる賃金額などが異なる。職業訓練に関しては、任意の場合と義務付けられている場合の両方がある。また雇用主に対する優遇措置としては、賃金に対する補助、職業訓練費用に対する補助、社会保険料の雇用主負担の減免など、様々な方法が組み合わせられている。ここでは上記4特殊雇用契約の特徴と現在の状況を種類別に見てみる。

特殊雇用契約の特徴

(1)雇用主導契約(CIE)

対象は 就職が困難な者。原則としてUNEDIC(失業保険制度)に加入している法人(主に民間企業)の雇用主であれば契約の締結が可能。契約期間は無期もしくは24カ月以下の有期雇用契約。フルタイム又はパートタイムでの就業(パートタイムは最低週20時間労働)の場合、SMIC(法定最低賃金)以上の賃金を支払う必要がある。なお職業訓練は任意。雇用主に対する優遇措置としては、SMICの47%相当額を限度とする国からの補助金(無期雇用契約の場合は24カ月間が限度)が支給されるほか社会保険料雇用主負担の減免措置がある。

(2)活動最低所得・参入契約(CI-RMA)

活動連帯所得手当(RSA)受給者(注2)、特別連帯給付(ASS)受給者(注3)、成年障害者手当(AAH, allocation pour adulte handicapé)受給者などを対象とする。官公庁を除く企業(公営企業を含む)の雇用主が締結できる。契約期間は無期もしくは6カ月以上の有期雇用契約で2回まで更新可能。但し、雇用期間の合計で最長18カ月を限度とする。フルタイムまたはパートタイムでの就業(パートタイムは最低週20時間労働)の場合、SMIC以上の賃金を支払う必要がある。職業訓練は任意。雇用主に対する優遇措置としては、定額手当の支給(4単身者の生活保護と同額、2008年1月1日現在447.91ユーロ/月)、社会保険料雇用主負担の減免措置がある。

(3)就業指導契約(CAE)

就職困難者を対象とする。地方自治体、公的法人、民間非営利団体、公共サービス運営法人などが締結でき、通常の民間企業(すなわち営利目的の民間企業)は不可である。契約期間は6カ月以上の有期雇用契約(2回まで更新可能、但し雇用期間の合計は原則最長24カ月を限度)。フルタイムまたはパートタイムでの就業(パートタイムは最低週20時間労働)の場合、SMIC以上の賃金の支払いの必要がある。職業訓練は任意。雇用主に対する優遇措置は、SMICの95%相当額を限度とする国からの補助金、社会保険料雇用主負担の減免措置など。

(4)将来契約(CAV)

活動連帯所得手当(RSA)受給者、特別連帯給付(ASS)受給者、成年障害者手当(AAH)受給者を対象とする。地方自治体、公的法人、民間非営利団体、公共サービス運営法人などが締結でき、通常の民間企業(すなわち営利目的の民間企業)は不可である。契約期間は原則として24カ月の有期雇用契約(更新可能、但し雇用期間の合計は原則最長36カ月を限度)。週26時間労働の場合、SMIC以上の賃金を支払う必要がある。職業訓練は義務付けられる。雇用主に対する優遇措置としては定額手当の支給(注4)、社会保険料雇用主負担の減免措置がある。

なお、これらの4特殊雇用契約は、2010年1月1日より、統一参入契約CUI (Contrat Unique d’Insertion)に統合された。ただ、実際には、CUI-CAE (以前と同様にCAEと呼ばれることもあり内容もCAEに準ずる)、CUI-CIE (同じくCIEとも呼ばれる)と区別されることも多い。

2008年の状況

特殊雇用契約の現状については、Dares(雇用省統計局)が2008年の状況をまとめた報告書を提出している(注5)。報告書によると、2008年における就職指導契約(CAE)は18万6000件、将来契約(CAV)10万9500件、雇用主導契約(CIE)3万5500件、活動最低所得・参入契約(CI-RMA)2万7000件で合計締結件数はおよそ35万8000件(約4割に当たる14万6500件は契約の更新)であった。これは対前年比23%の減少にあたる。フランスでは2008年半ば以降、金融危機の影響で景気後退が始まったが、2008年通年における雇用指標は前年比で良好なパフォーマンスを示していたためこれが影響したものと考えられる。2007年に8.0%であった失業率は、2008年には7.3%まで低下した(注6)。以下では、各特殊雇用契約の2008年における状況をDares報告書に沿って見てみよう。

雇用主導契約(CIE)は若年者比率が上昇

2008年の1年間に締結または更新された雇用主導契約(CIE)は3万5523件で、前年(3万7605件)よりわずかな減少に留まった。しかしながら、CIE締結者の構成は男女比を除いて(CIE締結者男性比率、2007年55.3%、2008年57.0%)大きな変化があった。例えば、新規にCIEを締結した者のうち25歳以下の若年者の比率は、2007年9.0%から2008年35.7%へ大幅に高まった。逆に、2007年には59.6%に達していたCIE締結者に占める26歳以上50歳未満の中高年者比率は29.6%に低下した。これは未熟練の若年者を対象にした特殊雇用契約であった企業における若年者契約Contrat Jeunes en Entreprises (SEJE : Soutien à l’emploi des jeunes en entrepriseとも言う)が、2007年12月31日をもって廃止されたため、その代替え措置としてCIEを締結するケースが増えたことによる。同様の理由で、CIE締結者のうち長期失業者だった者(長期失業者は中高年に多い)の占める比率が低下し(求職者登録の期間が1年以上の者の比率、2007年67.8%、2008年44.2%)、低学歴・低職能の者の比率 が上昇(バカロレア以上の学歴を持たない者の比率、2007年62.2%、2008年69.4%)した。また、製造業や建設業など第2次産業に属する就業者の比率は、2008年で29.0%(2007年は27.1%)に達している(注7)。CIE締結者の多く(2007年66.1%、2008年66.9%)は、従業員数10人未満の小規模事業所で就業している。さらに、CIE締結者の17.1% (2008年、2007年は13.7%)のみが有期雇用契約であった。

活動最低所得・参入契約(CI-RMA)は大部分が小規模事業所

2008年の1年間に締結または更新された活動最低所得・参入契約(CI-RMA)は、2万7095件で、前年(3万6443件)より大きく減少した。しかしながら、構成には大きな変化は見られなかった。CI-RMA締結者は男性(2007年60.8%、2008年58.2%)、低学歴者(バカロレア以上の学歴を持たない者の比率、2007年70.2%、2008年69.5%)、長期失業者(求職者登録の期間が1年以上の者の比率、2007年54.9%、2008年53.6%)に多いという傾向がある。第2次産業で就業する者の比率に関しては、25.6%で、前年(28.4%)よりやや減少した。CI-RMA締結者の大部分(2007年データ無し、2008年で71.4%)は、従業員数10人未満の小規模事業所で就業している。CI-RMA締結者のうち、有期雇用契約で採用された者の比率は、55.7%(2008年、2007年データ無し)に達している。

就業指導契約(CAE)は低学歴者比率が上昇

2008年の1年間に締結または更新された就業指導契約(CAE)は186,103件で、前年(26万6322件)より減少した。うち68.8%は女性であり、これは前年(68.7%)とほとんど変化はない。また、CAE締結者に占める若年者(25歳以下)の比率がやや低下(2007年36.4%、2008年31.8%)したのに対して、中高年(26歳以上50歳未満)の比率がやや上昇した(2007年15.6%、2008年20.6%)。また、CAE締結者に占める低学歴者の比率はやや上昇(バカロレア以上の学歴を持たない者の比率、2007年65.8%、2008年71.4%)した。CAE締結者に長期失業者が多いことには依然変化が見られない(求職者登録の期間が1年以上の者の比率、2007年59.9%、2008年60.6%)。CAE締結者の多くは、民間非営利団体で就業(2007年43.2%、2008年46.7%)している。

将来契約(CAV)はNPO比率が上昇

2008年の1年間に締結または更新された将来契約(CAV)は10万9265件で、これも前年(12万4201件)より減少した。CAV締結者の構成に大きな変化はなかった。CAVの締結者はほぼ男女同数(男性比率、2007年46.1%、2008年48.7%)で、26歳以上50歳未満(2007年78.2%、2008年77.0%)や低学歴者(バカロレア以上の学歴を持たない者の比率、2007年73.9%、2008年76.4%)、長期失業者(求職者登録の期間が1年以上の者の比率、2007年60.0%、2008年57.4%)に多い。CAV締結者のうち民間非営利団体で就業する者の比率は、上昇(2007年55.8%、2008年63.4%)した。

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=113.38円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2010年8月2日現在)

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