IGメタルの交渉妥結
―賃上げ3.6%、非正規の均等待遇など
金属産業労組(IGメタル)は9月30日、鉄鋼部門の労使交渉で3.6%の賃上げに合意したと発表した。賃上げは10月1日から14カ月の予定で実施する。労使はこのほか、2011年から派遣労働者と正規労働者の時給を同額にすることや、150ユーロの一時金などで合意した。
今回の合意はドイツ北西部(ノルトライン=ヴェストファーレン州、ニーダーザクセン州、ブレーメン州)の8万5000人の鉄鋼労働者が対象となる。業界大手のアルセロールミタル社(ArcelorMittal)、ティッセンクルップ社(ThyssenKrupp)、ザルツギッター社(Salzgitter)などが含まれる。
IGメタルのベルトホルト・フーバー(Berthold Huber)会長は、今回の合意を「公正かつ公平なものだ」と積極的に評価した上で、派遣労働者の時給に関する合意については「同一労働同一賃金の普及に向けた重要な一歩だ」と述べた。
鉄鋼産業の使用者団体AGV Stahlのヘルムート・コッホ(Helmut Koch)会長は「今回の交渉は非常に難しかった」と語った。使用者側が特に慎重な姿勢をみせたのは、派遣の時給を正規に合わせる点である。報道(Staffing Industry Analysts)によると、派遣労働者の賃金総額は、通常は正規労働者の約8割程度と言われている(注1)。ただ、現在の鉄鋼産業では派遣労働者の割合は全体の約3%と少なく、コスト増への影響が比較的低いため、使用者側も最終的に合意したのではないかとみている。
一方、ドイツ人材派遣協会(BZA)のトーマス・バウマー(Thomas Bäumer)副会長は「合意は受け入れがたい」として反対している。バウマー氏は「同一労働同一賃金に反対しているわけではない。合意するなら、まず『同じ仕事とは何か』を定義しなくてはならない。さらに合意内容は、交渉当事者ではない第三者の派遣会社のコストに影響を与えるため、もしこれが実施されるなら派遣協会も当事者として協議に加わるべきだ」と述べて、訴訟も視野に入れている。BZAは、IGメタルが加盟するナショナルセンターの労働総同盟(DGB)と別途団体交渉を行ってすでに合意している(期限:2013年まで)。
IGメタルは、前回の交渉で4.5%の賃上げを要求し、最終的に2.0%の賃上げと350ユーロの一時金で妥結した。今回は、好調な景気回復を追い風にして当初6%の賃上げを要求していた。
今後の動きとしては、傘下の組合員が10月12日を期限にこの合意を受け入れるかどうかを判断する。
注
- ドイツの派遣労働(Leiharbeit)は、原則として派遣先の労働者との同一の賃金や労働条件の均等待遇が規定されているが、労働協約で別の定めをしている場合等は除くという例外がある。この点については、「ドイツでは派遣労働者の大半が関連賃金協定に拘束される事業会社で働いている。形式的には『均等待遇』が成り立っているが、実際はそうではなく、協約の拘束力が使用者を均等待遇義務から解放しているのが実情である(ハルトムート・ザイフェルト前ハンスベックラー財団経済社会研究所所長による)」という指摘がある。
参考資料
- IG Metall ホームページ、ZDF(9月30日付)、AP(9月30日付)、Reuters(9月30日付)、Staffing Industry Analysts(10月1日付)
関連資料
- 海外労働情報(2010年8月)「秋闘、景気回復で労組が賃上げ攻勢へ」
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=114.19円(※みずほ銀行
ホームページ2010年10月5日現在)
2010年10月 ドイツの記事一覧
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