秋闘、景気回復で労組が賃上げ攻勢へ 

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  • 国別労働トピック:2010年8月

ドイツ連邦銀行は8月19日の月次報告で、2010年の実質経済成長率見通しを約3%に上方修正した(図1)。好調な輸出の影響で今年第2四半期(4~6月)の国内総生産(GDP)速報値が前期比2.2%増と異例の高成長を記録したのを受けて、通年見通しを引き上げた。このような景気回復の動きとともに、9月に始まる大型の労使交渉を目前に控え、ドイツ国内で賃上げ議論が活発化している。

図1.ドイツの実質経済成長率の推移(2005~2010年)

図1

資料出所:Financial Times

専門家ら、3%の賃上げは妥当

ドイツの著名な経済学者で、政府の経済諮問委員も務めるペーター・ボーフィンガー(Peter Bofinger)教授は、8月2日に地元紙(Rheinische Post)の取材に応じて「ここ数年の極端な賃金抑制は問題だ。景気が回復しつつある今、1%の生産性向上と欧州中央銀行(ECB)が目指す約2%のインフレ率を考慮すると、より安定的に回復を維持していくために少なくとも3%以上の賃上げが妥当だ」と発言した。これを複数メディアが取り上げ、波紋を呼んでいる。
ドイツの賃金は2008年に平均3%上昇したが、その後は抑制されている。

ホルスト・ゼーホーファー(Horst Seehofer)CSU(注1)党首も「労働者が妥当な額の賃上げを要求するのは当然だ」とドイツ公共放送連盟(ARD)に対して語った。さらに「労働組合は、危機の時に賃上げ要求の自粛と責務を果たした。景気が回復した今、労働者が目に見える見返りを求めるのも理解できる」と述べた。

労働組合、賃上げ前倒し要求へ

ペーター・ボーフィンガー氏らの発言を受け、ドイツの労働組合は賃上げ攻勢を強めている。

ドイツの有力な産別労組である金属産業労組(IGメタル)は今年2月18日、2010年の賃上げを凍結して少額の一時金(労働者1人あたり€320)に抑える一方で、来年の2011年4月以降は2.7%の賃上げを実施することで合意した(注2)。しかし、業績が急速に回復している自動車や家電産業分野では「企業の業績が上がれば賃上げを2カ月早めることができる」という労働協約の条項を利用して、2カ月前倒しで来年2月から賃上げ実施を求めている。

IGメタルのベルトホルト・フーバー(Berthold Huber)会長は「秋に始まる全国11万人の鉄鋼労働者のための交渉では『賃上げ』と『有期契約の問題改善』を焦点に要求していく」としており、8月27日の時点で6%の大幅な賃上げを求める方針を明らかにしている。今後、9月から始まるIGメタル鉄鋼産業労組の賃金をめぐる労働協約交渉(秋闘)の行方が注目される。

使用者側は、慎重な構え

これに対してドイツ使用者連盟(BDA)のディーター・フント(Dieter Hundt )会長は、8月1日のドイツ放送(Deutschlandfunk)で「まだ警戒は必要だ」と語った。「安心するのは早い。現在の景気回復にはいかなる重荷や脅威も与えるべきではない」と述べて賃上げの動きをけん制した。フント会長は、経済危機から今日まで企業が深刻な打撃を受けずに済んだ主な要因に賃金抑制があると主張した上で、「今般の経済回復の多くは輸出産業に頼っており、一方で国内需要の回復は未だに緩慢だ」と述べ、外需主導の回復の不安定さを強調した。

研究機関、賃上げ可能性を示唆

ハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)が今春の交渉結果を分析したところ、経済危機の影響を強く受けて平均賃上げ率は1.7%にとどまり、2009年の2.6%を大きく下回ることが判明した。同研究所は、各産業で平均三%程度の賃上げは可能との見方を示している。

一方、8月2日付のドイチェ・ヴェレによると、キール大学世界経済研究所(IfW)は、2013~2014年には、ドイツで景気回復による大規模な労働力不足を原因とした4%以上の賃上げがあると予測している。

労働の未来研究所(IZA)のヒルマー・シュナイダー(Hilmar Schneider)所長も同じく数年以内の大幅な賃上げ可能性を示唆した上で「多くの労働者は今後、今後交渉を通じて賃上げに成功するだろう」と語った。

参考資料

  • Spiegel(8月2日)、Deutsche Welle(8月2日、8月29日)、 ZDF(8月2日)、Financial Times(8月5日、8月19日)、IG Metallホームページ(8月19日)

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=113.38円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2010年8月2日現在)

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