メルケル新政権発足と課題

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  • 国別労働トピック:2005年12月

11月22日、ドイツ連邦議会でアンゲラ・メルケル氏(CDU=キリスト教民主同盟)が女性としてドイツで初めて首相に選出され、CDU/CSU(キリスト教社会同盟)とSPD(社会民主党)の二大勢力による連立政権が同日、発足した。両勢力は10月10日の段階で連立を組む方針を明らかにし、新政権の政策協議に移行。11月11日に、今後4年間の政策指針といえる連立協定を発表している。11月22日には、CDU/CSUとSPDがともに同数(首相を含む)の閣僚ポストを分け合うとする合意どおりに閣僚が任命された(閣僚名簿)。シュレーダー政権下の経済労働省は分離され、労働部門は新たに労働・社会省が担当する。労働・社会大臣には、SPD側の連立交渉をリードしたフランツ・ミュンテフェリング氏(前SPD党首)が副首相を兼ねて就任した。

付加価値税引き上げ-世論の反発

新政権は、財政の健全化を図り歳出を抑制、社会保障制度改革を進める一方で、11%に及ぶ高い失業率(10月現在)の解消を目指すなど、経済・雇用情勢の改善に取り組むという困難な目標を課せられている。この状況下でまとめられた連立協定では、連邦議会選挙(9月18日実施)までにCDU/CSUとSPDがそれぞれ主張してきた政策をかなり取り入れているが、一方が主張し他方がそれに反対してきた政策項目も多い。その代表的な例が付加価値税の引き上げで、16%の現行税率を2007年1月から19%とする。CDU/CSUは選挙戦で18%への引き上げを打ち出し、SPDはこれに強く反対していた。連立協定発表を受けて報道されたZDF(第二国営放送)の世論調査では、付加価値税引き上げに「反対」とする人が63%にのぼっている。

*連立協定=CSUとSPDの連立協約/労働・雇用・社会保障・税制に関する内容

社会保険料負担の削減

一方、付加価値税引き上げに対応して、雇用保険料は現行の6.5%から4.5%へと引き下げられる。ただし、社会保険では年金保険料を19.5%から19.9%に引き上げるなど、負担増になる要素もある。連立協定では、この雇用保険、年金保険に健康保険、介護保険の負担を加えた社会保険料の合計を40%に押さえる目標を掲げている(現在は計算上41.9%を労使が折半して負担している)。この点に関しては、BDA(ドイツ経営者連盟)が独自の試算に基づき、2007年時点の社会保険料負担を合計41.15%と見積もり、連立政権の見通しに批判を加えている。

年金については、支給開始年齢(現行65歳)の67歳への段階的引き上げも実施される。DGB(ドイツ労働総同盟)のM・ゾマー会長は11月16日の談話でこの引き上げを「将来の年金受給者に対する偽装的な給付削減だ」と批判し、「ほとんどの企業では60歳以上の従業員はおらず、とくに建設業では50歳以上の人は働いていない」と指摘している。

「労働市場改革」の修正

かつての失業扶助制度と社会扶助(生活保護に相当)を統合し、2005年1月から施行されている「失業給付Ⅱ」は、西・東地域で異なっていた支給額が、西地域の月当たり345ユーロに統一される。このほか、25歳未満の青年層を原則的に親の生計のもとで生活すると見なし、この層が失業している場合、失業給付Ⅱの支給要件を厳しくする(これまでは独立した生計を営んでいていると認められ、支給対象になる場合が多かった)。同様に、籍を入れずに共同生活をしている男女の「擬似結婚」関係を同一の生計にあると解釈し、一方が失業している場合でもパートナーに収入がある場合支給しないなど、支給対象を絞る運用を打ち出している。

このほか、解雇保護法の緩和も重要だ。これまで新規採用後6カ月間は解雇保護法の適用除外期間であり、その間労働者は解雇保護を受けられなかったが、連立協定では、この適用除外期間を24カ月間に延長するとしている。CDU/CSUと経営側はこれまで、同法の適用除外企業(現行では10人以下の小企業には適用されない)の範囲を増やすべきだと主張していたが、この点での変更はなかった。

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