イタリアのワークフェア政策に関する最近の発展
1.ワークフェア政策としての労働市場における官民の連携
官民の連携および協力という考え方は、2003年9月10日委任立法276号〔雇用および労働市場に関する委任の実施〕(いわゆるビアジ改革)第2章の労働市場規制の基礎となっている。この点とくに重要なのは、2005年5月14日法律80号(2005年3月14日暫定法35号の転換)により修正された2003年委任立法276号13条(「経済、社会及び地域の発展に関する措置計画における緊急規定」)である。同条の主たる目的は、許可を受けた民間主体(主として労働供給業者(agenzia di somministrazione di lavoro))に、不利な立場に置かれた労働者のいわゆる「取込み」の責任を共同で負わせることである。
この点に関して、2003年委任立法276号13条は、金銭上ないし法律上の便宜を与えるなどして、こうした民間業者のために、弱者層の労働者を引き受ける権限を定めている。
政府は、このような便宜のシステムの始動段階に財源を充てるなどして、13条にいう官民の連携モデルに関する実験的な措置の実施を支援している。こうした実験的措置は、民間の労働供給業者も、労働市場における弱者層への対処に積極的に関わることができるかを評価するためのものでもある。このようにすることで、社会的阻害の危険にさらされた人々を公的機関の非効率性のもとに放置させないようにするのである。
13条の試みは、市場で活動する民間主体の効率性や迅速性を、公的主体の一般的な利益保護の責任や権限と結びつけることで、官民の協力モデルを構築しようとするものである。公的主体との協定制度に加わるときには、2003年9月10日委任立法276号5条にいう労働業者(agenzia per il lavoros)が、伝統的な市場原理に基づく機能だけでなく、弱者層の労働への組入れという社会的な利益のための機能を果たすという意味で、「労働社会業者(agenzie sociali per il lavoro)」という言葉を使うことは適切と思われる。
また、13条は、地方公共団体に関して、こちらは文字通りの社会的機関を設立し、組織の面でも官民の協力モデルを構築する可能性について言及している。こうした機関は、地方公共団体が一定の資格を付与された民間団体と締結する協定に基づいて、労働社会政策省の専門機関の援助も受けながら組織されることになろう。
2003年委任立法276号13条は2005年法律80号で修正されているが、元の条文においては、13条の定める制度の実施を調整するために、州に対して官民連携の具体的方法を定める権限を委ね、各州共同で試験的政策を開始するよう定めていた。実際、旧13条の規定によれば、州には、市町村および県に対し、協定制度における試験的な手続きの開始を求める規定を発する権限が与えられていた。しかし、結局のところ、州がワークフェアという新しい措置に無関心だったことから、こうした権限を引き受けなかったのである。
さらに特筆すべきは、従来の枠組みが基本的に修正されたことである。2005年1月28日憲法裁判所判決50号は、2003年委任立法276号のいくつかの規定に対する州の違憲申立てを判断する際に、13条に関する国と州との権限配分を決める憲法の原則にも言及している。同判決によると、13条の定める制度の目的は、不利な立場に置かれた主体の労働市場への組入れを援助することであるが、この目的は、賃金制度や社会保障制度なども介して追求されるべきものであるとして、こうした制度が、国民に関する組織のもとで機能すること、したがってもっぱら国の権限に関するものであることを明らかにした。さらに憲法裁判所は、以上のことを考慮すると、これらの措置は将来においても州法に委ねることはできないと述べている。
憲法裁判所の判断に基づいて、政府は13条の定める制度の開始日を「州法の施行日」にするという規定を削除し、2003年委任立法276号13条の修正措置を採択した。
このように、2003年委任立法276号13条に関して昨年修正が施されることにはなったものの、ワークフェア政策における先進的措置としての「マルコ・ビアジ窓口」の実施は強調すべきものと思われる。この実験的な措置は、あるモデルを調整して、他の状況に置き換えたり敷衍したりできるようにするための手続や手順を定める性質のものである。
2.「マルコ・ビアジ窓口」による官民連携モデルの実施
官民連携モデルの実施のために、最近、ミラノ市で「マルコ・ビアジ窓口」が設けられた。この実験的な措置は、労働社会政策省、ミラノ市およびイタリア労働株式会社(経済財政.省が全面参加する株式会社)によって署名された2003年7月14日の議定書と、これらの主体に加えて、ロンバルディア州教育訓練労働評議会事務局、ミラノ県労働経済活動評議会事務局および「マルコ・ビアジ」国際比較研究センターによって同日に署名された、いわゆる誓約憲章(Carta degli impegni)に基づくものである。
同措置の全般的な目的は、まず、労働積極策に関するあらゆるシステムを利用し、さまざまな財源を駆使することで、不利な立場に置かれた人々を労働システムに組入れることを目的とした諸事業を有効に活用することである。この点、不利な立場の労働者を労働市場に取り込むための地域窓口を設け、参入計画を策定することで、労働積極策、経済政策および訓練政策を補完する措置モデルを推し進め、全国レベルにも敷衍可能なモデルを構築することが決定された。
同措置はまた、不利な立場に置かれた労働者の労働への組入れが、適切で継続したものとなるように、こうした労働者の職業能力を向上させることも目的としている。
これらの目的を達成するために、同措置に関する推進委員会が設けられた。同委員会は、労働社会政策省の管轄下にあり、イタリア労働株式会社、ミラノ市、ロンバルディア州、ミラノ県および「マルコ・ビアジ」国際比較研究センターの代表者によって構成されるものである。
推進委員会には、措置計画の方針を勧告する権限が与えられており、計画段階でも重要な役割を果たした。実際、措置の具体的な実施の問題だけでなく、措置の対象者の画定についても関与することになった。
この措置のもっとも複雑な段階の1つは、まさにこの「不利な立場に置かれた労働者」の画定であった。
不利な立場に置かれた労働者を労働市場に組み込むことは、常に大きな困難を伴うことを先に述べておかねばならない。この問題は、失業者が置かれた窮乏状態だけでなく、社会経済的な理由や、対象者の社会的排除・疎外状況から生じる諸条件・諸要因によるものでもある。これらの状況において、失業は、人の自由、発意および能力に多大な悪影響を及ぼす。たとえば、失業は、排除の原因となり、自ら失業から逃れる能力を弱め、自信を喪失させ、精神・身体の健康を害すのである。
この措置の適用主体の画定に関する第1の法源は2003年委任立法276号13条であるが、同条は、2002年12月13日EC規則2204号2条f)にいう不利な立場に置かれた労働者に関するEU法上の主体を対象としている。同EC規則は、現実の不利益の存在を測る基準を明示するにあたり、以下のカテゴリーを挙げている。
- 支援なく労働市場へ参入することが困難な労働者(EC規則2204号)
- 25歳未満の若年者、または、2年以上前に訓練コースを完了したが定期的な報酬のある職にいまだ就いていない若年者(EC規則2204号)
- 困難な家庭状況にある就労年齢の未成年者(EC規則2204号)
- 就職のためにEU加盟国内を移動しているEU域外労働者(EC規則2204号)
- 少数民族に属し、安定的な職を得るために、その言語能力、職業能力または労働上の経験を高める必要のある労働者(EC規則2204号)
- 労働活動の開始または再開を希望しているが、少なくとも2年間働いていない労働者、とくに就労生活と家庭生活の調和が難しいために、労働活動を断念せざるをえなかった主体(EC規則2204号)
- 1ないし複数の子を1人で扶養する成年労働者(EC規則2204号)
- 中等学校ないしはそれに相当する学歴をもたない労働者、または、年齢が50歳以上で、労働ポストに就いていないか、まさにこれを喪失しようとしている労働者(EC規則2204号)
- 現在または過去において、国内法に定める麻薬依存症に罹患したと認められる労働者(EC規則2204号)
- 自由刑に処された後、定期的な報酬のある職にいまだ就いていない労働者(EC規則2204号)
- NUTS II(少なくとも2年以上前から、平均失業率がEU平均の100%を上回り、過去3年間のうち少なくとも2年以上、女性失業が男性失業率の150%を上回った地域)レベルの地域に住む労働者(EC規則2204号)
- 過去16カ月間に12カ月間以上(25歳未満の者の場合は過去8カ月間に6カ月以上)職のなかった長期失業者(EC規則2204号)
- 有罪判決を受けたが、1986年10月10日法律663号により修正された1975年7月26日法律354号47条、47条の2および48条によって定められた拘禁に代わる措置を認められた者(1991年法律381号)
- 身体、精神および感覚器官上の障害をもつ者、精神医学施設の入院患者ならびに精神科の治療を受けている者(1991年法律381号)
こうしたEU法や国内法による基準の提示にもかかわらず、「マルコ・ビアジ窓口」の措置は、推進委員会の指示に基づき、委任立法で明示に列挙されていないが、労働市場への参加についていずれにせよ特別な困難を有すると考えられる主体を、官民の連携機構を通じて組入れられるのが適切とみなし、その対象とした。
こうした主体として挙げられるのは、40歳以上で労働市場から排除された労働者である。かかる労働者は、ミラノにおいては「典型的な」弱い立場の労働者層の1つである。措置の具体的な実施にあたっては、社会的な不利益を多く受けている領域に特別の注意が払われているのである。
3.立案段階で決められた機能モデル
「マルコ・ビアジ窓口」の実施は、立案段階で定められたモデルに則って行われた。ここで、「マルコ・ビアジ窓口」の基礎になった措置の種類を指摘しておくことは、その目的を完全に理解するのに必要と思われる。その措置とは次の2つである。
- 労働の供給、つまり労働者に向けられた措置
- 労働の需要、つまり使用者に向けられた措置
「マルコ・ビアジ窓口」の推進主体の意図としては、こうした官民連携モデルが、地域連携網の構築のために諸制度を統合するものとなるように、という点にあった。
4.労働の供給に関する措置
「マルコ・ビアジ窓口」のモデルは、当該措置の周辺システム全体を意識しながら、対象者に注意を払っている。まず、「マルコ・ビアジ窓口」の対象者は、福祉システムからの支援を受ける資格を有し、計画能力があまりなく、正規労働における経験を欠き、「万年失業」状態に置かれていることが多い。
対象者のニーズの多面性を理解することが、対象者が求職に対して受け身にならざるをえない要因を絶つことのできる唯一の方法である。そして、こうしたニーズに応える必要性からまさに、対象者に応じた措置の必要性が生まれるのであり、これが個別参入計画の定められた理由なのである。
個別指導員(後述)によって策定されるこの個別参入計画は、各対象者について労働市場への復帰のための具体的な支援・再訓練コースを定めるものである。しかし、対象者が市場に適合できない理由に対処することなく、就業問題のみを扱う措置を想定することは困難になっている。
「マルコ・ビアジ窓口」は、対象者の取込みを通じて、当該個人の抱えるすべての問題を分析し、個別参入計画の策定によって、当該個人の人格的・職業的成長を期待する。労働者の市場への復帰を効率的かつ安定的なものにし、内在・外在的な理由により安定的な就業ポストを見付けることができない状況、すなわち失業に対処するには、雇用政策面を越えて、対象者が関わりうる社会問題をも対象とする個別参入計画が不可欠である。
対象者の取込みと個別参入計画の作成は、当該計画全体に対する積極的・協調的な姿勢を示すことについて、労働者が制約した後に行われる。実際、自らの労働市場への復帰のために受け入れるべき行程について、対象者が自覚と責任をもつように、「マルコ・ビアジ窓口」とその対象者とが協定を締結することが必要と定められている。
さらに、この協定においては、いわゆる失業者のための待機手当(assegno di disponibilia)が定められる。つまり、対象者が労働供給業者に「資金」として持ち込む奨励金である。こうした「個別資金(dote individuale)」は、採用者の教育訓練が実施される場合には、その資金としても利用することができるだろう。
組入れの成功のためには、労働者が実施された個別参入計画を放棄して、協定を撤回したりしないように、罰則制度を定める必要があろう。実際、あらかじめ定められた地域の基準に従って「承諾可能」とみなされた場合に、労務給付の拒否が繰り返されると、当該労働者については、再度の措置実施が認められなかったり、待機手当の給付が停止されたりすることがありうる。
「マルコ・ビアジ窓口」の立案段階では、失業者のニーズに応えうる実効的な雇用政策を促進するために、労働供給業者の活動が、一定の側面に限定されることなく、対象者の総合的な取込みに向けられるように注意が払われていた。具体的には、雇用問題だけでなく、労働市場に参入する上で当該個人にとって障害となっている原因のすべてを解決し、適切な訓練措置を通じた職業再訓練や素質・能力を向上させることにも力を入れるよう求められたのである。
このため、労働者自身の個別参入計画への積極的な参加を義務づける、いわゆる専念協定(patto di impegno)への署名が定められた。
こうした規定は、労働者が、再訓練課程に参加する責任を真剣に引き受けるようにするには必要であり、また有用であった。
5.労働の需要に関する措置
「マルコ・ビアジ窓口」の試みを成功させるために、労働者に対する措置は、需要に対応する諸活動によって補完された。つまり、不利な立場に置かれた労働者の採用に対し、企業にインセンティブを与えるための活動である。
労働者の選択や、対象者の再訓練に関する支援などのカウンセリングサービスを通じて、また、社会保険料の免除によって、強固な偏見にさらされている対象者の採用を容易にすることができるだろう。ここまでに述べた機能モデルによって明らかになったように、制度全体が対象者のニーズに基づいて構成されており、このため労働の提供に関する措置が決定的な役割を果たしているのである。
6.労働供給業者
措置の対象となる労働者の画定と並んで、「マルコ・ビアジ窓口」実施におけるもっとも難しい局面は、不利な立場に置かれた労働者の社会・職業への組入れのための措置を展開し、共同立案し、実現する民間労働供給業者の画定であった。こうした業者の選択は、共同立案および措置の実施・運営への参加に興味をもつ労働派遣業者(当時はこのように呼ばれていた)をミラノ市が募集した公示により具体化された。
労働供給業者に与えられた役割についてみると、当該業者は、2004年8月3日に創設された目的別臨時協会(Associazione Temporanea di ScopoいわゆるATS)に参加することで、採用に関心をもつ使用者をその事業の範囲内で探し、接触すること、そして、ミラノ市が行う指導員活動を支援し、労働市場の需要に基づいて計画された訓練活動の提供等によって労働者の能力の向上を容易にする役割を担う。さらに、業者は、適切な情報提供が可能な人材プロジェクトを企画し、支店の少なくとも1つに「マルコ・ビアジ窓口」のための所定のスペースを設けなければならない。
7.労働者の取込み、訓練および労働への組入れのための具体的実施過程
労働者の取込みの過程は、「マルコ・ビアジ窓口」を実施するうちに修正された。したがって、労働者の取込みの流れを以前のものと現在のものについてみてみよう。
まず、措置の開始段階についてみると、労働供給業者は、業務を行うために必要な組織の準備や調整のための特別な要件を備える必要があった。
労働者の主たるアクセス方法は、「選択」と「接触」の2つであった。
第1の「選択」という途は、「ミラノ労働」プロジェクトで利用できるデータバンクに基づいて実施され、「ミラノ労働」窓口の業務領域で完結する。第2の「接触」という途は、後になってから発達したもので、ここにおいて労働供給業者が直接の協力関係をもつ。この場合、接触は労働者が直接に7つの支店に設置された「マルコ・ビアジ窓口」(1つの労働供給業者ごとに1つ設置され、全体で7つある)に赴くことで開始される。
いずれの場合においても、民間労働供給業者における初の接触の後に、労働者は「マルコ・ビアジ窓口」の本部に送られる。この本部こそ、各労働者派遣業者のもとで活動する7つの窓口を束ねる、措置実施の主たる組織である。市によって開設されたこの「マルコ・ビアジ窓口」は、民間業者との連携を常に維持している。
各民間労働供給業者は、措置実施のために2つの人材源をもっており、その1つが「マルコ・ビアジ窓口」本部によって常時運営されているものである。このようにして、迅速かつ効果的な官民の連携が達成されているのである。
こうした共同関係という点からみると、労働供給業者のもとで動いている窓口は、情報提供および初めのアクセスの場、そして窓口への労働者の常時接続地点としての機能を果たすといえよう。
「マルコ・ビアジ窓口」へ送られた労働者は、ここで文字通りの能力評価、つまりデータベースへの登録とありうる再訓練の過程に組み込まれる。労働者がパーソナルデータの作成のために備えられた用紙に記入するのは、この窓口においてであり、常に「マルコ・ビアジ窓口」のもとで対象者の取込みと個別参入計画の策定が実施される。
立案段階で当初定められていたことと異なるのは、労働供給業者の担う役割である。
取込みに関して「マルコ・ビアジ窓口」、そしてミラノ市に主たる役割が与えられているとすれば、労働供給業者の決定的な役割は、不利な立場に置かれた主体の労働への組入れに関するものである。実際、民間業者は、最終段階、つまり労働者の組入れの実施において重要な役割を果たす。すなわち、自らのもつ企業とのネットワークによって、労働供給を見出す段階に専念しているわけである。
こうした制度は、当初規定されていたものとは異なる。原案では、企業は民間業者との協定を自律的に締結しうるとされていた。ミラノ市の調整の役割は、措置の社会的目的を効果的に追求し、組入れの客観性を確保するのに有用ではあるが、その効果は、民間業者による労働者の組入れの実施が効率的であるおかげで担保されているのである。
一方、「マルコ・ビアジ窓口」と労働供給業者は、訓練措置の立案と実施に関しては共同で活動している。ミラノ市や労働供給業者が、様々な訓練コースを組織する。労働者は、個別参入計画と企業の要請に基づいて、ニーズに応じた訓練コースに通うことになる。
一般に、提供される労働ポストは派遣労働契約に基づくものであり、これは派遣先企業のもとでの特別な訓練期間の後に締結されうる。
労働ポストの提供に基づいて、要求された点を潜在的に満たしうる労働者数人に接触を取る。これらの労働者が集団面接に送られ、ここで当該労働ポストの提供に関する詳細を知らされる。この集団面接を終えて、当該労働ポストの提供に興味のある労働者の中から企業に紹介される労働者を選び、当該労働者に対し個別面接を行うのである。
企業側は、企業の求める要件をすでに満たした志願者を得ることもできるが、この方法なら、志願者の履歴を受け取ることができ、より適した方法で志願者の選抜を行うことができるだろう。
個別面接および使用者による選抜が終わると、選ばれた労働者は、組入れのために労働供給業者に送られる。
組み込まれるとはいっても、こうした弱い労働者のメンテナンス、つまりプロジェクトにおける恒常性についても配慮されている。労働者が、有期労働の期間満了、試用期間の未終了、辞職、解雇といった理由で労働関係が終了し、これが更新されなかった場合、当該労働者は、「マルコ・ビアジ窓口」の「利用層」とみなされ、採用可能な主体としてデータバンクに再び登録される。
8.個別指導員
措置の成功に不可欠なものの1つに、指導員の制度がある。指導員は、「マルコ・ビアジ窓口」の要であり、再訓練や労働への組入れ過程のすべてにおいて、補助者としての役割を果たすことが要求される。
指導員は、個別参入計画の策定・実施における実務上の責任者である。適当な人材から選抜され、所定の訓練を受けた指導員は、目的の達成にとって欠くべからざるものである。実際、労働市場から排除される危険性のある人々が、労働市場への参入を自ら断念する可能性を小さくするためにも、指導員は、訓練の開始段階で養われた能力を通じて、こうした不利な立場の人々に歩みより、信頼関係を構築することが求められている。
指導員は、推進委員会が事前に定めた要件に基づいてミラノ市が選ぶことになっている。指導員の要件としては、訓練および指導に関して経験のあることなどである。
いったん選ばれると、指導員は、措置全般に関する提案、指導機関の機能および意義の向上、個別参入計画の作成といった訓練活動に参加する。ミラノ市のもとで展開される訓練活動は、イタリア労働株式会社によって組織され、実施されている。
9.2005年8月のデータの検証
ミラノ市から提供されたデータによると、2005年8月25日において、「マルコ・ビアジ窓口」のデータバンクには、630人の労働者のデータが登録されている。各労働者のデータを編纂するため、当該労働者の特性やその他訓練に関する必要事項に基づいて、労働者は所定の用紙にデータを記入することになっている。
主として「ミラノ労働」窓口のデータバンクに基づいて実施された労働者との接触は、ミラノの懸念事項、つまり40歳を超える人々の労働市場への復帰が困難なことを改めて確認するものであった。実際、630のデータ(うちイタリア人は85.87%(男性310、女性231))のうち、367(男性213、女性154)は40歳を超える労働者であった。
EU域外の外国人に関する数値はより低く、89人との接触があっただけである。「ミラノ労働」窓口時代の経験によっても明らかになっていたように、ミラノでは、計画実施の上で困難を伴う問題の1つが移民なのである。
「ミラノ労働」協定の場合は、移民の大多数が職を見つけるためにイタリアに来たものの、適当な機会を見つけられないために社会から疎外され、闇労働に転じるのだという認識に立って、移民に関する困難な状況を解決しようとしていた。しかしながら、「マルコ・ビアジ窓口」の場合は、措置実施の要件として、ミラノ市における居住が定められたので、この要件が外国人にとって制限となったようである。外国人は89人であり、このうちEU加盟国の国民が1人(スペイン人)、そして残りの88人(男性40人、女性48人)がEU域外の外国人であった。EU域外外国人はプロジェクトに関わる労働者の13.97%であり、出身国は実に34カ国と多様である。
国籍 | 男性 | 女性 | 合計 |
---|---|---|---|
ペルー | 5 | 9 | 14 |
エジプト | 7 | 1 | 8 |
エクアドル | 3 | 4 | 7 |
ルーマニア | 2 | 4 | 6 |
ロシア | 2 | 4 | 6 |
セネガル | 4 | 1 | 5 |
フィリピン | - | 4 | 4 |
モロッコ | 3 | 1 | 4 |
スリランカ | 3 | 1 | 4 |
エチオピア | 1 | 2 | 3 |
アルバニア | - | 2 | 2 |
アルゼンチン | 1 | 1 | 2 |
セイロン | 1 | 1 | 2 |
チェニジア | 1 | 1 | 2 |
アンゴラ | - | 1 | 1 |
バングラディッシュ | 1 | - | 1 |
ブラジル | - | 1 | 1 |
ブルガリア | 1 | - | 1 |
カメルーン | - | 1 | 1 |
チリ | - | 1 | 1 |
中国 | - | 1 | 1 |
コロンビア | - | 1 | 1 |
コートジボアール | - | 1 | 1 |
キューバ | - | 1 | 1 |
日本 | - | 1 | 1 |
ギニア | 1 | - | 1 |
モーリシャス | 1 | - | 1 |
ナイジェリア | - | 1 | 1 |
パキスタン | 1 | - | 1 |
ポーランド | - | 1 | 1 |
スーダン | 1 | - | 1 |
アメリカ | 1 | - | 1 |
ベネズエラ | - | 1 | 1 |
計 | 40 | 48 | 88 |
不利益の存否の評価に用いられた要素の1つは、労働者が指定されたカテゴリーに当てはまるかどうかであった。
具体的には、「マルコ・ビアジ窓口」のデータバンクに関して、労働者の組入れのためのカテゴリーが事前に定められた。このカテゴリーとは、次のようなものである。
- 40歳を超えるイタリア人労働者
- EU域外外国人労働者
- 1991年法律381号の適用対象とされ、社会心理学上問題となる特性を有する主体
- 付加価値税の納税者登録番号を持つ独立労働者(自営業者)
そのほか、2002年EC規則2204号2条f)によって不利益な労働者とされているカテゴリーは下記である。
- カテゴリー6:
25歳未満の若年者すべて、または、2年以内にフルタイムの訓練を終え、いまだ定期的な報酬のある職についていない者(男性8人、女性9人の計17人が組入れられた)
- カテゴリー7:
職を得るために市内を移動するか移動した労働者すべて、または、職を得るために市内に居住するようになった労働者すべて(男性29人、女性44人の計73人が組入れられた)
- カテゴリー8:
少数民族で、安定的な職を得る可能性を高めるために言語能力、職業能力または労働上の経験を高める必要のある者すべて(中国とカメルーンの女性2人が組入れられた)
- カテゴリー9:
労働活動を開始または再開しようとする者で、少なくとも2年間働いたことも訓練コースを受けたこともない者すべて、とくに、労働生活と家庭生活との調和が困難であるために労働を断念した者すべて(イタリア人女性3人が組入れられた)
- カテゴリー10:
1ないし複数の子を1人で扶養する成年すべて(男性2人、女性13人の計15人が組入れられた)
- カテゴリー11:
中等学校ないしそれに相当する学歴を持たず、労働ポストに就いていないか、まさにこれを失おうとしている者すべて(男性56人、女性32人の計88人が組入れられた)
- カテゴリー12:
労働ポストに就いていないか、まさにこれを失おうとしている50歳を越える者すべて(男性110人、女性63人の173人が組入れられた)
- カテゴリー13:
長期失業者すべて、つまり、ここ16カ月間のうち12カ月間職のない者、または、25歳未満の者についてはここ8カ月間のうち6カ月間職のない者(男性82人、女性67人の計149人が組入れられた)
- カテゴリー14:
現在または過去において、国内法で定める麻薬依存症に罹患したと認められる者すべて(該当者なし)
- カテゴリー15:
自由刑、その他の刑罰に服した後、定期的な報酬のある職に就くことのできない者すべて(男性2人が組み入れられた)
- カテゴリー16:
NUT2(少なくとも2年以上前から、平均失業率がEU平均の100%を上回り、過去3年間のうち少なくとも2年以上、女性失業が男性失業率の150%を上回った地域)レベルの地域の女性すべて(該当者なし)
データから明らかになったように、組込みが最も多く行われている労働者の種類は、ミラノでもっとも不利な立場に置かれているカテゴリーでもある。つまり、「労働ポストに就いていないか、まさにこれを失おうとしている50歳を越える者すべて」、そして「長期失業者すべて、つまり、ここ16カ月間のうち12カ月間職のない者、または、25歳未満の者についてはここ8カ月間のうち6カ月間職のない者」である。この2つは、より不利な立場に置かれているカテゴリーであり、したがって、組込み数もより大きいのである。
推進委員会は、当初から、措置によって定められた(金銭・法律上の)便宜を提供することによって、ミラノにおいてとりわけ困難な状況に置かれている失業者に注意を払ってきた。他方で、訓練コースを組織するなどして、企業において要求される職業形態により効率的に適合しうる主体にも注目してきた。措置の対象となる労働者の画定の段階において、労働供給業者による組込みなどを通じて市場におけるニーズのより高い職業形態と、県雇用サービスおよび「ミラノ労働」窓口のデータバンクに登録された職業能力とを照合したのは、こうした目的を追求するためである。
提供されたデータによれば、労働市場に組み込まれた主体は124であり、接触を受けた主体の約20%に相当する。
使用者との接触は、労働の組込み段階において重要な役割を果たす労働供給業者の支援を受けて実施された。
労働への組み込みは、まず、有期労働契約での採用として行われるが、場合によっては期間の定めのない労働関係への転換や、さらなる有期労働契約の締結へと進む場合もある。
実際予測しえたことではあるが、労働への組入れの後に、労働関係はさまざまな変化を受けている。この変化は、次の表に要約してある。
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