「中国の社会保障状況と政策」白書発表される

カテゴリー:雇用・失業問題労働条件・就業環境勤労者生活・意識

中国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2004年11月

「中国の社会保障状況と政策」白書(日本語訳)

国務院弁公室は、今年9月に2003年の中国の社会保障状況と政策に関する白書を発表した。白書は、養老保険、失業保険、医療保険、労災保険、出産保険などの社会保険と、社会福利、特別待遇措置、社会援助と住居保障等を含む現代中国の社会保障システムについて、過去1年間の動き、現状と課題を報告している。

<社会保障の背景状況>

78年の改革開放以来四半世紀を経て、中国の社会経済は大きく変化、発展を遂げている。国民経済は、年平均9.1%と迅速に成長を実現し、2003年の全国平均GDP(国民総生産)額は、1000米ドル(注1)を超えている。経済の発展の加速化と経済体制の改革の進展で社会事業も成長を続けている。

そういった状況を背景として、中国の社会保障制度改革は、20年間模索を続けてきた。特に1993年に提出された「社会主義市場経済体制の目標」の中では、社会保障体系の整備は重要な位置をしめている。

すなわち、特にこの10年の改革によって、社会保障のさまざまな制度に関して、受給資格者個々人についての台帳が整備され、基本制度が確立した。各種の法律を整えることで社会保障体系のフレームワーク作りが行われ、さらなる課題へ積極的に取り組んできたといえる。

これまでにも、国有企業に勤務する労働者について多岐に及ぶ能力開発を実現することで、社会保障対象に成長させ、適用範囲を拡大し、社会保障費を各人から徴収して財源の確保を図ってきた。同時に、全国規模の社会保障基金を設立し、国、企業個人など多元的に社会保障財源が確保できるよう初歩的な形作りを行ってきた。

しかし、現在の中国は、市場経済の急速な発展で、そこから新たに出てくる多様な問題への対応が急がれるとともに、20世紀末にすでに人口の1割を超えている60歳以上人口を抱える急速な高齢化社会を迎えており、現行の制度のままでは年金制度も財源的にかなりの負担となることが予想されている。たとえば、都市化で土地を失った農民への保障、下崗労働者の失業保険の問題、都市へ移動した農村余剰労働者の都市労働者との保障の格差の問題、退職者の最低生活保障の問題など、取り組みは始まっているが解決に至っていない問題も山積みとされている。

社会保障に係る事務手続きの管理、サービスの社会化と整備、企業負担の見直しの作業は急がれている。

9月に北京で開催された「国際社会保障協会の第28回世界大会」の席上で、中央政治局常任委員、国務院副総理の黄菊氏は、現状に関して、上記のような成果と課題を指摘した上で、1)経済発展水準に見合った社会保障制度の確立、2)雇用創出による政府の積極的就業政策の実現と家庭生活の質的向上と社会保障、3)「二つの確保」と「三つの保障線」の従来からの懸案の円滑な解決、4)市場原理を導入し、社会組織と成員への影響を考慮した多様なレベルにまたがる社会保障体系の確立、5)政策の策定と管理の強化、6)中国の国情にあった海外モデルの検討――などを今後積極的に推し進める重要性を強調し、より完成された社会保障システム作りへの試みや農村での社会保障の新たなあり方についての検討を積極的に行うと述べている。

<白書にみる社会保障の現状>

  1. 養老保険

    政府は、1997年に全国都市部における企業労働者の基本養老年金制度を統一して個人口座からの徴収を実現した。企業労働者は、男性労働者60歳、女性幹部55歳、女性労働者50歳という法定退職年齢を決め、個人での納付が万15年以降ある場合に退職後養老年金を毎月もらえるという制度を確立した。基本養老年金は、基本養老金と個人口座からの養老金で構成されており、基礎養老金の1カ月あたりの納付額基準は、前年度の平均収入の20%程度である。また個人口座養老金の1カ月あたりの納付額の基準は、収入の11%の割合で本人の口座の類型貯蓄額の120分の1と定めている。

    2003年、企業は退職者に対して、1カ月平均で621元を基本養老年金として支給した。全国の加入者は、1億5506万人で、そのうち1億1646万人は労働者である。

    2001年以来、政府は、基本養老年金のあり方について個人口座による部分的な基金の運用増加や確定方法を検討中で、15年を経過したものについて、一年ごとに一定比率の割り増しを行い確定する方法を採用し、自営業者の納付方法の統一化なども試みており、まず、遼寧省において実施している。2004年には吉林省、黒龍江省に拡大する予定である。

    基本養老年金基金の徴収方法も多様化している。原則は、企業と労働者の共同納付である。企業の納付は、企業の給付総額の20%を超えることはなく、省、自治区、直轄市の人民政府との比較により決定される。労働者は本人給与の8%を納付する。都市の個人商工業経営者や自営業者も基本養老年金に加入するが、現地の社会平均収入の18%相当を納付する。2003年は、基本養老年金の徴収総額は2595億元であった。

    政府は、財政支出から2004年は544億元の補助を行い、そのうち中央財政補助は474億元であった。

    基本養老年金の社会化を推進するため、2003年末には、企業における退職者の基本養老金はすべて社会化されており、すでに、84.5%の企業退職者への社会化管理サービスを実現している。労働者が居住・勤務先当を移動した場合における社会保険の関係継続のために、中国政府は2003年より「保険金保護工程」を開始した。

    また、条件の整っている企業であれば、労働者のための企業年金を設立できるようにした。2003年すでに700万人が企業年金プランに参加している。

  2. 失業保険

    2003年末、失業保険の参加人数は、一億373万人に達した。また、742万人の失業者のため、期限の異なる失業保険を提供した。

    都市企業においては、雇用側は給与総額の2%、労働者側は本人収入の1%を失業保険費として納付しなければならない。受給資格は、1)失業保険費を1年以上納付していること、2)本人の意思よらない退職であること、3)失業登録手続きを行い再就職の意思があることの3つの条件が要請される。受給期限は、失業社の失業前の在職時に本人の納付期間が満1年から5年未満の場合は最長で12カ月、満5年から10年未満の場合は最長で18カ月、10年以上の納付期間の場合は最長で24カ月となる。

    都市企業からの募集により農民が契約作業者になった場合、雇用側は規定により納付を行い、契約作業者本人に納付義務はない。作業が連続して満1年になれば労働契約が期限満了で継続されていない、あるいは予定を繰り上げて契約が解除されたとしても作業時間に応じて一時的な生活補助を受け取ることができる。

    国有企業の退職者に対しては、1998年以来基本生活保障制度を設置し、基本生活を確保してきた。退職者のいる国有企業は、再就職センターを建設して、退職社を送り込み、センターが基本生活費を支払う。基本生活費の基準は現地の社会保険金の基準より高い数字とすることになっている。また、養老、医療、失業等の社会保険費はセンターが負担する。ここでは、社会保障費の納付を保証するため「三三制」の原則が採用されている。これは、財政予算の3分の1、企業負担が3分の1、失業保険基金等社会からの徴収を3分の1とすると原則である。1998年から2003年の間に全国で2400万まま利の国有企業退職センターが存在し、1900万人がセンターを出て再就職を果たしている。

    政府は、国有企業退職者への基本生活保障と、失業保険、そして都市住民の最低生活保障による「三つの保障ライン」制度を設立した。退職者が基本生活日を受け取ることができる期限は3年。期限満了後まだ再就職が果たされない場合には、規定に照らして失業保険の待遇を与えるとした。しかし、2001年以降は、企業は退職した労働者をセンターに送ることをやめ、法による労働関係解除の規定を適用し、失業保険待遇を与えるようになっている。あらたな再就職サービスセンターの設立は行われていない。

  3. 医療保険

    1998年、「都市労働者の基本医療保険制度設立のけって」を発布、都市労働者の基本資料保険制度改革が全国的に進められた。2003年末、全国の参加人数は、一億902人で、このうち労働者が7975万人、退職者は2927万人であった。

    基本医療保険は都市のすべての雇用側と労働者をカバーする。雇用側は労働者の給与総額の6%強を納付し、個人は本人収入の2%を納付する。個人の納付金はすべて個人口座に入れられ、会社側の納付も30%が個人口座、残り70%が設立された分配基金に入れられる。小額の診察医療費用は個人口座が支払う。入院などの高額医療費は分配基金から支払われる。

    保険加入者のそれぞれ異なる医療への要求を満足させるため、各地の実際的な状況に基づいて個人あるいは企業の納付による資金で高額な医療費用補助制度を設けて、基本医療保険の最高支払い限度額以上の医療費用が必要となる場合にそなえる。国も企業が独自に労働者のための補充医療保険を設立することを奨励している。企業の補充医療保険費は、給与総額の4%以内であり、経費から支払われる。国家公務員と公費の医療を享受する部門の人のため公務員医療補助制度が設立されている。

  4. 労災保険

    政府は、労災予防、労災補償、労災リハビリを総合する労災保険制度を設立した。2004年1月「労災保険条例」が発布実施されたことで労災保険のカバーの範囲は急速に拡大した。2004年6月末時点で、労災保険加入労働者は4996万人に達した。

    政府は、企業、労働者を雇う個人経営の商工業者に対して労災保険に加入するように規定している。雇用側が労災保険をおさめ、労働者個人に納付の義務はない。政府は、職業に応じて労災危険の程度から労災費率を確定し、さらに労災保険費を元に労災発生率等の状況から各職業内での等級わけを行っている。

    労災保険の適用にあたっては、「過失がなければ補償する」という原則を適用している。労働者の労災と職業病の程度を評定する基準を統一制定して発布する。

  5. 出産保険

    政府は、1988年以来、一部の地域の都市労働者を中心に出産保険制度改革を開始した。2003年末時点で、全国で3655万人の労働者が加入しており、そのうち36万人の労働者が出産保険の適用をうけている。保険費は、加入会社が労働者への給与総額の1%を納付し、労働者は負担しない。加入しない会社は、出産保険の責任を独自で負うことになる。この制度では、出産から90日間の養育補助が補償されている。

  6. 社会福利

    高齢者への保護は、「中華人民共和国高齢者権益保障法」を根拠に諸事業がおこなわれている。現在、高齢者社会福祉機構は、3.8万カ所設置され、ベッド数は112.9万床、平均で60歳以上の高齢者1000人あたり8.4床のベッドが用意されている。2001年以来「全国高齢者福利サービス“星の光”計画」が開始されており、2004年6月には全国の都市と農村に共同新設された「“星の光”高齢者の家」は、3.2万カ所となっており、総投入額は134.9億元である。

    児童福祉については、「中華人民共和国未成年者保護法」「中華人民共和国教育法」が根拠であるが、特に障害を持つ児童、孤児など困難な環境の児童のための施設とサービスを提供している。全国に192カ所の児童専門福利機構を設立し、600カ所の総合福利機構内の児童部でも5.4万人の孤児を養育している。障害者のためには、リハビリセンターなどを全国に1万カ所組織している。さらに、2004年からは、3年間の予定で6億元の予算を得て「障害を持つ孤児のためのリハビリ計画」を実施し、毎年1万名あまりの障害を持つ孤児への治療とリハビリを行う予定である。

    障害者への福利は、「中華人民共和国障害者保障法」を根拠に行われるが、2003年末の時点で、全国都市部では403万人の障害者が就職を実現して、農村では1685万人の障害者が生産労働に従事している。また、259万人の貧困な状態にある障害者は生活保障を得ている。合計でも701万人の貧困状況の障害者が生活保護をうけている。2003年には、各政府が障害者事業費に15億元を用意し、社会福利資金としてさらに1億元を集めている。

  7. 特別待遇措置

    政府は、軍人およびその家族を対象に、物質的、精神的援助を行う目的で、特別待遇措置制度を実施している。現在、受益者は、4000万人あまりである。

  8. 社会援助

    1999年、「都市住民最低生活保障条例」が発布され、農業を行わない都市住民と共同生活を営む家族の一人当たり平均収入が現地都市住民の最低生活基準より低い場合には、現地政府が基本生活のための物質的援助を行うことが規定されている。2003年末時点で、全国の都市住民で最低生活保障金を受けた人数は、2247万人で、一カ月平均58元であった。全国の各政府財政からのこれにかかる支出は、156億元で、うち中央政府による中西部の財政的に問題のある地域への補助は92億元となっている。

    突発性の自然災害への緊急体制と社会援助のための制度が設立されており、2003年各政府が災害にあった人々に行った生活方面の救済資金は53.1億元で、そのうち40.5億元は中央政府が支出を行った。

    また、増加するホームレスへの対応として2003年8月1日、国は正式に「都市生活におけるホームレスの援助管理方法」を規定した。2003年末で全国の援助管理ステーションが909カ所設立され、援助を受けたホームレスは21万人あまりとなっている。

    社会扶助については、国は積極的弱者への支援を奨励しているが、2003年末、全国大、中、小各都市に2.8万カ所の社会寄付受付所が設けられた。

    中華全国総工会はこの活動に積極的で、各工会(労働組合)組織は毎年窮乏労働者の家庭に「ぬくもりを送る活動」を積極的に行っている。2003年末で、全国の労働組合系の労働者相互補助保障組織は1.8万カ所あり、加入している人員は723万人になっている。労働者の相互扶助保障を行う労働組合は1839カ所組織されており、参加人員は1485万人、現在まで合計で600万人が相互補助の適用を受けている。

  9. 住民保障

    政府は、住宅公共積立金制度を推進しているが、2003年末時点で都市住民一人当たりの平均住居建築面積は23.7平方メートルである。住宅公共積立金制度は、1994年以来都市部において実施されており、1999年には、「住宅公共積立金制度管理条例」が発布され、2002年にも再度同条例は発布されることで、政府は住宅公共積立金制度の法制化と規範化に力を注いでいる。2003年末時点で、全国でこの制度を利用する労働者の数は、6045万人となっており、累積公共積立金は5563億元であった。

    また、全国で327万戸の労働者家庭が住宅購入時にこの制度を利用し、住宅を建築購入時に受け取った金額の総額は1743億元で、支払われた個人の住宅ローン総額は2343億元であった。

    また、政府は、1998年に、政府の建築基準や価格、保障性など政策性を備えた優待政策にもとづく住宅の購入を奨励する経済的住宅制度と最低生活収入家庭のための廉価賃貸住宅制度を実施している。

  10. 農村社会保障

    農村人口は全人口の大多数をしめ、その経済発展レベルは低い。農村では都市とは異なる社会保障方法が行われている。

    農村養老保険は家庭をメインとしつつ、個人納付を行い、共同体がそれを補助して、政府が政策援助を与えるという原則に基づく。2003年末時点で、5428万人が加入し、累積基金は259億元である。198万人の農民が養老金を受け取っている。

    2004年には、農村で部分的な計画出産を奨励する援助制度の試行を始めている。

    医療保険については、貧困問題を緩和解決するため、2002年に新型の農村協力医療制度が設立された。2004年6月時点で、9504万人の農民をカバーするが、実際に参加人数は6899万人である。徴収した資金は30.2億元で、そのうち地方財政補助が11.1億元、中西部を対象とした中央財政補助は3.9億元であった。

    農村への社会援助は、1994年に国務院の「農村における5つの保護活動条例」を根拠に特定の条件下の高齢者、障害者、未成年者を対象に、食事、衣服、住居、医療、争議の5つの保護が行われている。2003年末時点で、保護を受けた人数は、254万人、養老院は、2.4万カ所、保護対象となったのは50.3万人であった。

    政府は、角逐の経済発展の不均衡と地区間の財政経済状況の格差の解消を目的に、特定条件の地区に農村最低生活保障制度を設立するよう奨励している。2003年末時点で、農村最低生活保障と特別困窮生活援助を受けている人数は、1257万人であった。

関連情報