増加する海外就労圧力と適正化への模索

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  • 国別労働トピック:2004年11月

2003年の経済成長率が9.1%を記録し、現在もさらにそれを上回る勢いで成長を続ける中国。経済バブルの崩壊が憂慮される中で、人民元の切り上げや金融の引き締めなど政府の慎重な政策対応が期待されるとともに、今後の動向は世界各国からの注目を集めている。

その中国では、現在、農村余剰労働力をどのように活用していくのかという問題が経済成長を今後順調に進めるための基礎として、重要視されている。先に発表された「中国就業状況と政策」白書では、2020年までに中国の労働力は、毎年平均550万人増加し続け、労働適齢人口の総規模は、9.4億人に膨れ上がると予想しており、現在でも1.5億人の農村余剰労働力が農村からの移転就労を必要としていると指摘している。

そういった状況の中、国内の農村から都市への労働移動に加え、海外への労務輸出圧力も自然と高まっている。

また、2001年からの「第10次5カ年計画」で位置付けられた「走出去」戦略による企業の海外進出を支える高度技能人材へのニーズも高まっている。

労働者送り出しの類型

労働社会保障部国際労働情報研究所の馬永堂教授によると、この政策対応を具体化した中国の海外への労務輸出の形態には、2つのパターンが存在する。ひとつは、海外との技術協力を目的に行われるもので、1)労務協力協定のような2国間の政府協定、2)個別のプロジェクトやプログラムなど海外とのプロジェクト契約、3)海外企業の具体的ニーズに基づく契約、4)中国との合弁ビジネスパートナーとして派遣――などがそれにあたる。もうひとつのより根強い類型としては、いうまでもなく、個人が親類縁者などの伝手で海外に渡り就労するという形態がある。

技術協力等による送り出しの具体的手続き

技術協力等の公の理由で出国し海外で技能研修や就労を行う場合、窓口は大きく分けて1)国家外国専家局が所管する系統、2)商務部が所管する系統の2つがある。

国家外国専家局は、中国対外応用技術交流促進会、中国国際人材交流協会など国レベルの8団体を傘下にもち、その8団体と連携した仲介組織として国からの資格認定証を受けた地方組織等があり、これを通じて海外研修生、就労者のリクルートを行っている。全体的傾向として海外の進んだ技術を取り入れることを目的としている。

一方、商務部では、資格認定を受けた全国各地の経済団体等が個別に派遣対象者を選定している。貿易や合弁の推進に力点をおく傾向がある。

海外への派遣にあたっては、「対外労務合作プロジェクトの審査規定」「海外に派遣する労務人員の教育訓練と管理の規定」「中国と海外の合併企業や提携企業と職業斡旋機関の設立に関する管理の指定規定」「外国の就業斡旋の管理規定」などに基づくほか、各省レベルでも国際人材に関する諸規定や綱領が用意されており、人選、資格、手続きの細目が規定されている。

対象者は、高度技能者と未熟練労働者に2分される。派遣期間は、1年間から2年間と短期である場合が多い。

海外に研修生や労働者を派遣する場合、国家外国専家局や商務部に認定された仲介サービス機関では、派遣契約の内容、派遣先国の法律、政治経済、言語、生活文化等について出国前研修を行うことになっている。

海外への送り出しの実情

技術協力プロジェクトによる海外就労に関して、近年増加傾向にあると、先述の馬教授は指摘する。過去10年間に245万人が研修や就労に従事し、総計1億446万米ドルの報酬がもたらされている。

渡航先は、日本以外にも、シンガポール、韓国などアジア諸国をはじめ、イギリス、オーストラリア、アメリカ、カナダ、スウェーデン、フランスなど欧米諸国など多岐に及んでいる。

個人による海外就労の数は、相対的にまだ多くはないが、国家外国専家局の推計によると90年代から現在まで8万人、2003年の1年間に1万人が就労目的で海外に出ている。

歴史的に見て、中国では、300年以上前から東南アジアばかりでなく欧米諸国にまで移民が行われていた。1978年以来、改革開放が進む中で、先に移民した東南アジア華人を中心とした「華人ネットワーク」からの投資が中国の経済発展の中で重要な役割を果たしてきた。華人、華僑は、90年代半ばにすでに5000万人存在していた。

社会科学院の王春光教授は、1975年頃まで政治難民として処遇されてきた欧州の華人は、その後、政治、経済、社会の安定した基盤を得て、現在では良好な環境を築いており、そういった華人の支援を得て、今後、毎年50万から60万の労働力の不足が予想される欧州を海外就労先として視野にいれることは重要であると指摘する。

WTO加盟以降、中国では欧米との関係が、生産流通、情報通信、科学技術など多方面で密接になり、頻繁な交流が行われるようになったことから、欧米諸国での海外就労機会も加速的に増加しており、華人ネットワークによる送り出し以外にも、研修プログラムの充実や移民先としての将来性が注目されている。

現状と課題

経済成長のファクターとしての就業問題。労務提携を国内のみならず全世界に向け模索する中国であるが、国が認定する経営資格をもたない闇の仲介組織が後を絶たず、社会問題となっている。

中国中央メディアの報道によると、シンガポールでは、「自由工」と呼ばれる中国からの違法就労者の問題が深刻なものとなっている。ある仲介組織を通じて就業ビザを取得し、合法的に中国を出国した労働者が、渡航した先には、会社も工場もない。調べてみると、世話になった仲介業者は国からの認定のない違法仲介業者であった。渡航者は、その仲介業者にパスポートもビザも取り上げられ、本人は、帰国することも出来ない。現地で違法就労の臨時工となるが、シンガポールは違法就労への取り締まりも厳しく、結局強制帰国を強いられるという悲惨なケースが後をたたない。違法仲介業者に多額の研修費用を騙し取られるという事例も報告されている。日本や韓国でも同様の事例が発生している。

大手仲介組織の経営者は、国の規定を根拠に、1)経営資格をもっている組織であること、2)派遣のための保障金額が契約報酬の20%におさまっていること、3)契約内容を仔細に研究すること、3)追跡調査が可能であること――などに注意することを呼びかけている。

グローバル化の進展による経済の国際化とともに、人の移動も拡大している。その一方で、法律や管理のあり方が不十分であると有識者は指摘する。この意味で、移民局の設立、法律の整備、国際労務協力の管理体制の整備、海外就労のための手続きの簡素化を早急に進めることで、労働者の権利を保護し、経済発展を促進する適正な政策の策定と制度の運営が期待されている。

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