(香港特別行政区)公務員給与、香港返還時の水準まで削減

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年5月

公務員給与の削減につき、過去数週間にわたって政府と公務員関係労組の間で緊迫した話し合いが行われてきたが、2003年2月21日に両者間に合意が成立し、公務員給与は2005年末までに6%削減され、1997年7月の香港の中国返還時の水準にまで戻されることが決定した。

景気低迷による税収等の減少で約700億ドルの財政赤字を抱える香港政府は、香港基本法に定める財政均衡原則との関係で、財政赤字削減を最優先課題の一つとしており、2006-07年度までに財政均衡を達成する目標を掲げている。そして景気の低迷のおりにいきなり増税路線に転換することが困難なため、財政赤字の削減はまず政府の歳出削減に重点をおくしかなく、このため約18万人の香港の公務員給与の削減問題は、昨年来最も議論されたテーマの一つだった。2003年1月の董建華長官の施政方針演説でも(第2期目初の施政方針演説として注目されていたが、通常10月に行われるものが、2003年3月のアントニー・リョン財務長官の財政演説に近い時期に延期されていた)、この財政赤字の削減問題と、将来の香港経済の活性化と雇用創出を視野に入れた香港と広東省の珠江デルタ地帯との統合問題が、二つの重要な柱をなしており、前者との関係で公務員給与の削減に言及されていた。

しかし、公務員関係労組は、2002年に民間の賃金動向調査と連動する従来の方式に従って、1.58-4.42%の給与削減があったことから(これは政府の削減目標との関係では30億ドル下回った;本誌2002年9月号I参照)、新たな削減に強く抵抗してきた。

これに対して、立法会の諸政党や経済界には、従来から民間企業の賃金水準との比較で香港公務員の給与水準が高すぎるとの批判があり、香港の世論もこの考えを一般に支持していることから、経済界を代表するジェームズ・ティエン自由党党首が中心になって、財政赤字削減のための公務員給与の新たな削減が強く主張されてきた。

ただ、香港基本法100条は、公務員の給与水準は中国への返還時の水準を下回ってはならないと規定しているため、政府は返還時の1997年から公務員の給与は今日まで6%上昇しているとの算出のもとに、結局給与の6%削減方針を打ち出した。そして政府は、9月の民間動向調査を経て10月から直ちに6%削減するか、若しくは2段階に分けて1年に3%づつ削減するかの2案を用意したが、公務員関係労組は、2002年の削減を理由に2003年の給与凍結を強く主張し、結局政府がこれに譲歩して、2003年は給与凍結、2004年と2005年は各3%削減との合意が成立した。これによって、2005年末までの財政赤字を70億ドルに減少させることが可能になると見込まれている。

香港で政府と公務員関係労組間にこのような給与削減についての合意が成立したのは初めてであるが、2段階に分けた削減を甘すぎると批判する声があり、また、6%の給与削減は民間企業の賃金水準低下との関係でまだ少なすぎるとの声もある。しかし、ジョセフ・ウォン公務員担当長官は、基本法の制約の下では返還時の水準までの削減が政府にできる限度だったと述べており、立法会を構成する諸政党は、公務員制度と香港の社会的安定と調和の見地からも、原則として今回の合意を歓迎している。

このような公務員給与削減の合意で、董建華長官が施政方針演説で言及した他の財政赤字削減措置である社会保障費削減や増税等の下地ができたといえ、合意成立の翌22日には、香港商工会議所等3使用者団体が、営業税を1%増加することを認めることで合意に達している。労働市場の低迷の中で景気好転の僅かな兆しが見えはじめている香港で、このような動きと関連して、懸案の財政赤字の削減が今後どのように進展するか注目される。

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