(香港特別行政区)キャセイ航空紛争、ILOが調査に乗り出す

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年7月

香港を代表する有力企業キャセイ航空では、パイロットの勤務当番制、給与、諸手当をめぐる紛争に端を発して、2001年7月には50人以上のパイロットが順法闘争を理由に解雇され(本誌2001年10月号参照)、パイロット組合との紛争がその後さらに深刻化して続いているが、このような中で国際労働機関(ILO)が2002年4月、会社側の対応に国際労働条約との関係で疑義があるとして、調査に乗り出した。

紛争の経過を見ると、2001年9月11日の米同時多発テロ後、折からの航空業界の厳しい状況を背景にして、会社側とパイロット組合が非公式に会合し、一定の歩み寄りが図られたが、結局物別れに終わった。組合側は、その後も解雇されたパイロットの再雇用を主張しているが、当初の順法闘争は緩和し、定められた勤務日以外は働かない「契約順守戦術」に切り替えた。これに対して会社側はこれを不十分だとして、組合との交渉のテーブルにつくことも拒否している。さらに会社側は、2002年6月30日に契約期限が切れた後は、住宅手当等の諸手当は会社経営の範囲に取り込まれ、7月からは会社側が一方的に変更できるとして、これをパイロット側に通知し、紛争は全くの平行線をたどった。

このような中で、パイロット側を支援する国際的な動きが出てきたが、特に2002年3月にはいり、米国のAFL-CIOが香港政府に書簡を送り、キャセイ航空のパイロット解雇とその後の交渉拒否は、パイロット組合を破壊する試みだとし、政府の紛争への介入を求めた。さらに3月14日には、傘下に10万人のパイロットを擁する国際航空会社パイロット組合連合会(Ifalpa)がILOに書簡を送り、キャセイ航空の行動が国際労働条約に違反する可能性が大きいから、調査を行うように要望した。テッド・マーフィーIfalpa会長はこの書簡で、キャセイには、組合加入の権利、勤務時間外で組合活動を行う権利、組合の自治権を含めて、ILO条約の条項に対する数々の違反があると指摘している。

このような事態に対して、キャセイ航空は、パイロットの解雇は組合員であることを理由とするものではなく、契約と香港法に準拠したもので合法的である等の弁明を行っており、組合に対する強硬姿勢も変えていないが、ILOはIfalpaの要望に応じて調査に乗り出すことを決定した。

ILOは、具体的な調査の前に政府のコメントを求めるとしているが、さらに政府の応答が合理的な期間内になされなくても、調査を行うとしている。これに対して、政府労働局は、ILOからの正式な要請があれば、紛争に対する政府見解を提出するとしている。

ところで、ILOは、条約違反を認めても香港に強制力ある制裁を課する権能はもたないが、香港大学法学部のアン・カーバー上級研究員は、香港は国際比較で労働立法による権利保護が弱いので、これが国際的にクローズアップされることで、事態の展開は香港にとって一有力企業の紛争に止まらない意味をもつことになると述べている。

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