(香港特別行政区)キャセイ紛争、パイロット52人解雇で深刻化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

中国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2001年10月

キャセイ航空のパイロットの給与と職務当番制をめぐる紛争(本誌2001年9月号参照)は、2001年7月3日の期限を過ぎてパイロット組合主導の示威行動に発展し、その後近年の香港の労使紛争の中でも複雑で深刻さの度合の強いやり取りが縦続している。以下、紛争の進展の経過と政府はじめ各界の反応を記すことにする。

紛争の経過

パイロット組合は1500人のパイロット中1300人を擁するが、7月4日を期して指令を発して遵法闘争を開始し、従来のマニュアルを厳格に解釈する戦術を採用した。戦術はジョン・フインドレー事務局長を中心に立てられたが、これにより組合所属パイロットは、二重に安全性をチェックするために出勤を遅らせ、航空書類に目を通すために空港に早めに来るという従来の慣行を変更した。この戦術によるフライトの遅れのため、まず数千人の乗客に最高5時間の遅れを生じ、特に欧州と北米航路に遅れが生じた。 会社側はパイロットに対して、会社のマニュアル解釈に従うように要求し、7月5日にまずパイロット3人を解雇した。パイロット側は病気欠勤届けを提出してさらに遵法闘争を進め、また、台風の影響によるフライトの混乱も生じたが、会社は他の航空会社のチャーター便でフライトの増便を図るなどして対処し、7月9日にさらに強攻策に出てパイロット49人の解雇に踏み切り、紛争は深刻さの度を加えた。

これに対してパイロット組合は7月10日、解雇されたパイロット全員が復職するまでは会社側との妥協はあり得ないことを表明したが、会社側は7月11日、52人のパイロットの解雇は最終的な決定であると言明し、紛争はさらに深刻化した。このような状況の中で、パメラ・タン労働コミッショナーは7月14日、紛争当事者を交渉のテーブルに戻すために、6月28日の交渉決裂以来双方に働きかけていることを明らかにし、職工会連盟(CTU)からも、会社に対する52人のパイロットの復職の働きかけがなされ、政府に調停を求める要求もなされた。だが、キャセイの交渉担当者トニー・タイラー氏はこのような調停の動きに対して消極的な反応を示し、組合側も姿勢の変更を示さなかった。

パイロット組合はさらに7月18日、52人のパイロットの復職があるまで遵法闘争を縦続する決議を圧倒的多数で採択したが、会社側は19日に逆に組合の切り崩しを図って、各パイロットに個別に条件変更を提示する戦術を取り、7月31日を期限として、各パイロットに超過勤務手当、医療・住宅・家族手当等の条件変更を含む契約の変更を提示し、そのための書式を送付した。

これに対して7月25日、組合は顧問弁護士により、パイロットが会社に回答する際の統一書式を作成し、職務当番制は契約の一部で会社側の一方的変更は認められない、超過勤務の条件変更には応じられない、会社がパイロット個人ではなく組合と交渉することを望む等の内容を定め、8月1日に1000人以上のパイロットが会社に統一回答をすることになった。一方会社側は、このような回答に対しては、回答がなかったのと同じ取り扱いにするとしている。

またこの間の7月27日、組合は会社の今年の職務当番制の一方的変更に対して、法廷闘争に持ち込み、職務当番制の一方的変更の差し止めを求める訴えを提起したことを明らかにしたが、裁判所は7月28日、直ちに会社による解雇の危険を伴うものではないとの理由で、訴えを却下した。

各界の反応

このような経過をたどる香港最有力企業の一つであるキャセイ航空紛争に対して、政府、労働界、観光業界等から以下のような反応が示されている。

先に、香港の最重要産業の一つである観光業の総責任者セリナ・チョウ香港観光協会会長は、紛争の長期化で外国人観光客に対する香港の観光地としての魅力が失墜するので、パイロットは会社側の給与と勤務条件の提示に応じるべきだとしていた。

一方、政府は既に7月5日、ドナルド・ツアン政務官が、キャセイ航空の度重なる紛争で(数年に一度の割合で起きている)香港の観光業と航空運輸業がダメージを受けるだけでなく、アジアの空路の拠点しての評価が悪影響を受けるとし、紛争解決のためにあらゆる適切な処置を考慮していくことを述べたが、紛争が基本的に労使紛争であることを強調し、政府の直接介入に言及することは慎重に避けた。香港の労使関係条例は、「特別行政区長官ならびに政府行政会議は、示威行動が物資の供給やサービスの提供に支障をきたして、これによって経済に重大な損害を与える可能性があり、かなりの数の人の生活に深刻な影響を与える場合には、紛争当事者に冷却期間を命ずることができる。」としている。ツアン政務官もこの規定の発動には慎重だが、職工会連盟のリー・チュク・ヤン立法会議員は、紛争はこの条例規定の発動を正当化する段階に達しておらず、逆に冷却期間が命ぜられれば、組合の示威行動に出る自由が侵害される可能性があると、やはり慎重な態度を要請している。

また、アントニー・ルン財務長官は7月10日、数年に一度起こるキャセイ航空紛争が香港経済の発展に与える悪影響に懸念を表明し、従来の「一航空会社、一空路」変更の計画を今回の紛争を契機に促進し、新たな空路の開設に踏み切る可能性を示唆した。同長官はまた、会社のパイロット52人の解雇は尊重すると述べたが、会社側に与することは否定した。

他方、民主派の労組は、今回の紛争で政府の態度が会社よりであると批判し、7月13日には職工会連盟の主導で様々なグループの代表が政府本部庁舎に向けてデモを行い、政府が労組の権利を尊重し、中立を保つことを要求した。

以上のような最近の香港では複雑で深刻な紛争が進展しているが、キャセイ航空が香港社会で占める中枢的な位置からしても、今後の紛争収拾の行方が注目される。

2001年10月 中国の記事一覧

関連情報