(香港特別行政区)リョン財務長官、就任後初の財政演説
―財政均衡めざし、公務員給与の大幅カット提言

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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アントニー・リョン財政長官は2000年3月6日、就任後初の財政演説を行い、香港の厳しい経済・労働市場と政府の目標である財政再建を踏まえた予算案を公にし、懸案の増税は見送って大幅な歳出の削減を行うことを表明した。これにより、従来から議論のある約32万人の労働力を擁する公務員・公共機関職員の給与が一律4.75%減額される公算が大きくなり、公務員関係組合等も含め様々な意見が出ている。

香港は厳しい経済状況と失業を抱えているが、他方、2001年度の財政赤字は656億ドルに達している。香港基本法は財政均衡の原則を定めているので、政府としては景気・失業対策として公共事業を増大させることは困難で、他方、厳しい景気・失業状況を考慮すると、増税を敢行して財政赤字を改善することも困難である。さらに既存の公共事業費等の削減はデフレ傾向を悪化させる危険がある。そこで、リョン長官は2002年度予算で、公務員関係給与の減額による歳出削減で財政赤字を改善することを優先課題として提示し、さらに今後5年以内、すなわち2006~2007年までに財政均衡を達成し、それまでに公共支出全体を国内総生産(GDP)の20%以下に押える目標を定めた。この目標達成のために、18万人の公務員と14万5000人の公共機関職員の給与は、2002年度は4.75%減額される可能性が大きくなった。手続的には、これから毎年行われる民間企業の賃金動向調査が実施され、これに連動させて具体的な給与額が決定され、最終決定は5月になるが、この公務員関係給与の減額に対応して、1年間で60億ドルの歳出削減が見込まれている。

このような緊縮財政全体で、リョン長官は2002~2003年の財政赤字は656億ドルから454億ドルまで削減できるとしているが、他方、経済成長については、2001年の0.1%から、2002年は1%になると予測している。

この他に、リョン長官の財政演説で示された主な内容には以下のものがある。

  • 大幅増税は見送ったが、ワイン税を60%から80%に増額し、2003~2004年には、香港を出境する際に支払う18ドルの出境税を新設する。リョン長官は、目下の厳しい経済状況下で、できるだけ歳出削減を優先した結果、増税をワイン税に止めたことを強調している。
  • 65億ドル相当の経済救済対策が提示され、これには土地・家屋税支払い免除の延長、家庭用水道・下水料金の割り引き、企業登録税の先送り等が含まれている。
  • [若年者職業経験・訓練計画」のために4億ドル支出する。香港では若年者の失業率が高く、15?24才の年令層の失業率は12.7%に達しており、この計画はこの年令層の就業に助力することを目的として、2年間実施される。対象者は1万人で、6カ月から1年の訓練を受け、コース終了後証書を授与される。協力企業は、訓練期間中訓練生に賃金を支払うことを義務づけられ、これに対して毎月補助金の支援を受ける。

リョン長官の公務員給与減額案に対しては、公務員関係労組が、給与水準は基本法で中国への返還時を下回ることができないとされており、また大幅減額は士気の低下につながる等の理由で反対し、場合によっては法廷闘争に持ち込むことも辞さないとしている。これに対して、財界を代表し、公務員給与の減額を強く主張してきた自由党はもとより、親中派の民建連(DAB)、リベラル派の民主党を初めとする諸政党は、リョン長官の予算案に賛成している。従来から香港市民の間で、公務員給与が高額過ぎるとの批判があることが背景にあり、また厳しい景気状況のもとでの民間企業の賃金カットや凍結と比べて、1997年の中国への返還後、公務員の給与が、上位ランクで4.99%、中下位ランクで8?11%上昇したという数字的な背景もある。

ちなみに、リョン長官の初の財政演説は中国でも注目されていたが、朱鎔基首相は予算案を適切な内容と称賛している。

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