民営化に伴う労働者の痛み

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年6月

本誌2002年5月号でもお伝えしたとおり、国営企業の民営化が本格的にスタートし、それに反対する労働運動が活発化している。3月14日にBank Central Asia(BAC)の政府保有株51%が米系投資会社に売却されたのを皮切りに、今後も国営企業の民営化が進んでいくと思われる。

民営化の経緯

2002年度の政府案では、慢性的な財政赤字を補填するために、国は資産売却により6兆5000億ルピアの収入を見込んでおり、その資産売却政策の一部として民営化をすすめていく方針である。政府の3月の発表によると、今年度中に株式売却予定の国営企業は24社となっている。

4月に民営化反対運動が起きた国営国際電話会社のIndosatの場合、政府が65%の株式を保有しているが、6月にそのうち15%を売却し(推定価格1兆7000億ルピア(1億7000万米ドル))、10月には30%を売却する予定となっている。今までの所、オーストラリアやフランス、シンガポールなど外資7社が買収の名乗りをあげている。

民営化と労組の反対運動

Indosatだけではなく、2001年に株式売却予定であった国営セメント会社のPT Semen Gresikの場合、メキシコの企業に売却予定であったが労組の強い反対にあい、最終的に売却案は中止となっている。また3月14日に米系投資会社に売却されたBCA銀行も、数千人規模での従業員の激しい反対運動があったが、強硬な形で民営化が進められている。

通信企業Indosatの政府保有株式売却に反対するデモ

3月18日に国営郵便・通信社(ISPポステル)の労組代表は、Indosatの政府所有株を外資へ売却するという案を、撤回することを求め、ジャカルタ市内で大規模なデモ活動を行った。ISPポステルのアブ・シュクル代表は、「政府が民営化案をこれ以上進めた場合、10万人規模の組合員のストを行う。我らは自分自身の利害のためにこの案に反対しているのではなく、国の資産を外国企業に売却することに対して反対している」と述べた。

その後政府からの行動が見られなかったため、ISPポスタルの労組は3月25日に再び、市内の各地で街頭デモを行い、「政府から1週間以内の回答がなければ大規模ストを行う」と予告し、反対運動が本格化した。

「民営化の際には、労働者との話合いが不可欠」と前労相

このような労組の動きをみて、ボメル・パサリブ前労働大臣は、国営企業の労働者と十分な話合いが行われないまま進行していく現在の政府の国営企業民営化策を批判。また、SBSIのパクパハン議長も、政府は昔の民営化案ではなく、労働者の声を聞き、彼らの支持を得ることによって新しい民営化政策に変化させていくことが必要であり、政府は旧体制のように、政策を独断で決定することができないことを認識すべきだ、とコメントしている。

また、上級エコノミストのムブヤルト氏も、非常に危険な状況なので政府の強硬民営策は避け、労働者との話合いを持つべきとし、前財務大臣のバンバン・スディヨソ氏も同様のコメントをしている。

政府の対応

このような労組の反対運動に対して、ハムザ副大統領は労働者らに対して「現在の財政予算の厳しさと経済状況から鑑みたとき、政府の民営化案が今いかに重要かということを理解して欲しい」と呼びかけ、ラクサマナ国営企業担当大臣は、「労働組合からの反対があったとしてもIndosatの株式売買を含めて、民営化を強硬に進めるべき」と話している。

現地紙ジャカルタポストの社説でも、これら一連の国営企業労働者の反対運動が、「労働の権利」や「外資への抵抗」を主張しているというよりはむしろ、政治的な圧力によって動かされているように見える、と解説している。もし企業の効率性や透明性を高め、その結果労働者の福利厚生が向上するとすれば、労働者が反対する必然性はなくなる。しかも、外資系企業の多くは、労働協約の内容はグローバルスタンダード化しており、より労働者の権利に配慮したものであると考えられると、同紙は報じている。しかし、労働組合との協議を持たない民営化は適切ではないという点では、前出の意見と同様の結論であった。

最終的にISPポスタルとは和解、その後別労組が反民営化をかかげデモ

4月2日に、ラクサマナ国営企業担当大臣とISPポステルの代表と経営側が協議を行い、最終的に和解に達したという。

しかし、4月4日になって今度は別の労組、国営企業労働組合連盟(FSP-BUMN)の50人が政府に対して、「民営化を推進する前に、適切な『民営化法』を確立するべきなのではないか」との要求を突きつけた。現在、民営化法案は草案の段階である。4月の第1週の国民議会において、民営化政策はすでに承認を受けているが、立法府の議員らからは、「民営化に対して更なる議論のつめが必要なのではないか」という声もある。

4月14日には、国家労働闘争同盟(FNPBI)の代表ら120名が、民営化反対運動を展開し始め、15日には15の労組代表と数百人の労働者らが反民営化を掲げ、デモを行った。労組の反対運動は、今後も続くと見られ、最終的な決着はまだついていない。

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