国営企業の労働争議の動き
―国営銀行労組、国営航空機労組のスト
2002年に入ってから民営化問題に揺れる国営企業のデモが活発化している。デモの要因は、自社株を外資系企業への売却に反対するというものや、会社役員のKKN(汚職・癒着・縁故主義)に対して反発する、といったものである。
IMFから厳しいコンディショナリティ(構造調整政策)を突きつけられているインドネシアにとって国営企業の民営化は必須課題であり、それに伴う混乱は避けて通れない道となるだろう。
国営銀行バンク・セントラル・アジア(BCA)銀行のデモ
1998年にアジア経済危機の影響で破綻の危機に直面し、国の経営監督下に置かれたバンク・セントラル・アジア(BCA)の従業員たちのデモが、2002年2月7日、国民議会広場にて行われた。
デモに参加した従業員らは、企業の株を51%売却するとした政府の政策や、民営化に伴う大量人員削減、外資系企業への株の売却、また銀行の創立者であるサリム・グループが再び経営に参加すること、などに反対・反発してデモを行ったという。
現在同社の株を購入する予定となっている4つの企業のうち、2つが外資系企業で、これらの企業は、民営化後の大量解雇は予定していないことを明らかにしている。
また同社の従業員は、2001年に国営セメント製造企業であるPTセメン・グレシクの労組が民営化に反対し、企業内を2つの組織に分けるなどして、結果的にメキシコのセメント会社への売却を失敗に終わらせた例を引き合いに出し、従業員が団結すれば外資系企業への株の売却は阻止することができると訴えている。
同社は、このデモでは政府からの具体的な提案を受けることはできず、2月20日に開発計画担当のクイック・クアン・ギー内務相と労組代表のビラル氏が話し合いを行った。クイック大臣は、BCA社の株式売却は、国の財政赤字を削減するためにも、また投資家への信頼を回復させるためにも必要であるため、避けられない課題であると主張しているのに対し、労組側は2万1000人の従業員が同社は外資系企業の経営参加による合理化に巻き込まれることは避けたいと主張。結局両者の話し合いは妥結に至らず、ビラル氏は従業員の8割(1万6000人程度)が大規模デモを行う準備があると報道陣に伝えている。
その後、3月14日、BCAの政府保有株51%の最終売却先は、米系投資会社ファラロン・キャピタル・マネージメント社の子会社を中心とした企業連合となったことが明らかになっている。
国営航空機製造社PTディルガンタラ・インドネシア(PT DI)の大規模スト
西ジャワ州のバンドンで2002年3月4日と5日、国営の航空機製造会社であるPTディルガンタラ・インドネシア(PT DI)の従業員約8000人が、同社の役員解任を求めて工場を閉鎖するなど大規模なストを行った。同社の役員は汚職・癒着・縁故主義(KKN)に染まっており、解任以外に企業の再生の道はないと訴えている。
その結果経営者側は、ストの手順が労働法にのっとったものではないとしてアリフ・ミナルディ労組議長とAMボーン事務総長を解雇した。しかし、両者はこの決定を無効として認めていない。
最終的に、この問題をラクサナマ国営企業担当国務相に一任することで労使が妥結し、3月7日から従業員は職務に戻った。
メガワティ大統領、最近の労使紛争について「労使の話し合いを大切に」とコメント
メガワティ大統領は、2002年3月3日のFSPSIの労働デーに際し講演を行い、近年多発している労働争議に関して「労働者と使用者は話し合いをしながら妥協点を探していくことが必要」と労使間のコミュニケーションの重要性を強調した。
労使間の話し合いを持つことが先決
この日、ランプン県のバンダン・ランプンで、数千人の労働者の前で大統領は、「労使共に、損をしたという気持ちにならないような好ましい解決方法を、同じテーブルに腰を据え、じっくり話し合うべきである。また労使紛争を取り扱うときには、怒りや暴力では解決に至らない」と、労働者たちに訴えた。
退職金に関する法案が混乱を招く
近年の労働争議で話題となったのが、退職金に関する労働・移住省令の2転3転の議論であった。アル・ヒラル前労働・移住相時代の2001年に、「退職金に関する労働・移住大臣2000年令第150号」が退職者や会社都合の解雇者に対しての退職金が大幅に引き上げられ、使用者側は暴力や事件などを起こして解雇される労働者にまで、退職者と同様の手厚い退職金を支払わなければならない。この際の退職金は勤続年数によって規定されている。
しかし、この改定が「労働者寄りの政策である」、または「あまりにも不合理」と経営者側(特に外資系の企業)の強い反発を買い、「退職金に関する労働・移住大臣2001年令第78号」と再改定され、退職金の額の規定が引き下げられた。
それに対して、労働者は再び大反発の姿勢を見せ、各地で大規模なデモが繰り広げられ、最終的にボメル労働・移住相は、第150号の復活を決め、現在に至っている(詳細については時報2001年8月号を参照)。
大統領は続けて、「現在我々は経済危機後の経済不況に苦しんでおり、無駄な労使紛争をこれ以上繰り広げるべきではなく、危機から脱出するために我々の可能性を高めながら共に働こう。紛争から得るものは何もなく、お互いが多少の犠牲を享受しあい、解決に結びつける努力をしていこう。そして、その際には、法律の遵守が公平な解決への鍵となるだろう」と述べた。
最近の国営企業(PTセメン・グレシック、PTセメン・パダン、PTテレコム、PTカレタ・アピ・インドネシア)の労組が行っているデモやストライキでは、よりよい賃金を求めて活動を行うというよりも、政府の政策に対して反対するという動きを見せている。特に、国営企業の株を外資系企業に売却するという政府の民営化案に労組が反発している。
2002年5月 インドネシアの記事一覧
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