IGメタル、2002年度賃上げ要求5~7%

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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2002年秋の連邦議会選挙を控え、景気が低迷する中での同年度の賃金協約交渉の動向が注目されていたが、交渉の先頭を切るIGメタルの幹部会は2001年12月10目、2002年度交渉での賃上げ要求を5~7%と決定した。

IGメタルのツビッケル委員長は、高い賃上げ要求の根拠として国内の景気を刺激する必要を挙げ、そのためにはある程度の額の賃上げが必要だとし、また、過去2年間の控え目な賃金政策は失業者数の減少につながらなかったので、機能を果さなかったと述べている。IGメタルは、賃上げ要求5~7%の内訳としで、経済全体の生産性の向上2%、インフレ上昇率2%とし、残りの賃上げ要求分は、企業収益の賃金への分配、2000年と2001年の賃上げが控え目だったことにたいする埋め合わせだとしている。もっともIGメタルは、この賃上げ要求は低迷する景気刺激の一要素に過ぎず、これと平行して、連邦政府は公共投資の前倒しを実施し、欧州中央銀行(EZB)の金融政策として金利の引き下げが実施されねばならないとしている。

賃金協約の有効期間としては、IGメタルは2000年度に締結した2年と異なり、12カ月を要求している。さらに、連邦議会選挙の年に高額要求することについて、ツビッケル委員長は、選挙の年にある程度高額な賃上げで妥結することは、労働者の満足に利害関係をもつシュレーダー首相にとっても意味のあることだろうと述べている。

この幹部会の賃上げ要求決定に基づいて、2002年2月から各地域レベルで、IGメタルと金属業界の使用者団体との協約交渉が行われるが、IGメタルは、この賃上げ要求とともに、労使間で長年の懸案になっている賃金構造の改革、つまり労働者(Arbeiter)と職員(Angestellte)の貸金格差の解決を交渉の重要なテーマにする意向を示している。ツビッケル委員長によると、現在専門労働者と職員の間では、同じ活動に対して年間1万マルクの賃金格差があるという。

このようなIGメタルの要求に対して、使用者側は強く批判している。フント使用者連盟(BDA)会長は、IGメタルの賃上げ要求を無責任だと批判し、失業率の高い現在の状況からも、高額の妥結は雇用危機を高めるとしている。また、ラインハルト・ギョーナBDA代表業務執行理事は、賃上げによって国内需要が増大するという1Gメタルの主張を退け、むしろこのような賃上げはドイツの景気後退を長引かせることになると強く反発している。

直接の交渉相手である金属連盟のマルチイン・カネギーサー会長は、IGメタルの賃上げ要求決定の翌11日、金属連盟の対応を発表し、IGメタルの要求を受け入れ不可能として退け、協約交渉の妥結基準はあくまで経済全体の生産性の向上の範囲に限定されるべきだと述べている。ただ同会長は、現時点で賃上げの具体的な数字を挙げることは控え、2002年2月末には景気の動向がよりはっきりするから、金属連盟としてはその時点で具体的な数字を挙げるとしている。また金属連盟は、協約の有効期間については、企業と労働者双方の計画性の確保から、2年の期間を強く主張している。さらに同連盟は、2000年の協約交渉で問題になった差別化された賃金協約の妥結を求め、賃上げの一部は業績の異なる個別企業のそれぞれの業績に結び付けて決定されるべきだとしている。

労使双方のこのような主張に対して、研究者やエコノミストは一般に控え目な貸金協約の締結を求めている。従来から、学界では高くても賃上げ幅は2%程度との意見が多かったようだが、6大経済研究所の一つで社会民主党(SPD)に近いベルリンのドイツ経済研究所のクラウス・F・ツィンマーマン所長は、2002年の協約交渉を主導する金属産業では、賃上げ幅は最大でも3%以内に止めるべきで、それ以上の賃上げは景気に消極的に作用すると述べている。また、DGZ-Deka銀行のウルリヒ・カーター主任研究員は、IGメタルの高額な賃上げ要求によって、欧州中央銀行の金利政策が制約を受け、高額で妥結されれば、インフレとの関連で金利の引き下げが困難になると見ている。

このような動きを受けて、シュレーダー首柏は、景気の力強い回復にとって2002年の賃金協約交渉は非常に重要であるとし、労使双方に対してドイツ経済全体に対する責任ある協約の締結を求めている。ただその後12月末に、労働総同盟(DGB)のシェルテ会長と統一サービス労組Verdiのプジルスケ委員長が、IGメタルの賃上げ要求に対する支持を表明している。

2000年度協約交渉では、1月の「雇用のための同盟」第5回会談の共同声明(本誌2000年4月号Ⅰ参照)が土台となり、それを受けて化学労組(IG BCE)が主導権を発揮し、控え目な賃上げで有効期間の長い貸金協約を締結し、IGメタルもその後これに続くことになった(本誌2000年6月号Ⅰ参照)

しかし2002年度については、このような「雇用のための同盟」の会談の開催は未だなく、また、賃金政策を同盟で議論することに労働側が難色を示している。したがって、2002年度の賃金協約交渉は、IGメタル主導のもとで難航が予想されるが、景気・労働市場の低迷と秋の連邦議会選挙を考慮に入れると、今後の動向が注目される。

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