(香港特別行政区)董長官、景気・雇用に150億ドルの救済策を提言
―第5回施政方針演説

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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香港の景気・雇用状況の悪化の中で、建華長官は2001年10月10日、在任1期目最後の第5回施政方針演説を行った。この演説で長官は、加速化する経済の下降、失業率の上昇、財政赤字の拡大、景気回復の遅滞、米同時多発テロの追い討ち等、香港がこの数十年で直面する最も厳しい状況についての認識を示し、長引く経済的苦境に対処する景気・雇用対策の必要性を強調して、雇用創出、緩やかな減税措置、企業環境整備のために150億ドル相当の救済策を実施することを発表した。

以下、所信表明演説の内容とその後の動きについて、その概略を記する。

(1)演説の内容

150億ドルの救済策の主な内容は以下のとおりである。

  • (a)雇用対策
    • 3万2000人の短期採用の雇用創出のために30億ドルを支出。
  • (b)減税措置
    • 土地・家屋税を2002年に最高2000ドルまで削減し、これについて50億ドルのコストを負担。
    • 不動産ローンの利子支払いのための税控除額を10万ドルから15万ドルに増額し、これについて10億ドルのコストを負担。
  • (c)企業環境整備

    中小企業支援のために19億ドルを拠出。この他、施政方針演説に盛られた主な対策としては以下のものがある。

    • 地域振興基金として3億ドルを拠出。
    • 外国国籍を持つ永住権者がビジネス等で中国本土に行くことを可能にするために、期限3年の入国許可複数回のビザ申請を認可。

教育関連としては;

  • 補助教員を増やすために中等教育に2億ドルの追加支出。
  • 継続教育と職業訓練計画の補助のために50億ドルの基金を設立。
  • すべての初等教育学校に英語を母国語とする教師を配置。

インフラ整備関連としては;

  • 向こう15年間に、鉄道と道路の連結のために6000億ドルを支出。
  • チェク・ラプ・コク空港の展示会場建設に20億ドルを支出。

さらに、懸案の行政組織改革については、説明責任を強化するために、行政官、財務長官、法務長官と各政策担当局の長からなる準内閣制度を確立し、政府行政会議に猟官制度を導入することが提案され、これが次の特別行政区長官の下で最終決定されることが強調された。

(2)その後の動き

以上のような所信表明演説に対して、その後以下のような動きが出ている。

演説当初から、労働側の立法会議員から緊急事態の雇用の救済に役立たないと強い不満が表明され、この厳しい経済状況の下で公務員の人員削減をしないことの保証を求める意見が出された。また経済界からも、政府の対策は香港経済の活性化に余り役に立たないとの意見が表明され、財界を代表するジェームズ・ティエン自由党党首をまとめ役とする立法会すべての8政党からは、政府の救済策150億ドルとは別個の250億ドルの救済策を、さらに検討するようにとの強い要望が出された。この救済策は、施政方針演説に先立って10月9日に発表され、これには148億ドルのコスト負担となる1年間の土地家屋税の免除、2万人の雇用創出のための20億ドル支出等が含まれている。

逼迫する財政の悪化については、長官も10月12日の昼食会で施政方針演説で示した厳しい認識を改めて示したが、翌13日、アントニー・ルン財務長官は、政府の歳入の増加が見込めないならば、財政赤字は3月予測の30億ドルを遥かに越え、1000億ドルに近い記録的な高さに達する恐れがあることを認めた。同長官によると、土地売却、準備金の投資利益、MTRA(鉄道会社)の第2期株式売却の3つの分野で、特に歳入が減少することが懸念され、これだけで780億ドルに達するという。過去財政赤字が最も増大したのは、アジア経済危機の影響を受けた1998ー1999年の232億ドルだった。

その後、労働側議員から相次いで、雇用創出策の数字3万2000を疑問視する声が出ている。立法会議員のリー・チュク・ヤン職工会連盟(CTU)事務局長は10月18日、雇用創出策に盛られた3万2000人のうち、8000人は既存の諸種のサービスを拡大して創出されるものに過ぎず、4000人は政府住宅局がすでに提供することを確約している警備関係の仕事に過ぎないから、実際の雇用創出は3万2000人を遥かに下回るとしている。また、学識経験者の一部も、雇用創出策の内容のほとんどが、多種の公共分野での環境整備等の仕事で、長期失業対策としての効果があるか疑問だとしている。

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