(香港特別行政区)失業率4.9%に上昇

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年12月

2001年5月~7月期に失業率は6カ月振りに0.1ポイント上昇して4.7%を記録したが(本誌2001年11月号参照)、政府人口統計局が9月17日に発表した雇用統計では、6月?8月期にはさらに失業率は4.9%に達し、労働市場状況は景気の明確な減速(第1記事参照)とともに深刻化している。米同時多発テロの影響は、このような労働市場の悪化に拍車を掛け、失業率はさらに上昇すると予測されているが、以下この間の事情を記す。

6カ月振りに失業率が上昇した後、9月初めには大学新卒の求人数が前年比で30%減少するという厳しい状況が続いていた。2001年夏卒業の大卒求人数は1万425人で、昨年の1万4958人と比べて大幅な減少となり、特にIT部門の求人数が3000人から1000人に減少した。大手人材コンサルタント会社でも、景気減速が大卒求人数の減少と連動していることを指摘しているが、このような厳しい就職戦線の中で、政府労働筋も、大卒求職者に対して、週休2日で午前9時から午後5時勤務という正規雇用だけに応募するのではなく、厳しい雇用市場にもっと弾力的に対応すべきで、求人数の多いサービス業の正規雇用とは異なる時間帯の勤務にも積極的に応じるべきだと呼びかけた。

その後、9月11日に米同時多発テロが起こり、9月17日の政府発表の統計で、失業率は4.7%から4.9%に上昇した。失業者数は17万2000人で、前期比で7000人の増加だった。人口統計局によると、最も打撃を受けた部門は、飲食業、不動産業、製造業、情報・通信部門、企業サービス部門であり、一方、建設業、卸売業、輸出入業部門では僅かに好転した。また、不完全雇用率は前期と同じで2.2%だった(就業者数は342万8000人)。

テロの雇用市場への影響は未だ確定しえず、4.9%の数字は6月?8月期のものゆえ、テロのインパクトを直接反映するものではないが、上昇傾向に転じた失業率に対するテロの影響については、懸念する声が広がっている。

雇用統計発表を受け、まずアントニー・ルン財務長官は、テロの影響で香港の失業率は向こう数カ月間さらに上昇するだろうと悲観的な見通しを示した。

労働側では、立法会議員のリー・チュク・ヤン職工会連盟(CTU)事務局長がすでに9月初め、政府の積極的介入がなければ失業率は5%を超えるだろうとして、政府に準備金の投入による雇用の創出を強く要望していたが、9月18日には香港・九竜労働組合連合のプーン・シュウ・ピン副委員長が、香港市民は今では政府に失業に対する短期的施策を求めているから、董建華長官は10月の施政方針演説でこの点に配慮すべきだとした。そして同副委員長は、政府は雇用創出のためにインフラ整備計画をさらに推進し、中小企業の支援を強化し、また、公共料金を凍結すべきだと述べている。

他方、産業界を代表する行政会議のメンバーで董長官の主要な補佐官の一人ヘンリー・タン氏は、テロによる米国経済の減速が香港経済に影響することを予測しながら、政府発表の失業率の上昇傾向を受けて、失業者救済よりもむしろ香港経済の将来的方向に言及している。すなわち同氏は、グローバル化の中で競争力をもつためには、産業構造の転換過程で適者生存の法則が働くことが長期的には香港に役立つとしている。そして同氏は、幾分冷酷に響くかもしれないと断りつつ、香港は成熟した経済社会だから、淘汰の過程は不可避で継続されねばならず、自由主義市場原理が維持されねばならないと述べ、また、経済的苦境救済のための幾らかの政府の介入措置には反対でないが、その基準はあくまで経済的効率と利益であるべきだとしている。さらに同氏は、将来的には香港と珠江デルタ地帯の統合を図るべきで、そうすればこの地域が上海を中心とする長江デルタ地帯と並ぶ中国経済の推進力になると述べている。

このような各方面からの反応がある中で、雇用状況はさらに悲観的で、9月19日には中国銀行グループがリストラの結果400人の雇用者を、1600人のスタッフを抱える香港最大の税務・会計企業デロワ・トゥーシェ・トーマツが100人のスタッフをレイオフした。また、香港旅行業者会議は9月26日、経済状況の改善がない限り、観光業部門では向こう数カ月間に6000人から8000人の雇用が失われるだろうとしている。

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