(香港特別行政区)政府、米同時多発テロ後、GDP成長1%の再度の下方修正を示唆

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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2001年8月の前半から後半にかけて、景気について楽観視できない見通しが各方面で表明されたが(本誌2001年11月号参照)、さらに8月31日には政府が経済成長見通しを1%に下方修正して、これに対する反応が一段と深刻化した。そしてその直後の9月11日、米同時多発テロが勃発し、米国経済と密接な関係をもつ香港では、観光業も含めて悲観的な見通しが進展し、政府も経済成長率の再度の下方修正を示唆している。

以下、テロ前の下方修正をめぐる状況を記し、次にテロ後の現時点(9月30日現在)での各方面の反応を記する。

(1)テロ前の状況

政府は8月31日、2001年度の国内総生産(GDP)成長の見通しを3%から1%に下方修正した。これは、5月に3月の予算発表時の経済成長予測4%を3%に下方修正したのに続く、今年に入って2度目の下方修正である。この2度目の下方修正の背景には、2001年第2四半期のGDPの成長が前年同期比で僅か0.2%の上昇に止まり、また、2001年第1四半期から第2四半期にかけての成長が1.7%の減少に転じ、減速傾向が加速したことがある。

減速傾向の主な原因としては、香港経済と結び付きの強い米国経済のIT不況等による減速と香港域内の投資の減少があり、投資については、第2四半期の域内投資は前年同期比で0.4%の増加に止まっている。特に機械・設備投資は、前年同期比で0.3%の増加に止まり、第1四半期が22.6%の増加だったのと比べて著しく減少した。

1997年のアジア経済危機の煽りを受けて、1998年に香港経済は5.3%のマイナス成長を記録したが、その後、他のアジア諸国と比べて急速な回復を示し、2000年には成長率10.5%を記録した。この急速な回復は、輸出主導の香港経済の弾力性を示すものとされて注目されたが、今年に入ってからは、米国経済の不調の影響も受けて香港の景気は減速しており、上述の政府の2度目の下方修正発表を受けて、景気後退(リセッション)の予測も含めた悲観的な予測が各方面で行われている。

タン・クォン・ユー政府エコノミストは、景気の急速な回復は期待できないから、第3四半期も第2四半期と大差はなく、第4四半期には香港経済は前年同期比で0%成長に近づくことが予測されると述べている。

また、有力銀行HSBCホールディングスは、8月初めに経済成長予測を2.2%から1.8%に下方修正したばかりだったが、今回さらに0.4%に下方修正した。同社のジョージ・ルン上級エコノミストは、さらに香港経済がマイナス成長となって景気後退に陥る可能性を示唆している。

香港科学技術大学のフランシス・ルイ教授も悲観的で、経済成長予測を0%から0.5%の間としている。同教授は、政府は景気減速の主な原因を輸出の減少に求めるているが、グローバル化の影響で、香港経済が知識主導型の経済に構造転換を強いられている内部的要因にもっと注目すべきだとしている。そして非熟練労働者の再訓練が重要だが、この間も、自由主義市場経済の作用で失業増加は避けられず、米国経済が来年初めに少し持ち直しても、香港の経済成長が大きく回復することはないだろうとしている。

このように深刻な意見が表明される中、諸政党から政府の4000億ドルの準備金を有効に利用して景気のてこ入れをすべきだとの意見が主張されている。財界を代表する自由党のジェームズ・ティエン党首は、経済の不調は年内は続くので香港市民の忍耐も必要だが、政府も何らかの対策を講ずるべきで、政府準備金を域内のインフラ整備と人材開発に投資すべきだとしている。また、リベラル派の民主党のユン・サム氏も、政府は市場の原理に委ねるだけではなく、積極的に準備金を使って介入し、景気刺激と雇用の創出に努めるべきだと主張した。

(2)テロ後の反応

このように景気の減速が深刻化する中で、9月11日の米同時多発テロが起こり、その世界経済に対する影響は未だ確定できる段階に達していないとはいえ、香港ドルと米ドルとのペッグ制を維持し、米国を主要な輸出市場とする香港経済に対する見通しは、厳しさの度合を増している。

董建華長官は、テロの香港経済に対するインパクトについて、地元の有力エコノミストと協議して9月14日に見解を示し、景気の回復基調が見えるのは2002年初めとしていた従来の政府見通しを変更して、2002年末までは回復基調は見えないだろうとの考えを示した。同長官はまた、政府が経済戦略を策定することを述べたが、その後9月17日には政府発表の失業率が4.9%に上昇したこともあり(第2記事参照)、政府指導部は9月20日、改めて景気減速に対して積極的な措置を取るとした。そしてアントニー・ルン財務長官は、テロの影響等の外部的要因に対処する短期的な施策と共に、香港経済の構造的転換を見越した長期的な施策も講ずることを確約した。しかし同財務長官は、幾つかの政党、商工会議所が、香港経済の窮状に鑑み、使用者と雇用者の強制積立金(MPF)の保険料の徴収を1年間凍結すべきだとしていることについては、あらゆる提言を考慮するとしたものの、確答することは慎重に避けた。

その後、ルン財務長官は9月24日、世界経済の減速の影響で、政府はGDPの成長予測をさらに下方修正することを余儀なくされるだろうと述べている。ただ、同財務長官は、下方修正の具体的数字については適当な時期に発表すると述べるに留まった。

他方、タン政府エコノミストも、テロ発生を受けて香港経済の厳しい見通しを示し、悲観的要因として、株式市場の下落、ドル安、石油価格の高騰を挙げ、さらに米国経済を支えてきた民間消費につき、9月の米国の消費者信頼指数(consumer confidence in-dex)が下落したことも懸念材料に挙げている。そして、これが2001年第4四半期と2002年初めの香港の対米輸出に悪影響を与えるとし、さらに、テロの影響による米国人観光客数の減少が香港の観光産業に与える影響にも懸念を表明している。

ちなみに、香港観光会議は9月27日、米同時多発テロの影響で、香港を訪れる観光客数は100万人減少するだろうとしている。

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