(香港特別行政区)給与格差問題の議論が活発化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年8月

政府は過去12カ月間の民間企業の賃金状況の調査結果を5月11日に明らかにし、 これに連動する公務員給与の上昇幅も算定され、 2年連続で凍結されていた公務員給与の上昇が、 約2~5%の幅で実現される見込みとなった。 しかし、 前提となる民間企業の賃上げ幅には予想以上の格差があったことから、 各方面から香港社会の給与格差の問題を懸念する声が上がっている。 「公務員の給与並びにサービス条件に関する委員会」が76企業(12万7625人)を対象に行った民間給与動向調査では(期間は2000年4月2日から2001年4月1日)、 賃上げ幅の平均は、 上位グループ(9万2700ドル~4万6486ドル)で6.15%, 中位グループ(4万6485ドル~1万5160ドル)で3.55%, 下位グループ(1万5160ドル未満)で2.95%だった。 この上昇の背景には、 民間企業の多数が従業員にボーナスを支給したことがある。 公務員給与の上昇幅は、 この民間の上昇幅から年功序列による年間増加額を差し引いた純上昇指数として算定され、それは各グループで、 4.99%, 2.38%, 1.97%だった(この指数が公務員局の政府に対する勧告の基礎となり、 政府、 立法会が7月に最終決定し、 4月にさかのぼって適用されることになる)。

このような調査結果に対して、 公務員諸労組から給与格差の拡大傾向に対する懸念が表明され、 下位グループを代表する労組員からは、 格差是正の要望が出された。 さらに労働側や学界を中心に、 民間企業の上位グループと下位グループの間に、 賃上げ幅で2倍の格差が出たことに驚きが表明され、 熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差がますます拡大していく傾向に対する懸念の声も相次いだ。

科学技術大学の応用社会学のフェルナンド・チュン講師は、 香港の低所得層は過去2年間低賃金を顧みられなかったので、 今や政府が何らかの施策を講ずべき段階に至ったと述べている。 チュン氏は、 他の先進国ですでに導入されているように、 香港でも給与格差の拡大傾向に歯止めをかけるために、 最低賃金と最高労働時間数の制限が導入されなければならないとしている。 また、 富の偏りを是正するために累進課税も含めて現行の税制の改革も検討されるべきだと強調している。 香港・九竜労働組合会議のリー・クォク・クン委員長は、 グループ間の給与格差の拡大は理解の限度を超えており、 このような数字は香港の貧富の差の拡大傾向を端的に示していると述べている。 また、 同会議が行った112人の組合幹部に対する調査では、 その83%が経済のグローバル化とともに給与格差の拡大等、 労働者の生活状況の悪化が生じることになると回答し、 懸念が表明されている。

また、 労働問題専門家からは、 情報技術とサービス業中心の知識主導の経済構造への転換では、 高学歴の人材が要求され、 給与格差の問題が生ずるのは香港だけでなく、 グローバルな問題で、 非熟練労働者の労働条件の悪化は避けられないが、 香港ではその対策の一環として、 中等教育修了者の60%にさらに高等教育の機会を与え、 準学士を養成するプログラム(Ⅲ参照)等が立案されているとの指摘もなされている。

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