市場メカニズムが浸透、国有企業の賃金制度が多様化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年3月

1995年から2000年が、中国政府が定めた経済発展の第9次5カ年計画の期間である。この5年間、国有企業には、現代企業制度の確立を目標にした株式制度の導入など、大きな変化が現われた。それに伴い、かつて一律に定められた平均主義的な固定賃金制度も、市場メカニズムの導入により、大きな変貌を遂げている。中央政府の労働保障部は、当初から第9次5カ年計画における国有企業の賃金制度改革に関して、現代企業の賃金制度に照準を合わせて、「労働成果に従う分配、多様な分配方式の並存、効率の優先、公正原則への配慮、市場メカニズムと企業自主性の尊重、従業員の民主的参加、国家による監督と指導」等を内容とする指針を発表した。

現在、国有企業に見られる新たな賃金制度として、まず、北京、江蘇、山西、湖北、吉林、大連などの省と市における1700社余の国有企業では、団体交渉による賃金決定の試みが行われた。また、かつての国有企業賃金総額に対する中央政府の規制を改め、労働者個人の仕事の成果に連動する賃金制度が導入された。さらに、内部のコーポレート・ガバナンス構造が確立している。とりわけ株式を上場している国有企業に対して、賃金総額についての行政指導は完全に撤廃され、企業が、ほとんど自主的に賃金水準を決定できるようになった。

以上の改革の実施によって、企業内部の賃金分配制度はより多様化してきた。多くの国有企業では、学歴・資格と企業内の職務および個人の貢献度によって格差をつける「崗位(職務)賃金」や「崗位薪点賃金」が導入された。また、多くの国有企業では、経営状況に基づいて、労働力コストを調整する制度が導入され、経営状況に応じて減給もありうるようになった。北京、浙江、深圳市などの省と市では、従業員の持株制度が打ち出されており、従業員が資本投入、もしくは自らの能力で株式を取得し、または企業への貢献に基づいて、配当を取得する制度も試行されている。

企業経営者の年俸制賃金も急速に広がっている。現在、全国27の省、自治区および直轄市の行政側は、年俸制試行の通達を公表しており、6700社の国有企業が年俸制を試行している。上海、北京や武漢などでは、経営者のインセンティブ・メカニズムとして、年俸制とストック・オプションを併わせて導入する試みも行われている。

中央政府は、かつての国有企業の賃金に対する直接管理から、マクロ的なコントロールに立場を転換しつつある。その1つの現れとして、最低賃金保障制度の確立が挙げられる。1999年までに、28の省と市では、当該地域の最低賃金基準が公表された。また、20の省と市では、労働行政による賃金指導ラインが公表され、上海、北京、深圳をはじめとする35の都市では、労働市場の状況に基づいた賃金の参考値の公表も試行されている。また、10の都市では、人件費コストについての予備制度が導入されている。賃金支給に対する労働行政のモニターリング体制も確立されはじめ、深圳市は、全国で初めての賃金遅延保障制度を打ち出し、北京、大連などの大中都市でも、賃金遅延を解決するための制度が相継いで確立された。 第9次5カ年計画期間中に、国有企業の賃金制度は、総じて、かつての政府による直接コントロールから、市場メカニズムによる調整に変わった。多くの国有企業は、市場メカニズムにしたがい、労働者の貢献度に相応しい賃金制度の確立に努める姿勢を明確にしている。

第9次5カ年計画期間中に、都市部労働者の賃金所得は大幅に増加した。1999年、都市部労働者1人当たりの実質賃金は7328元に達し、年ごとの平均増加率は4.9%になっている。レイオフ労働者を含めた国有企業従業員の平均賃金は、1人当たり6846元に達し、第8次5カ年計画の末期より6.4%増加し、実質的には年平均4%の伸び率を示した。

30の省と市における最低賃金保障基準額(元)

地域 基準 地域 基準 地域 基準
北京 400 浙江 320~380 海南 250~350
天津 340~350 安徽 165~240 重慶 210~270
河北 210~290 福建 210~380 四川 160~~220
山西 180~300 江西 200~290 貴州 182~260
内モンゴル 221~273 山東 220~320 雲南 220~300
遼寧 180~240 河南 190~290 陝西 185~260
吉林 210~270 湖北 180~260 甘粛 240~289
黒龍江 170~250 湖南 190~280 青海 220~260
上海 423 広東 250~547 寧夏 230~390
江蘇 210~320 広西 170~200 新彊 230~390

注:チベットではまだ確立されていない。

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