6大経済研究所、シュレーダー政権の諸施策を積極的に評価
―2000年秋季景気動向・労働市場予測

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年1月

ドイツの6大経済研究所が行う春季と秋季の年2回の景気動向・労働市場予測は、制度的に定着した権威ある予測として政労使いずれの側からも注目されるが、2000年10月24日発表の予測では、原油価格の高騰という重要局面を踏まえ、さらにシュレーダー政権が今年遂行してきた幾つかの重要政策の評価を含み、今後の労使関係の動向を見ていくにも重要なものとなっている。

6大研究所は、2000年度の景気回復は多少の鈍りを示し、経済成長は、2000年の3.0%から2001年は2.7%に後退するとの予測を示した(1999年は1.6%)。これは、同研究所が示した春季予測(2000年2.8%、2001年2.8%)と比べ、2001年度に関しては若干の下方修正となる。また、失業率(年間平均)は、2000年9.2%、2001年8.5%(1999年は9.8%)、失業者数(年間平均)は、2000年389万人、2001年360万人(1999年は409万9000人)との予測で、労働市場は引き続き改善するとの予測を示している。さらに消費者物価(前年比)については、2000年1.9%上昇、2001年1.7%上昇(1999年は0.6%上昇)と予測している。

同研究所は、景気回復が多少鈍ることについて、原油価格の高騰で消費者物価が上昇し、これによる実質賃金の低下に伴って購買力が低下し、その影響で経済成長が春季予測を多少下回ることになるとしている。しかし同研究所は、これによって70年代の中東紛争を契機とするオイル・ショック時のような景気の後退がもたらされることはなく、ドイツ経済の回復基調は継続し、これが労働市場への好影響を持続させることになるとの予測を示している(ただし同研究所は、ヨーロッパ中央銀行が現在の金利を引き上げず、金融政策のさらなる引き締めを図らないことを要望している)。

このような予測の背景として、6大研究所は、2000年度にシュレーダー連立政権(SPD 主軸)によって実現された諸施策をある程度積極的に評価している。

まず、労使の賃金協約が控え目な賃上げで妥結し、労働協約有効期間が概ね2年とされたことにつき(本誌2000年6月号参照)、外部的な原油高騰の影響を相殺するために決定的に重要だとしている。同研究所は、1970年代のオイル・ショック時には、これに伴う物価上昇の埋め合わせとして労組の要求した賃上げが逆効果として働いたのに対し、2000年度の協約交渉の妥結額と期間は、これの二の舞を踏むことを防ぐと評価し、この賃金政策が維持されることを強く要望している。ただ、賃金構造の変革は不十分で、なかんずく、現在の構造が、失業の波を直接被る非熟練労働者の雇用促進の機会を減少させていることも指摘している。

また、7月に成立した税制改革法(本誌2000年10月号参照)についても、同研究所は積極的に評価し、2001年から実施される所得税、法人税の減税(最高税率の減少等)は、原油高騰によるマイナス効果を埋め合わせ、経済成長と雇用の両面を刺激し、景気回復基調を維持することにおいても、時期的に効果的だったと評価している。

ただ同研究所は、賃金外コスト、なかんずく社会保険料の負担が大きすぎ、これは税制改革によっても変わらないとし、このために今まで引き伸ばされてきた根本的な年金改革を早急に実現することが重要だとしている。この関連で、同研究所は、先に連邦政府が提出した年金改革法案(本誌2000年12月号参照)に含まれる公的年金を補完する個人年金構想は、方向として正しいものだと評価している。

このような6大研究所の秋季予測に対して、連邦政府は自らの経済・財政政策の正しさを裏づけるものだと受け取り、原油価格の高騰によっても景気の回復基調は変わらないと自信を示している。アイヘル蔵相は、同研究所の経済成長予測は政府の予測(2001年は2.7%)ともほぼ一致し、かなりの雇用の増加と失業率の低下がもたらされると予測されていることも歓迎している。

これに対して野党側は、ドイツ国内の成長要因をさらに強化することを要望している。また、経済界は、年金改革を含む社会保障制度の改革促進と労働市場のさらなる規制緩和を要望し、とくに産業連盟(BDI)は、景気が鈍るとの予測を踏まえ、原油価格の高騰とそれに連動する購買力の低下が、新たな賃上げ要求に結びつかないように強く要請している。さらに労働総同盟(DGB)は、6大研究所が積極的に評価した賃金政策の効果を維持するためにも、ヨーロッパ中央銀行が現在の金利政策を維持することを要望している。

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