労相、年金改革法案を発表

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年12月

1998年秋の政権交替以来、年金改革は、社会民主党(SPD)主軸のシュレーダー政権が税制改革と並んで懸案としてきたものであるが、昨年末以来の与野党による基本的合意達成の努力の後で、リースター労相により2000年9月26日に一応の改革法案が発表された。この法案は、将来の公的年金の保険料の増額と支給額の減額、これを補う個人年金等の強化を骨子としているが、これに対しては、労使双方が異なる観点から批判を行っている。

年金改革については、政権交替直後にCDU主軸の前保守中道政権の改革案が停止され、新政権による抜本的改革が宣言され、まず公的年金の年金額を手取賃金にスライドさせることを改めて、2年間にかぎりインフレ率にスライドさせる方式に変更され、また、環境税を財源として、2000年1月から保険料率を20.3%から19.3%に引き下げることが決定された。

その後、1999年9月から11月にかけて、リースター労相による個人年金強化構想と野党 CSUによる改革案が発表されたが、与野党間の対立が続き、12月にシュレーダー首相主催の年金に関する第1回与野党首脳会議が開かれ、年金改革のような将来にわたる大改革においては、与野党の努力で一致点を見いだすことが必要だと確認された。

その後2000年5月に、与党社会民主党と緑の党が共同で最初の改革構想を発表し、特に公的年金の保険料率を2020年までは20%以下に、2030年までは22%以下に押えること、それによる年金支給額の減額を補うために、国家による助成を伴う雇用者の任意の積立方式の個人年金の設立が構想され、そのために雇用者は2001年以後税込賃金の0.5%を積み立て、これを段階的に増額して、2008年以後は4%を積み立てることとした。さらに6月になって、シュレーダー首相は、年金に関する第2回与野党首脳会議を主催し、個人年金に関する国家の助成額を、野党CDUの提言する子供に対する手当も含めて大幅に増額し、2008年までにそれを195億マルクに増額することを提言した。

その後9月になって、シュレーダー首相が、公的年金の支給額を2001年から賃金にスライドさせる方式に戻すことを決定した。さらに同首相は、議論の別れた年金の保険料と支給額のいずれに課税するかの問題については、来年連邦憲法裁判所の判決が出るまで先送りにすることにし、改革法案と切り離すことを決定した。そしてこれに続いて、リースター労相により年金改革法案が発表される運びとなった。

改革法案は、ドイツで伝統的に重視される公的年金制度を維持しながら、少子高齢化に合わせて年金負担の抑制を図るために改革を行い、それを補うために国家の助成による新たな事業所(企業)年金と個人年金の枠組を導入するもので、その内容は課税等とも関連して詳細にわたるが、主な内容は以下のとおりである。

  1. 公的年金については、支給額をインフレ率にスライドさせることを2001年から改め、賃金にスライドさせる方式に戻す(ただし以前と同じ方式ではなく、公的年金と新たな個人年金の保険料率の変更を考慮しながら、前年度の税込賃金の上昇に合わせてスライドさせる)。保険料率については、その増額をできるだけ押え、現行の19.3%を2001年には19.1%に下げ、2010年までに、さらに18.7%まで下げ、その後2020年までは20%以下に押え、2030年までは22%以下に押える。これに対応して、年金の支給額は現在より減額されねばならず、現在賃金の70%であるのが、2030年には64%まで減額される。
  2. このように将来公的年金の保険料率を押え、支給額が減額されることから生じる間隙を埋めるために、雇用者の積立方式による事業所(企業)年金と個人年金を新たに導入し、これを国家が助成して、2008年までに助成額として年間200億マルクを支出する。
  3. 個人年金の積み立てについては、助成として国家が税制上の優遇措置を取り、積み立てる保険料につき、税込賃金に対する一定の割合を一定限度額まで非課税とする。この割合は、2001年から税込賃金の0.5%とし、段階的に引き上げて2008年にはこれを4%とし、一定限度額は、2001年度は約520マルク/1040マルク(独身/夫婦)、これを平均所得の上昇にスライドさせて段階的に引き上げ、2008年は現在の賃金水準から換算して約4130/6260マルク(独身/夫婦)と想定する。また、中低所得者層に対する助成としては、特別の基本手当を支給する。この基本手当として、2001年から年間37.50マルク/75マルク(独身/夫婦)を支給、また、子供1人につき特別手当45マルクを支給、これを段階的に引き上げて、2008年には300マルク/600マルク(独身/夫婦)、子供1人につき360マルクとする。さらに、個人年金の積み立て方としては、生命保険、銀行貯蓄計画、投資基金等が可能で、最低限払込保険料の返還が保証される。
  4. 事業所年金については、雇用者は賃金の一部を積み立てて、使用者に対して事業所年金の設置を請求できる。これは、雇用者が個人レベルで請求することも、事業所協定、労働協約で定めることもできる。積み立てる賃金は、所得税、社会保険料の徴収を免除されるが、積み立てうる最高額は、税込賃金の4%を限度とする。また、最低額も定められ、これは2001年は約350マルクであるが、将来はこれを賃金の上昇にスライドさせて定める。

政権交替以来、法案策定の中心となったリースター労相は、このように長い期間をかけて、野党とのコンセンサスをも図りながら法案発表にこぎつけたが、法案に対しては経済界と労働側の双方が異なる理由で批判している。

労働側の批判の中心は、将来の年金支給水準の低下と、新たな事業所年金と個人年金の積み立てが雇用者だけの負担にかかることである。エンゲレン・ケーファー労働総同盟(DGB)副会長は、年金支給額を今日の水準に維持すべきことを強調し、また、個人年金等について使用者側の負担を認めるべきことを要求している。同副会長は、公的年金を補完する新たな個人年金等の導入自体は必要だが、雇用者のみの負担は、年金財政についての労使折半の原則を空洞化させることになると、法案を批判している。

他方、フント使用者連盟(BDA)会長は、2030年までに公的年金の保険料率が22%まで引き上げられることを厳しく批判し、これを認めると社会保険等の負担を40%以下に押える目標が長期的には崩れることになり、企業の負担が過大になると警告している。また、同会長は、個人年金等の導入は正しい方向だと賛成しながら、税制優遇措置が不十分で、さらに、立法過程で改善されねばならないとしている。

このように、労使双方の異なる観点からの批判はあるが、政権交替以来のシュレーダー政権の懸案だった年金改革は、紆余曲折を経て、リースター労相の改革法案発表にまでこぎつけ、今後はこの法案を土台としてさらに、コンセンサスが図られ、シュレーダー路線がさらに、一歩前進することになろう。ちなみに、連邦議会での本格審議は11月から予定されている。

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