税制改革法成立

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年10月

1998年秋の政権交替以来、社会民主党(SPD)主軸の連立政権の懸案だった税制改革法が、2000年7月14日に連邦参議院で可決・成立し、前コール保守中道政権以来6年に及ぶ税制改革論議に決着をつけ、シュレーダー首相の現実路線がまた一歩前進して、地歩を固めることになった。

税制改革法案は前コール政権下で一旦1997年6月に連邦議会を通過したが、当時野党のSPDが多数を占める連邦参議院で否決され、同年10月に廃案となった。

翌年の政権交替後、シュレーダー首相はその中道現実路線の推進を図り、当初から大幅減税を内容とする税制改革法の成立を期し、1999年3月に連邦議会と連邦参議院で野党の反対を押し切って政府の1999年から2002年までの減税法案を可決させた。そしてこれが原因で、この減税を企業寄りだとするSPD左派のラフォンテーヌ蔵相は辞職し、同時に党首の地位も退くことになった。

その後1999年12月、シュレーダー内閣はさらにアイヘル新蔵相による法人税と個人所得税の減税を骨子とする2001年から2005年まで3段階の税制改革法案を発表し、2000年2月に閣議決定した。そして連邦議会は5月に野党の反対を押し切ってこの政府法案を可決したが、連邦参議院では現在保守中道の野党勢力が過半数を占めており、最大野党キリスト教民主同盟(CDU)は対案を示してあくまで法案に反対した。そこでシュレーダー政権は、2005年に最高税率を43%から42%にさらに1ポイント引き下げる妥協案を提示して野党勢力の切り崩しを図り、これが功を奏して野党の一部も賛成に回り、懸案の税制改革法を成立させるに至った。

税制改革法の内容は詳細にわたるが、法人税、個人所得税の大幅減税を中核とし、減税総額は600億マルク(1マルク=47.14円)になる。主要な内容は以下のとおりである。

(1)法人税関連

  • 従来物的会社(株式会社と有限会社)に対する課税は、社内留保利益に40%、配当利益に30%だったが、2001年から法人課税として一本化し、税率を25%に引き下げる。これに営業税を加算しても、物的会社の税負担率は合計38%に下がる。法人課税として25%課税後の株主と持分権者の配当利益については、その半額が課税対象となり、それに減額される個人の所得税率が課されることになる。
  • 中小企業対策としては、人的会社(合名会社:ドイツ企業の約80%、ドイツ法上は法人でなく、所得税の課税対象となる)につき、営業税を所得税から控除して優遇措置を講ずる。
  • 物的会社の持分権(株式、有限会社の持分)の譲渡益への課税の撤廃(2002年から)。

(2)個人所得税関連

2005年までに3段階で最高税率、最低税率を引き下げ、課税最低限を引き上げる。

  • 現行最高税率51.0%を、2001年48.5%、2003年47.0%、2005年42.0%に引き下げる。
  • 現行最低税率22.9%を、2001年19.9%、2003年17.0%、2005年15.0%に引き下げる。
  • 現行課税最低限1万3499マルクを、2001年1万4093マルク、2003年1万4525マルク、2005年1万5011マルクに引き上げる。

今回の減税につきシュレーダー首相は、法人税、所得税の大幅減税により、企業の投資と個人消費の拡大を図り、経済成長を促し、それと同時にドイツ企業の国際競争力の強化と雇用の拡大による失業対策を期するものだとしている。これに対しては、経済界、労働組合、有識者は概ね歓迎の意を表しているが、ドイツだけでなく、米国、英国等の市場関係者も好意的な反応を示している。

経済界では、エルンスト・ヴェルトケ・ドイツ連邦銀行総裁が、税制改革法は歴史的なもので、これでさらにドイツ経済の成長は0.5ポイント上昇し、ドイツの景気は他の EU 諸国の平均に追いつくだけでなく、追い越す可能性も出てきたとしている。同総裁はまた、これが EU 全体に対する好影響となって、米国の景気拡大との格差縮小に寄与し、共通通貨ユーロの強化にとっても好都合になるだろうとしている。

労働側では、労働総同盟(DGB)がつとに政府の法案発表の段階で、中流層以下の減税による消費拡大と景気刺激効果を評価し、法人向けの減税も容認できる内容だとしていたが、今回の税制改革法については、当初反対していた IG メタルも支持に回り、ドイツ職員組合(DAG)のウルズラ・コニツァー副委員長は、これによって内需の拡大が期待でき、特に企業の設備投資の拡大によりかなりの雇用の創出が期待され、経済成長、雇用創出の双方に改革法は寄与しうると述べている。

また外国の評価としては、例えばニューヨークの投資銀行レーマン・ブラザースのアナリスト、ジェフリー・デグラーフ氏は、ドイツは従来欧州の投資市場として弱かったが、今回の税制改革により、今後確実にドイツ市場への投資の拡大がもたらされることになるとしているが、その他、特に株式譲渡益への課税が撤廃されることにより、ドイツの投資市場としての条件が改善し、企業売却や買収等進行中の企業再編がさらに進み、産業界の競争力の強化につながると見る向きが多い。

税制改革法のドイツ国内政治への影響も見逃せない。コール前首相の闇献金疑惑からの立て直しを図りつつあるCDUのメルケル新体制が、連邦参議院での敗北でさらに打撃を受け、執行部批判に見舞われ、政策立案等の立て直しを迫られることになるのは当然であるが、他方、シュレーダー首相の中道現実路線が、2000年1月の「雇用のための同盟」の共同声明(本誌2000年4月号参照)、2000年度賃金協約交渉のこの共同声明に即した柔軟な妥結(本誌2000年6月号参照)につづき、新たに得点を加えたと評価されている。ちなみにラフォンテーヌ前SPD党首兼蔵相は、今回の税制改革についても企業よりだとして、シュレーダー首相の路線を厳しく批判している。

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