失業の5類型と失業保険の整備

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年9月

公式発表では、1998年末に、全国の登録失業人口が600万人を上回り、都市部失業率は3.1%となっている。1999年には、労働力人口はさらに2374万人が増加し、そのうちの1620万人が就職できない状態にある。中国労働保障報は、失業の現状を分析し、中国では5種類の失業が存在すると説明する。

都市部の隠れた失業とその顕在化

計画経済時代に、都市部では完全就業を実施し、国有企業は、大量の余剰労働者を抱え込んでいた。改革開放以降、国有企業も市場競争にさらされ、利潤の最大化を経営目標にしなければならなくなった。かつての国有企業内に隠された企業内失業も次第に顕在化され、社会全体における失業問題に転じつつある。1997年、98年および99年、国有企業の下崗(一時帰休)労働者がそれぞれ634万人、595万人および650万人となったのは、まさにこのような隠れた失業問題の顕在化の現れである。

農村部の隠れた失業とその顕在化

改革開放前、農村部では生産大隊や人民公社を単位として農業生産を行い、農村労働力のほぼ全員に仕事を与え、余剰労働力の問題は隠蔽されていた。農村人口の増加と農業生産技術の向上に従い、農村における隠れた失業はますます顕著となった。1953年から78年の間に、農地の増加はわずか3%であったにもかかわらず、農村労働力は2倍にも増えた。改革開放後、家庭を単位とする請負責任制が導入され、各家庭は、合理的な労働力配置を迫られ、余剰労働力は、農業から離れ、漁業、林業、牧畜業及び郷鎮企業に移転し始めた。戸籍管理の緩和に従い、都市部に入り就業する農民も増えてきた。しかし、こうした非農業部門では、すべてを吸収できず、農村余剰労働力も次第に失業者として顕在化した。

以上の2つが中国特有の失業問題とすれば、次の3つは、市場経済のどの国にも見られる普遍的な失業問題である。

摩擦的失業

都市部の国有企業下崗労働者の相当な部分がこの類型に属する。つまり、農村労働者の都市流入に従い、低賃金や労働条件の厳しい仕事は農民労働者に回され、低賃金を甘受せず、よりよい就業機会に巡り合うまでしばらくの間失業を受け入れる都市部労働者は、自発的労働者とも呼び、摩擦的失業に属する。

構造的失業

産業構造の調整や新旧交代により、紡績、石炭、鉄鋼、機械などの産業では、技能が単一的である労働者に対する需要が大幅に減少し、コンピュータ、電子、生物化学などの新規分野では新たな技能を持つ労働者を必要としている。しかし、労働者が新たな技能を身につける再訓練には時間が必要であり、労働力供給が需要の変化に追いつかず、構造的失業問題をもたらしている。

周期的失業

経済の周期変動に伴い、周期的失業問題も現れてくる。1953年から91年の間に、中国では合わせて6回の大きな経済変動が起き、そのたびに、失業率に大きな影響を与えている。1984年と85年のGNP成長率はそれぞれ13.6%と13.5%であり、都市部の失業率もそれぞれ1.9%と1.8%にとどまっていた。しかし、不況に襲われた1989年と90年では、経済成長率がそれぞれ3.3%と4.8%に下がり、失業率もそれぞれ2.6%と2.5%に上昇した。

失業保険の整備

隠れた失業を顕在的な失業にするためには、失業保険制度の整備が不可欠である。しかし、失業保険の整備は時間が必要なため、1990年代の後半から、国有企業改革の加速に伴う余剰労働力の急増に対応して、「下崗」が過渡的な政策として導入され、リストラにあった国有企業労働者は、そのまま完全失業者になるのではなく、しばらく各地の再就職サービスセンターに身をおくことになっている。しかし、再就職センターはあくまでも一時的な措置であり、2000年以降、次第に社会的な失業保険制度に取って変わられつつある。失業保険金を受け取る失業労働者が次第に増加するにしたがって、再就職センターに入る下崗労働者は減少していく。1999年末の統計では、全国的に失業保険対象労働者と下崗労働者の比率は17対100である。浙江省、北京市、福建省、上海市、江蘇省、山東省および広東省などの沿海地域の平均では、比率は50対100となり、その中で、浙江省と北京市では、失業保険給付労働者数はすでに下崗労働者を上回るようになった。

労働保障部の構想は、3段階に分けての失業保険制度へのシフトである。最初は、2つの制度が並存する段階である。下崗労働者は再就職センターに入り、失業者は失業保険給付対象となる。次の段階では、新たなリストラ労働者は直接失業者となり、すでに再就職センターに入った労働者は現状を維持する。最後の段階では、失業者、新たなリストラ労働者及び再就職センターにいる下崗労働者が、労働市場に入り、失業者として統一される。現在、沿海地域や条件が整った内陸の都市は、すでに第2の段階に入りつつある。1999年には、失業保険加入者は9912万人になり、これまでの最も高い数字に達した。失業保険基金の収入も120億元に達し、1998年より52億元も増加した。労働保障部の2000年度の目標は、失業保険給付者が1999年より1500万人増加することである。

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