経営者に年俸制、技術者に実力主義賃金を導入

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年9月

朱鎔基首相が1998年就任時に打ち出した「3年以内に大多数の国有企業を苦境から脱却させる」公約がここにきて現実味を帯びてきた。その背景には「下崗」と呼ばれる大胆なリストラ、利下げ、国有債権の株式転換などの効果以外に、多くの国有企業で、経営者や技術者を中心とするダイナミックな実力・業績主義に基づく賃金体系の導入が最近目立ってきていることがある。

経営者に年俸制を導入

国有企業では、経営能力の高い経営者がしかるべき報酬を受け取れないため、仕事に消極的で、任期内に企業資源を無駄に使う傾向がある。他方、能力に欠ける経営者が多く、国有企業経営者の待遇向上に対して国民の抵抗が大きい。いかにして国有企業の有効なコーポレート・ガバナンスを構築し、有能かつ職業倫理をもつ経営者を選抜するかが、重要な課題である。経営者の市場価値を認め、従来の役所による経営者任命を変革させ、経営者の任命権を非国有株式の株主に移譲し、非国有部門から経営者を選抜することも議論されている。

このような変化はすでに現れている。北京市の大手民営ハイテク企業・四通グループの董事長(会長)である段永基氏は、最近、国有企業である中関村科学技術株式会社の社長に就任した。非国有企業経営者の国有企業経営者への就任は、大きな話題を呼んだ。北京市は、従来の経営者行政任命制度を改革するため、今後、国有企業への経営者招聘制度を逐次実施していく予定である。

このような動きに伴って、経営者の報酬制度にも変化の兆しが現れた。沿海都市では1990年代の初期に、経営者年俸制賃金がすでに部分的に導入されはじめた。最近では、年俸賃金は経営者の努力を評価し、インセンティブを引き出す合理的な制度であると、マスコミでも頻繁にいわれるようになった。現在27の省と市が経営者年俸制を認めており、実施している国有企業は6700社に及んでいる。

2000年春の全人代で朱鎔基首相は、「施政報告」の中で一部の国有企業における総経理と工場長の年俸制賃金の実施に言及し、その後、全国企業賃金会議が開かれ、年俸制を2000年度賃金改革の主要項目として決定した。

国家統計局企業調査チームは、最近、北京、上海、重慶の3市及び江蘇、山東、河南、湖北、広東、四川の6省における国有企業経営者の年俸制実施状況に対して調査を行い、国有企業経営者の年俸賃金のばらつきが大きいことが分かった。この9つの省と市の国有企業経営者の年俸賃金は、最低額の2000元から最高額の数百万元までばらばらであり、地域間の格差も大きい。

例えば、四川省の経営者最高年俸は100万元以上で、企業従業員平均賃金の約200倍に達しており、最低年俸は2万5000元で、従業員平均賃金の5.8倍である。河南省国有企業経営者の最高年俸は5万4000元で、企業従業員平均賃金の5倍、最低年俸はわずか3720元で、ほぼ従業員平均賃金に等しい。北京市では国有企業経営者年俸制が2000年度から実施され、国有工業企業の董事長(会長)、総経理と工場長(社長)が「試行対象」とされ、その基本年俸は、当該企業従業員平均賃金の約3倍の最高額から同約1.5倍の最低額までと定められている。基本年俸以外に、経営者の実際の業績に基づき、業績年俸が設けられ、その基準は基本年俸の2~3倍となっている。

国家統計局企業調査チームの調査によれば、国有企業経営者の年俸は、基本報酬と業績報酬の2つからなっており、一部の地域と企業では、さらに奨励報酬を取り入れている。基本報酬は、企業規模及び企業従業員平均賃金に基づき定められ、業績報酬は、企業の業績指標に基づき決定されている。奨励報酬は、経営者の特別な貢献に対して支給される。

2000年5月に、北京で人的資源の開発と管理をテーマとしたフォーラムが開催され、世銀北京事務所の張春霖博士は、国有企業経営者のインセンティブ・メカニズムの構築について、3つの解決策を語った。まず、国有資産の融資コストをチェックし、市場利益を追求するメカニズムを確立しなければならない。また、国有企業の株式を多様化させ、非国有株主を容認する。さらに、有効なコーポレート・ガバナンスを構築し、経営陣に対する株主、債権所有者、従業員、社会の監督体制を作ることである。中国人民大学労働人事学院の會湘泉院長は、国有企業と非国有企業の収入格差から、官僚や国有企業経営者が手中の権力を悪用して、非合法収入の取得に走ることを憂慮し、国有企業の賃金改革の必要性を訴えた。

利益配分に技術要素を反映

国有企業では、余剰人員を多く抱えているため、報酬などにおいては非国有企業に太刀打ちできない。いかにして企業のコア人材を確保するかは、国有企業にとってますます重要な課題になっている。改革開放以降、かつての固定給が消え去り、現在、ほとんどの国有企業は、崗位(職位、ポスト)賃金を実施している。しかし、崗位賃金として、同一職位にある技術者の賃金は同様であり、個人の業績や貢献とはリンクされていない。1990年代以降、企業間の競争が激しくなり、非国有企業の高賃金による人材集めの攻勢にさらされた国有企業は、重要ポストを担う技術人材の流失で、競争力低下に直面していた。世界的に知識経営に対する風潮が高まる中で、中国のWTO加盟を控え、国有企業は知識・技術人材に対する考え方の変革を迫られ、科学技術人材に対するインセンティブ・メカニズムの導入に動き始めた。労働保障部劉副部長は全国企業賃金会議の席上で、賃金配分の改革に言及して、6000社余の国有企業経営者年俸制の試行に伴う、技術人材のインセンティブ・メカニズムの構築を新しい戦略として位置づけた。技術人材の賃金体系の変革として、最近では、技術要素の利益配分への反映が注目されている。

北京市の北人グループ第四印刷機工場は、1997年から国有企業の中ではじめて交渉賃金を導入し、注目を集めている。第四印刷工場の交渉賃金は,協議賃金とも呼び、その内容としては、従業員の賃金額は、労使双方の意思に基づき、労働市場の取引法則に従い、経営側と従業員が協議して決定することである。交渉賃金は、従業員の職位を考慮しただけでなく、個人の業績と直接リンクしているため、年功的な賃金制度を否定した業績賃金を実現したものである。1998年に、この工場は技術スタッフに対して交渉賃金を導入し、技術要素を直接利益配分に盛込む試みを始めた。以降の2年間に、この工場は、2つの新製品の開発に関わった20名の研究開発スタッフに、約束通りに売上げから9万6533元を支給した。工場の若手設計スタッフ王錫燕氏が開発した拡版印刷機は、現在、工場の主力製品になっており、1998年に量産化してから、初年度に1762.7万元の売上げを実現し、会社全体の売上げの16%を占め、99年にはさらに33%を占めるようになった。王氏の利益配分も、1998年の5979元から99年の1万3145元に上がった。深セン市など南の都市と比べると、北人グループの技術者インセンティブ・メカニズムの試みは、まだ極めて低額であるが、将来的にみると、その影響は決して軽視できない。

深セン市では、ハイテク産業の発展が急速であり、現在、市のGDPに占める割合は4割に達している。その理由の一つは、市政府が技術産業の発展を重視しており、技術要素の利益配分への参加を奨励していることにある。深セン市では、他の地域よりさらに一歩進んで、国有企業の中で技術要素を株式に転換する試みを展開した。イギリス留学で博士号を取得した瀋浩氏は、自己の専門技術を510万元と換算し、そのまま株式として、国有企業と合弁する形で、深セン漢徳化工塗料有限会社を設立した。瀋氏は17%の株をもち、自ら総経理に就任した。

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