私営企業の発展と家族経営

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年8月

1997年の中国共産党第15回大会は、非公有制経済を中国の社会主義市場経済の重要な一部であると決議し、1998年3月の全人代では、それを憲法に書き加えた。さらに、2000年1月には、「個人独資企業法」も成立した。非公有制経済の地位の確立に従って、中国では私営企業数は急速に伸びている。国家工商行政管理局の最新統計によると、1999年末現在、私営企業の数は1510万社に上り、従業員は2020万人、登録資本金は1億287万元となっており、私営企業からの納税は、国家税収の8.5%を占めるまでになった。浙江省、広東省、江蘇省などの沿海地域では、特に私営企業の発展の勢いが盛んであり、すでに郷鎮企業のうちの半分を占めている。私営企業の規模も拡大しており、平均して1社当たりの登録資本は68万元であり、そのうち、登録資本金が100万元を上回る私営企業は20万社を超えている。

家族経営は私営企業の発展を制約する

私営企業は、国有企業や集団所有制企業と比べて、行政からの干渉や経営介入がなく、親族同士によって運営されているものが多い。そのため、成長が早く、創業後1、2年のうちに、同地域同業者のハイ・クラスに上りつめる企業も少なくない。しかし、家族経営はメリットだけでなく、企業発展の致命的な欠陥にもなっている。

浙江省の有名な私営企業経営者祝強氏は、1985年に勤務先の国有企業をやめて、わずか700元の資本を元に地元の縉雲県で起業し、文房具や工芸品の生産を始めた。そこで得た利益を元に、1992年に、祝氏は十数名の親族を連れて、杭州市で新たな工場を設立、高血圧を治療する医療器具を開発し生産に踏み切った。製品は全国市場で大きな成功を収め、アメリカ子会社を設立して、アメリカをはじめ外国市場に進出した。会社の資産も数千万元に増加した。しかし、事業が絶好調の最中、祝氏の親族でもある副社長は、利益配分に不満があることを理由に、祝氏に対して訴訟を起こした。長い訴訟に疲れ果てた祝氏は、会社経営をおろそかにし、企業は急速に凋落した。

これは1つの典型例であるが、私営企業の家族経営の問題点を表している。

まず、家族経営の私営企業では、家父長型企業主の意識遅れがよく指摘されている。多くの私営企業主は、会社を興す時に非凡な力を示しても、企業を経営する中で、企業資産を個人財産と見がちで、現代的な経営知識やノウハウが乏しく、他人の意見に耳を貸さず、製品の新規交替にはまったく無策である。また、家族経営の私営企業主の多くは、目先の利益に満足し、大きな投入による生産拡大や新たな挑戦には消極的である。家族経営の私営企業は、数十万元の経営規模にとどまっていることはその証しといえよう。さらに、家族経営の私営企業は、創業の段階では、創業メンバーが成功を目指して互いに協力し合うが、成功を収めた段階になると、利益分配をめぐって意見が対立し、分裂に導くことも少なくない。親戚同士で創業した者には、明確な所有者・経営者と雇用労働者の関係が成り立たず、企業経営が軌道に乗っても、上下関係に基づく正常な組織運営には至らない。

家族経営の存在は、私営企業のさらなる発展の制約となっており、多くの私営企業は、厳しい市場競争から淘汰されている。浙江省を例にとれば、1997年に省全体で廃業や登録取り消しになった私営企業は6000余社であったが、98年には8000社、99年には1万5412社と、廃業率の増加が目立っている。

家族経営を乗り越えてさらなる発展を求める私営企業

私営企業をいっそう発展させるためには、まず家族経営の枠を乗り越えなければならない。ビジネス界や私営企業主の中でこのようなコンセンサスが形成されつつある。

浙江省最大の私営化学工業企業である伝化グループはその好例である。伝化グループは、家庭作業場からスタートして、創業からわずか10年で、ハイテク型の近代企業集団に成長した。アメリカや日本などの5社の世界的な化学工業企業との間に技術協力関係をもち、これまで20種類以上の新製品が、地域や国家レベルで表彰されている。500人の従業員のうち、25%が大卒以上の学歴を有し、その中の二十数人は、グループの上中層の経営管理職を担っている。企業の創業者である徐氏一族は、会長の徐伝化氏とその2人の子息を除いて、1人も経営幹部に処遇されていない。徐会長も、主に市場販売など外部折衝に携わっており、会社の運営管理は経営の専門家に任せている。家族経営を脱した伝化グループは急速に成長し、グループ全体の売上は4億元を超えるようになった。

国有企業とは異なり、最初から財産の所有権が明確な私営企業にとっては、いかなる人事労務管理システムを構築し、従業員にモチベーションを持たせるかが、企業発展のキーポイントになる。そのために、私営企業は家族経営から脱皮し、外部から優秀な経営・技術人材を導入しなければならない。成功した私営企業は、有能な経営人材に高賃金を支給し、経営権を付与することに努めている。

次に必要なのは、民主的な経営管理制度である。私営企業は、家父長支配の経営体制から民主的な経営管理に転換し、明確な制度やシステムを確立させ、それに基づいて経営管理を行わなければならない。さらに、利益配分の透明性が必要である。人事評価や人事考課のメカニズムを確立し、評価基準を明確にし、それに基づく利益配分を行わなければならない。

市場経済の波が押し寄せる中国では、私営企業は、いかに家族経営の弱点を乗り越えるかが問われている。

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