行政機構改革に伴う行政部門や大学などにおける人事制度の改革

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年5月

朱鎔基内閣が掲げた三大改革には、国有企業と金融制度の改革以外に、行政機構改革がある。行政機構改革は、1998年に国務院から始まり、すでに国務院の部門や人員を半減するまでの大手術を施しており、1999年に各省や直轄市に浸透し、2000年には県レベル以下の行政構造改革を策定している。国有企業改革に伴う企業レベルでの労働人事や賃金制度の改革が大分実施されているが、今後、行政構造改革に伴って、行政機関、大学及び研究機関などの公共部門の労働人事制度改革の起動に向けて、国家人事部は公的部門における労働人事制度の改革案の策定を急いでいる。

1998年までに、中国では企業単位と区別して「事業単位」と呼ばれる公共部門は130万を数えており、従業員は2918万8000人になっている。そのうち、研究者の70%以上や教育者の95%は国の各種の教育・研究機関に集中している。計画経済時代には、「事業単位」の経営効率が無視されており、組織と人員が肥大化し、業務効率が悪化していた。平均主義的な賃金と福祉制度は、従業員の労働意欲を損ない、優秀な人材は近年、外資系企業などに流出している。北京大学の張維迎教授は、WTO加盟後に中国経済のグローバル化が加速し、古い労働人事及び賃金制度は、維持できなくなると警告を発している。張教授によれば、改革開放が実施されてから20年間のうちに、数多くの優秀な人材は海外や外資系企業に流れ込み、国有企業は外資企業の人材育成基地となってしまった。近年における情報通信分野の規制緩和に伴い、エリクソン、モトローラ、ノキアなどの多国籍企業が進出して、また多くの先端技術人材を飲み込んでいる。今後、WTO加盟に伴い、金融や保険業などの規制緩和が実施されれば、同じことがまた繰り返して起こるに違いない。張教授は、この20年来における外資企業への人材移動は、主に技術者に集中していたが、今後、管理部門の人材の流出が増加すると見ている。

しかし、「事業単位」は企業よりも歴史が長く、定年退職者の数も多い。古い労働人事制度の改革は企業改革よりも難しい。国家人事部は、まずこれまでの一律の人事と賃金制度を改め、異なる「事業単位」ではそれぞれ異なる人事や賃金制度の実施を認めることからスタートする考えである。経営良好な「事業単位」は、請負制を導入し、自ら人事や賃金体系を定めることも認められる。「事業単位」に勤める者の兼職や兼任及びそれによる賃金収入も認められることとなる。重要な科学技術の発明・発見あるいは特別な貢献をした者に対して、大きな報奨も行うこととなる。

このような動きに応じて一部の「事業単位」では、賃金制度の改革を始めている。トップクラスの清華大学では、1999年1月から、学内の教職員をその職位に基づき9つのレベルに分けて、従来の賃金以外に、それぞれ5000人民元から5万人民元(1人民元=12.66円)までの9等級の職位手当を支給する制度を導入した。このような賃金制度の改革を通じて、仕事の業績と収入を直接リンクさせ、大学全体の経営をより教育と研究に傾斜させた。

「事業単位」の改革は、賃金などの所得に格差をつけるだけでは不十分であり、それに合わせてその他の制度改革が必要とされている。国務院は、「大釜の飯を食う」といわれるこれまでの体制を変化させるために、市場経済に適する新たな「事業単位」の労働人事制度を策定しており、改革の波は、国有企業から行政機関や大学などに及びつつある。

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