(香港特別行政区)パシフィック・センチュリー、香港テレコムを買収

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年5月

ケーブル & ワイアレス香港テレコム(C&W HKT;旧香港テレコム)とシンガポール・テレコム(Sing Tel)の対等合併の話が進展していた矢先、急成長する香港最大のインターネット企業パシフィック・センチュリー・サイバーワークス(PCCW)が C&W HKTの買収に乗り出し、その後2月中舞台裏で激しい動きが展開された。この動きは、アジアでも進む情報通信事業の大規模再編の流れの中でにわかに注目を集めていたが、C&W HKTの英国の親会社ケーブル・アンド・ワイアレス社(C&W)が2月29日、PCCWの提示条件を受諾したことで、PCCWによる買収が最終的に決定した。

PCCWが名乗りを上げた後、香港筋では、Sing Telの株式の80%をシンガポール政府が所有することから、新会社に対する同政府の介入を懸念する向きもあり、また、Sing Telの顧問会社だった HSBC ホールディングズ社がその地位を去り、中国国際銀行(BCI)とともに PCCWに100億米ドルの資金供与をするという動きもあった。そこに2月28日に至って、オーストラリアのメディア王ルパート・マードック氏の率いるニュース・コーポレーションが10億米ドルを投資して Sing Telとの資本提携に乗り出し(発行済み株式の4%を取得)、インターネット事業、双方向テレビなどの新メディア事業で幅広く提携していくことで合意したと発表した。この資本提携には、急成長するアジアの情報通信事業の再編にマードック氏が加わるとともに、Sing Telの資金的基盤を強化して、C&W HKTとの合併交渉を有利に展開する狙いもあり、PCCWとの買収合戦がさらに注目されることになった。しかし、最終的には後から名乗りを上げた PCCWが、2964億1000万香港ドル(1香港ドル=13.46円)を投入してアジア最大の買収劇に勝利することになった。

PCCWはリチャード・リー氏に率いられ、香港のハイテク集積地「サイバーポート」の開発に携わる中核企業でもあるが、同氏はまた携帯電話、スーパーマーケット、不動産等幅広い事業を手掛ける香港最大の財閥「長江グループ」の総帥李嘉誠氏の次男でもある。このリー氏に率いられる買収後の新会社の名称は、パシフィック・センチュリー・サイバーワークス香港テレコム(PCCW-HKT)となり、株式時価総額5336億3000万香港ドルに達し、アジアでは日本の NTT に次ぐ巨大情報通信企業となる。新会社は、C&W HKTが英国統治時代から地元で持っている確実な広域通信網の基盤を利用して、インターネット事業をさらに拡大、展開していくという。

香港筋では、この買収劇の過程でシンガポール政府の介入を嫌う中国政府からの圧力が舞台裏であり、それが地元の PCCWの勝利につながったという憶測も存在したが、アンソン・チャン政務官は、買収の過程でも買収後にも終始一貫して、あくまで今回の買収は香港の自治の範囲内のビジネスの問題で、北京の政治的圧力は存在しなかったとしている。ただ地元の専門筋は、新会社は香港のインターネット市場を席巻し、今後急成長する中国本土市場へ進出する確実な足場を固め、リー氏の父李嘉誠氏の長江グループが中国政府並びに本土企業に対して持つ密接なパイプは、少なからず役立つだろうとしている。

この買収劇の過程で C&W HKTの従業員は、買収後のレイオフを懸念し、香港市場で高騰する同社の自社株を保有しつつ、状況の推移を見守っていたが、C&W HKT関係の主要3労組は、リー氏が買収直後の2月29日に現時点での新たなレイオフを考えていないと発言したことを歓迎した。ただ買収後の運営で、新会社の組織の合理化、コスト削減のためにレイオフが行われる可能性は払拭しきれず、組合側はこれに懸念を抱くとともに、現在の給与・手当を削減しないよう要望している。

今回の再編劇は、メディア王マードック氏の参入も加わって、アジアの情報通信市場で香港とシンガポールという2大拠点を足場に国境を越えた買収合戦が本格的に到来したことを象徴するもので、敗れはしたが、シンガポール政府が強力に後押しする Sing Telの今後の巻き返し戦略も含めて、中国本土市場も含めた今後の動きが注目される。

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